「ジキル&ハイド」@東京国際フォーラム | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

原作 ロバート・ルイス・スティーブンソン

脚本/詞 レスリー・ブリカッス

音楽 フランク・ワイルドホーン

上演台本/詞 髙平哲郎

演出 山田和也

石丸幹二/真彩希帆/Dream Ami/川上一哉/畠中洋/佐藤誓/栗原英雄

 

 鹿賀丈史さん主演版を観て以来の「ジキル&ハイド」再見です。石丸幹二さんって端正で理性的、洗練された紳士のイメージが強くて(←個人の意見です)、ジキルはぴったりだけどハイドは果たして……?と思い敬遠してたんですよね。その石丸さん、今回がラストステージになるということなので観ておきたいと思い足を運びました。石丸さん、ゴメンナサ~イ🙇‍♀️勝手な先入観に捉われていました。とーっても良かったです🎊

 

 お話はスティーヴンソンの原作とはだいぶ違っています。まず、原作小説は1886年に出版され、特定の時代には言及されていないけど、本作は1888年を舞台にし、切り裂きジャック事件が起こった年と重ねてある

 科学者ジキルが「人間の善と悪を分離する薬」を発明して自分を人体実験台にし、悪事を働いていくのは小説と同じだけど、そこに絡む、ジキルの婚約者エマと、ジキルが惹かれた娼婦ルーシーという2人の女性は、原作では出てきません

 ジキルの薬に嫌悪を示す病院の理事たち(=裕福な権力者)は、仮面を被った表の顔と利己的な裏の顔があり(例えば、そのひとり大司教は聖歌隊の少年にセクハラをしている😖)、変身したハイドは彼らを殺していくというのも本作だけの設定善と悪、愛と欲望、慈善と偽善など、さまざまな対立構造に焦点を当てているんですね

 また、ジキルが薬を開発した理由は「精神を病んで自分をコントロールできなくなっている父親を救いたい」からだとして、そこからさらに、人間から悪の要素を取り除き完全に善なる存在になれば、この世から戦いはなくなり平和になる、というジキルの理想につなげています。自分を制御できなくなり勝手にハイドに変身してしまった彼が、その場で親友ジョンに撃ち殺されるところで物語が終わるのも、原作とは違うドラマティックな終焉です。

 

 石丸幹二さんが表現する善&悪のキャラクター、もともと悪の資質が隠れていてそれが解放され恍惚となる……というふうではなかったな。序盤は完璧なジェントルマン&科学者、科学の力を肯定している真っ直ぐな人間でした。人は二面性を持っていると主張するけど、彼自信の中に悪の芽があるとはとても思えない。それは石丸さんのキャラそのものなので全く自然です。自分の研究を嘲笑・拒否されたことで焦りと怒りを覚え、研究・実験を続けたいという(この時点では純粋な)欲望がモヤ~っと湧いてくる。そこも、石丸ジキルだったらそうなるだろうと思わせる流れです。

 

 それだけに、ハイドになって見せる悪性とのギャップが激しかった💥 でも、隠れていた自分の野獣性が解き放たれそれに酔いしれるというより、その資質が自分にあることに驚愕し恐れ慄き、でも少しずつ、別の自分になってみたいという欲望に不本意にも支配されていくような感じ。そうやってエスカレートしていくところは色っぽくさえありました💖 ハイドによる束縛と支配がどんどん強くなり自分を締め付けていく、精神をハイドに蝕まれていく、その苦しさと戦いながら、自分の中にあるハイドの要素に最後まで抗っているように見えた。

 また、時々ジキルとハイドが混在しているような見せ方があったんですよね、ジキルのセリフの中にハイドが見え隠れするような、ジキルだけどハイドっぽい邪の面がのぞくような。意図してそう演じているのだとしたら人間の性格を構成する要素の複雑さみたいなもの(善と悪の二面性だけでは語りきれないもの)があることを表現しているみたいで、面白いと思いましたね。

 

 ハイドに変身した自分をもはやコントロールできなくなり、最後に叫ぶ「私を自由にしてくれ……!」が辛かった😭 あのときの彼は、エマに襲いかかろうとしたのではなく、まだジキルの一部が残っていてエマに助けを求めようとしたのだろうか。それにしても、ワイルドでしゃがれた高笑いを上げる下品な石丸さんも想像外でビックリしたけど、ルーシーの衣装の肩をはずし舌をベロベロ出して背中を舐める獣化した石丸さんにはエエエ~ッてなりましたね😅

 演技がとても繊細で、微妙なニュアンスもちょっとした動きで表現できるのはさすがです。当然ながら歌の力は圧倒的。時に華やかに時に怪しく、歌い上げたり語りかけたり独白したり、さまざまな歌唱のスタイルで聴かせる、魅せる。冒頭の「闇の中で」「知りたい」で一気にその世界に引き込まれたし、「時が来た」はショーストッパー、「対決」の表現も素晴らしかったな。

 

 ルーシーとエマ、女性2人についてはかなりステレオタイプな人物造形で、役柄としては面白味はないんですが(脚本の問題)、役者さんはとてもよかったです。ルーシー役の真彩希帆さん、艶めかしさの中に時々現れる純真さのバランスが絶妙で、凛とした芯を持ちながらどことなく寂しさを纏っている感じは、ちょっとミステリアスでもありました。歌は力がありのびやかで美しかった。エマ役のDream Amiさんも可憐でお嬢さま風な作りをよく出していたと思う。ルーシーとエマのデュエット「その目に」は同じ歌詞だけど、それぞれの立場によって意味が全く違っていて面白かったです。

 

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