技術的な議論において、若手技術者が否定的な意見を述べるだけで提案が少ない
公開日: 2025年3月10日 | 最終更新日: 2025年3月10日
若手技術者が否定的な意見を述べるだけで提案が少ない、
ということに対する技術者育成による対策を考えます。
否定的な意見を言うことは難しくない
技術的な議論において、一見すると意見を言っているように見える一方、
最も簡単な発言があります。
それが、
「否定的な意見」
です。
代表的な否定的な意見を2つ挙げてみます。
べき論は説得力のある否定的な意見
最もわかりやすいのは”べき論”です。
以下はほんの一例です。
- そもそも、本来このようは技術評価はここで行うことでなく、隣のチームで行うべきだ
- 当社には技術的な結果を判断するのに活用できる分析設備が無いのだから、その設備導入についての議論を行うべきだ
今目の前の技術業務を前に進めることこそが最優先であることがほとんどのはずで、
べき論を議論することに意義は無いことが多いです。
それでも、べき論を述べると一見正しいことを言っているように聞こえるため、
的外れではないという印象を与えることができます。
よって、一度はそのような意見に皆が耳を傾けることで、
仮に上記のような発言を若手技術者がした場合、
一理あると思わせる要素があるのも事実です。
多くの企業においてべき論に基づいた理想的状況から見れば至っていない部分はあるはずで、
それは大きな企業組織のチームでも同じです。
この環境でべき論をかざせば、
妥当な内容が含まれるのは必然とも言えます。
若手技術者に多い単純な否定的な意見
こちらの代表例は以下のような発言です。
- 今発表された判断結果について、自分は正しいとは思わない
もちろんこの後に何故そう思うのか、
という理由は述べるのは前提となります。
ただ多くの場合、何故そう思うのかの理由は長いばかりで的を射ていないことが多く、
結局最初の発言の裏を言っているだけにすぎません。
文言の最後に”自分はそう思う”という文言をつけることで、
あたかも自分の意見のように言っているものの、
裏を言うだけの発言に技術的価値はあまりありません。
ここで紹介した2つの例に共通して欠けるものを述べたいと思います。
若手技術者の否定的な意見には”提案がない”のがほとんど
若手技術者が前述の否定的な意見を述べる際、
共通することがあります。
それが、
「否定的な意見の後に続く提案が無い」
ことです。
既に述べた通り、べき論や対となる見解を示すことはそれほど難しくありません。
しかし、もし否定的な意見を述べた発言者である技術者に、
技術の専門家という誇りがあるのであれば、
「どうすれば課題を解決、または低減できるかという提案」
をすることにこそ、注力するべきだと思います。
単なる否定的な意見で終わるのか、
どうすればよりよくなるのかという提案まで出てくるのかでは、
発言を聞いた側の印象は180°違います。
では、どうすれば若手技術者に提案する力をつけさせることができるのでしょうか。
徹底した現場経験が第一
これはほぼ結論に近いですが、
「提案ができるようになるためには技術業務の実践経験を積むしかない」
といえます。
否定的な意見そのものは決して悪いことばかりではありません。
皆の考えが同じところに流されそうな際、
然るべき方向に修正するにも、
時に否定的な意見は必要です。
ただ、その否定的な意見が正しいと周りが理解するためには、
否定だけでなく、どうすればいいかの提案が必要なのです。
提案力は技術業務の経験数に比例する
提案をしようとする際、最も影響を与えるのが”技術業務の実践経験”の量です。
様々な技術業務経験を通して、
「何をすれば何が起こるのか」
という実行とその結果に関する理解を深めることができます。
この経験の数こそが、
「提案という引き出しの数」
となります。
この引き出しの数が少ないと、
「技術者の提案することはどこか雲をつかむような抽象的な内容」
であることがほとんどとなり、
実行に移せる提案ではなくなってしまいます。
実行できない提案にはあまり意味はあまりありません。
見聞きしたのではなく主担当としての経験が肝要
技術業務の実践経験では、いくつかのポイントがあります。
その一つが、
「見聞きしたものではなく、自らの実体験に基づくものである」
ことの重要性です。
- 自分は傍観者の一人として起こったことを見ていた
- インターネットや書籍等で情報を読んだ
どちらも知識としては重要ですが、
実体験として引き付ける段階に達していません。
実践経験で重要なのは、
「自分が主担当として業務を推進した」
という当事者意識の有無です。
伝聞や活字経由の情報で得られる知識と、
当事者意識を伴う実践経験では、
提案につなげられるような質という意味で雲泥の差があります。
会社の肩書という不要な防具を意識しない
若手技術者は社内では立場が低いことが多いですが、
社外となると場合によっては自分の方が立場が上ということも珍しくありません。
例えば協力企業に請負業務を”依頼する”となった場合、
若手技術者が発注者側の企業である以上、
顧客としての扱いを受けます。
場合によっては不相応な厚遇を受け、
何を言っても許されるといった状況に置かれるかもしれません。
どれだけ無理難題を言っても業務委託を受託した側は、
その依頼内容を完遂させるため、
相手が若手技術者であっても言うことを聞くしかない、
とならざる負えない場合もあるでしょう。
このように立場という会社の肩書に守られたような技術業務の実践経験は、
「どこかで他力本願な要素が含まれる」
ことが多く、また若手技術者本人は何もできていないのに、
「あたかも自らの力で切り抜けたという誤解を抱く」
ことも珍しくありません。
他の企業と組んでやるにしても、
請負業務委託のような上下関係の存在する技術業務ではなく、
社内を軸に、会社の肩書という防具が通用しない環境で経験を積むことが望ましいと考えます。
技術業務の実践経験を積ませる時間を捻出するため打ち合わせ参加時間を徹底削減
既述の通り、若手技術者には技術業務の実践経験を積ませ、
否定的な意見で終わらせず、実効性のある提案をできるようにさせることが肝要です。
この場合に必要となるのは、
「若手技術者が実践経験を積むための時間」
です。
そして、当該時間捻出をするために最も効果的なのは、
「若手技術者が参加する打ち合わせ時間の削減」
です。
若手技術者が打ち合わせに参加し、
議事録を作成することで議論内容を把握し、
それを論理的思考力を活用しながらまとめることは、
技術者育成の観点からも重要です。
ただし、今回のように否定的な意見を多く述べる若手技術者の場合、
必要なのは打ち合わせへの参加よりも、
提案力を高めるための技術業務の実践経験蓄積の方が大切なのです。
よって、前出のような若手技術者の出席する打ち合わせを減らし、
その時間を主担当として実業務にあたらせるという、
業務配分がリーダーや管理職には必要な考え方といえます。
まとめ
技術的な議論において、時に否定的な意見は暴走を止めるという意味でも必要です。
しかし、提案の無い当該意見は単なる評論であり、
自らが意見を言っているという仕事をやっている感を出す自己満足に終わることが多いのです。
本点を若手技術者は理解すべきでしょう。
この提案する力をつけるには、
やはり当事者意識を持った技術業務の実践経験が不可欠です。
さらに企業名という肩書と無関係な、
社内での経験を積むことがより望ましいことに疑いの余地はありません。
そして、必要であればその若手技術者が出席する打ち合わせを最低限とし、
捻出した時間を上記の実践経験蓄積に充てるという見極めが、
リーダーや管理職には必要です。
リーダーや管理職は若手技術者が否定的な意見を言うことが目的化するような評論家ではなく、提案もできる実践型技術者として育成するため、早い段階で主担当として若手技術者に技術業務を担わせることが肝要です。
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