Coming Up Roses 『Coming Up Roses』-Review  シンガポールの新星による3作目のEP

Coming Up Roses 『Coming Up Roses』 

 

 

Label: Self Release

Release: 2024/04/27

 

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Review


謎めいた新人がロンドンに登場する。シンガポールで結成された四人組のオルタナティヴロックバンド、Coming Up Rosesは英国に活動拠点を移動し、近日中にロンドンでのライブを予定している。エミリー・セラ (ヴォーカル/ベース/ シンセ)、ダリウス・オーン(ギター、シンセ、パーカッション)、チャーリー・ウィルソン (ギター)、ケイレブ・ブレイク(ドラム)で構成される。


シンガー/ベーシストのエミリー・セラが率いるComing Up Rosesは、ダイナミックなライヴ・ショーと心に響く歌詞のテーマによって、東南アジアで最も有望なアーティストのグループとして頭角を現しつつある。


台湾やインドネシアでのツアーに加え、カナディアン・ミュージック・ウィーク、フレッド・ペリー・サブカルチャー、アレックス・ブレイク・チャーリー・セッションズなどのフェスティバルにも出演している。

 

Coming Up Rosesは、シンガポールで結成後、デビュー作『Waters』(2018年)と2nd EP『Everything Is』(2022年)の2枚のEPをリリースしている。2024年4月、シングル「Don't Let It Break Your Heart」と「Back The Way We Came」に先駆けて、セルフタイトルの3rd EPをリリースした。 

 

セルフタイトルには4曲が収録。コクトー・ツインズを彷彿とさせるドリームポップとシューゲイズギターが融合している。音楽的には1980年代のUKロックの既存のスタイルに準じているが、エミリー・セラの伸びやかなボーカルは、シューゲイズサウンドに華やかさと明るさをもたらしている。

 

このEPで、セラは英語の歌詞を通じて個人的な人間関係や人生について歌っている。


#1「Don't Let It Break Heart」は彼らを知らぬリスナーに対する名刺代わりのナンバーだ。シューゲイズギターとシンプルなリズム構成に加えられるエミリーのボーカルのフレーズはバンドの音楽に聞きやすさをもたらす。

 

2曲目に収録されている「Back The Way Come」はバンドの飛翔作と言えるかもしれない。Say Sue Meを彷彿とせる純粋な感情を込めたメロディアスなロックが展開される。音の運びやバンドアンサンブルは簡素だが、カナダのAlvvaysを思わせるパンキッシュなメロディーが込められている。それらが世界水準に達しているかは分からないけれど、この曲の中にはオルタナティヴロックの普遍的な魅力があるのは明確である。ボーカルはポピュラリティーが重視されているが、アウトロのダリウス・オーンのギターリフにはアルトロックのニュアンスが含まれている。今後、バンドサウンドの中で、どのようなエフェクトを及ぼすのか楽しみである。この曲のアウトロにかけてのエレクトロニカ風の音響効果の導入を見るかぎり、バンドのスペシャリティーが少しずつ芽生え始めているように思える。

 

バンドはセルフタイトルの4曲の中で、音楽の複雑化を極力避け、簡素化にポイントを置いている。このバンドの武器ともいえるドリーム・ポップやオルタナティヴロックの音楽性が目立つ中、#3「Silence」では、アコースティックギターの演奏をフィーチャーし、エモーショナルなインディーフォークのナンバーに取り組んでいる。


エミリー・セラの英語のボーカルには少し訛りがあるのだけれど、それらは洗練されていない”純粋な魅力”としてリスナーの心を捉える。CURの音楽はまだまだ荒削りな側面があるため、バンドサウンドとしてすべてが完成したわけではないかもしれない。しかし、成長過程にあるがゆえ、潜在的な魅力が込められているように思える。演奏の揺れや生きた休符を重視したバラード風の叙情的なインディーフォークは、シンガポールのポピュラー・ミュージックが反映されている。そしてアジア的な響きに加えて、挨拶がわりの英国のフォークに対する親しみもあるようだ。それはタイトルにあるように、シューゲイズバンドとしての性質の対極にある静寂の側面を示唆する。

 

EPのクローズ「Why」は、カナダのデュオ、Softcultを彷彿とさせる抽象的な音像を持つシューゲイズソングである。Alvvays、Sobs、Bleach Labのような口ずさめるキャッチーなメロディーの要素が押し出され、音響派のような抽象的なディストーションギターで縁取られる。ノイズポップ性には、Evanesenceのような要素も感じられ、メタリックな音楽性に近づく瞬間もある。


しかし、これらのノイジーなサウンドの渦中にあろうとも、バンドサウンドがドリームポップのスペシャリティやエモーションを失うことないのが彼らの素晴らしさ。また、セラのボーカルはオーガニックな雰囲気があり、オープンハートな感覚に満ちている。EPには、4人のメンバーの深い友情や信頼関係が感じられる。それは感情的な温かさとして胸に迫るものが込められています。


 

 

 80/100




 

Best Track-「Back The Way Come」