アポロの杯「船の挨拶」「燈台」@座・高円寺2 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

 三島由紀夫の作品だけを上演する団体 “アポロの杯” の旗揚げ公演です。「船の挨拶」と「燈台」のダブルビル。私は日本人作家の戯曲舞台はほとんど観ないのですが、三島由紀夫は別。大好きな作家だし三島は戯曲もたくさん書いているので、できるだけ観るようにしています。個人的好みとして、三島作品は小説より戯曲の方が面白い。戯曲は小説に比べると文や言葉の技巧性が和らいでいて、三島自身が発する美しいセリフが真っ直ぐに伝わってきます。今回上演された2作品もなかなか良かったです🎉

 

「船の挨拶」

演出 木澤譲

直塚和紀

 1955年発表の作品で一人芝居です。ネタバレあらすじ→小さな海峡に面した小島に立つ灯台、その下にある見張小屋で一人働く灯台守の青年。仕事は海峡を通過する船舶を望遠鏡で観察しその情報を電話で報告すること。彼はひとつひとつの船に愛情といっていいほどの感情を寄せるが、船からの反応は信号旗による形式的な挨拶だけ。孤独と疎外感に包まれた生活。彼は誰かと、何かと繋がりたい。自分が透明になったような思いから、自分は何なのかと自問する。船が自分に何らかの感情的反応を見せてくれれば、自分は船と繋がり、海と繋がり、世界と繋がり、自分は確かに存在するのだと実感できるのに。好意でなくてもいい、悪意でも敵意でもいい、感情を示してくれるなら、とすら思っている。そこに一艘の怪しい船が現れ、乗組員が彼に銃を向ける。彼は相手が狙いやすいように身体を窓にさらす。弾丸が彼の胸を貫き💥その熱い痛みを体内に感じたとき、彼は、船からの挨拶がやっと自分に届いたと喜び、自分は確かに存在したのだと実感して死んでいく。終わり。

 

 結末の描写、青年のセリフが実に耽美でいかにも三島らしい。彼は船舶に対して激しい感情=片思いの愛情を募らせるけど、船舶を女性(あるいは男性)に置き換えても面白く、切なさや残酷さがよりリアルになり、皮肉な冷笑すら浮かんできそう。

 演技スペースとして使われるのは舞台の上手半分だけ。そこに白いテープで四畳半ほどの広さの四角いエリアが区切られている。それが青年の仕事場であり、自分の世界すべてであり、閉塞感を感じさせます。芝居の中盤、そこに蝶が、彼に関心を示すかのように舞い込んでくるんだけど、その羽音をチェロがバッハの曲で表している。良い演出だけど、チェロの音色がちょっと大きくてセリフが聞きづらかったのが残念でした😓

 

 

「燈台」

演出 原純

有岡蔵人/鈴木万里絵/小向なる/古賀豊/CHIRI

 1949年発表の作品。ネタバレあらすじ→50代後半の黒川には2人の子ども、昇(25歳)正子(19歳)がいる。妻が病死し、30歳のいさ子と再婚した。そのときから昇と義母いさ子は互いへの愛に密かに心を焦がし続け、2年が過ぎた。家族旅行で訪れた大島のホテル。近くに灯台があり、夜はその灯りが定期的に部屋に差し込む。2人きりになった昇といさ子は相手への愛情と本音をぶつけ合う。いさ子は感情を偽ったまま母と息子として静かに生活を送ることを望み、昇は2人の気持ちを今こそ父に打ち明けると言う。それを察した正子は兄の行動を遮り、昇は悲嘆にくれる。正子は、家族が進むべき航路を見失わないよう導くのは自分しかいない、自分は灯台だと言って絶望する終わり。

 

 正子は若いのに諦観していて、大人の世界は間違っている、その世界に入りたくない、大人になりたくないと言っています。彼女は現実を客観視し、正しいとされる道筋を皆に示すんだけど、それによって家族は却ってバラバラになってしまうようにも思えました。

 血の繋がりのない義母と息子との行き場のない情愛、ミニマルな舞台セットと相まって息苦しいほどの緊張感を生む一幕でした。芝居が展開するのはホテルの一室、昇と正子兄妹の部屋で、白いシーツで覆われた矩形のベッドが2つ置いてある。それはちょっと棺のようにも見えた💦 で、舞台奥にもう一つベッドが置かれている。そこは黒川といさ子夫妻の部屋という設定で、セリフはないけど2人は最初からそこにいる(戯曲ではそういう指定はない)。酔って寝た黒川を残していさ子が昇と正子の部屋を訪れたあと、黒川は起き上がって歩き回ったり考え込んだりという動きを見せます。この演出はとても良かったと思う👏 黒川は全て知っていると思わせるからです。そして最後、黒川夫妻は自分たちの部屋に戻るんだけど、そこで黒川はいさ子を乱暴に突き飛ばすんですよね🙀 それも戯曲にはない描写で、とても意味深な行動でした。

 

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