国の公的年金は、「働く夫と、専業主婦の妻」という昭和時代の家族を、いまだに引きずっている制度だと、よく言われます。

毎年、厚生労働省が改定・公表する年金額についても、モデルケースとなっているのは、サラリーマンと専業主婦の家庭の受給額です。

 

また、「第3号被保険者制度」も、主婦優遇の制度と言われています。

会社員や公務員に扶養されている配偶者は、自分で保険料を払わなくても、基礎年金を受給できるのです。

 

この第3号被保険者制度は、社会保険に加入していない妻が、無年金になってしまわないよう、昭和61年に創設されました。

それまでは、夫に扶養されている妻が、国民年金に加入するには、任意加入をしなければならず、妻自身の老齢年金は、僅かばかりのものでした。

 

その後、平成・令和の時代を経て、どんどん共働きが増え、第3号被保険者は、徐々に減ってはいます。

ですが、今も、夫の扶養から外れるのを恐れて(自分で社会保険料を払わなくてはならなくなることを恐れて)、妻が働き控えをする現象も見られ、これは「年収の壁」などと呼ばれ、昨今の人手不足の中、社会問題ともなっています

 

ですが、第3号被保険者は、妻だけが対象となるわけではありません。

妻に扶養されている夫も、同じように第3号被保険者になることは可能なのですから、これはやはり、収入のない配偶者を守る制度と言えるでしょう。

 

それに対して、夫と妻とで、今もその差が色濃い年金制度があります。

それが遺族年金です。

 

遺族年金には、遺族基礎年金遺族厚生年金があります。

 

遺族基礎年金とは

 

 遺族基礎年金は、故人が国民年金加入中であったり、老齢基礎年金を受けられる方(加入期間は25年間必要)であった場合に、遺族が受けることができる年金です。

もちろん自営業の方だけではなく、お勤めの方は、同時に国民年金にも加入しているので、条件をクリアしています。

 

遺族基礎年金を受けられる遺族は、故人によって生計を維持されていた

①子のある配偶者(夫も妻も)

または

②子

です。

 

つまり、遺族基礎年金は、「子」をターゲットとした年金です。

子のない配偶者は受けられません。

 

年金制度で言うところの「子」とは、

・18歳の年度末までの子

または

・障害等級1級もしくは2級に該当する20歳未満の子

ですので、

受給期間は、基本的には、子が18歳の年度末になるまで(高校卒業まで)の有期年金です。

末子が18歳の年度末になると、年金は終わり、受給権は失くなります。

 

受給額は年79.5万円+子の加算額(第2子までが1人当たり年22.8万円、3人目以降7.62万円です)(2023年度)です。

 

遺族厚生年金とは

 

故人が、厚生年金に加入中であったり、老齢厚生年金の受給権があれば(加入期間は25年間必要)、遺族厚生年金も受けられます。

 

遺族厚生年金を受けられる遺族は、やはり生計を維持されていた

①子のある配偶者(夫は55歳以上)

①子(子のある配偶者が受けている間は支給停止)

②子のない配偶者

(30歳未満の妻は、夫死亡後5年間の有期年金)

(夫は55歳以上に限る 受給は60歳から)

③55歳以上の父母(受給は60歳から)

④孫(18歳年度末まで)

⑤55歳以上の祖父母(受給は60歳から)

(番号は受給できる順位 先順位者がいたら、後順位者は受けられない)

 

遺族基礎年金と異なり、「子」がいなくても受けることができますし、子が18歳年度末となり、遺族基礎年金が受けられなくなった後も、生涯受給権がある年金です。

金額は、故人の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4です。

 

なお、遺族年金を受けるには、

・死亡者の保険料納付要件、または老齢年金の受給資格があったかどうか(加入期間は25年間必要)

・配偶者の収入要件(年額850万円または所得655.5万円)

なども問われます。

 

 また、「生計を維持されていた」ということは、夫が妻に、または妻が夫に、扶養されていたということではありません。

お互いの収入を、比較するものでもありません。

同居の場合はもちろん、別居していても、生計を同じくしていれば、生計維持要件は認められます。

会社員の夫と専業主婦という家庭でも、妻の遺族年金を夫が受けることは可能です。

 

 それでは、この遺族年金を、妻が受ける場合と夫が受ける場合に、どんな違いがあるのか、整理していきましょう。

故人の保険料納付要件や年金加入要件、配偶者の収入要件は、満たしているものとします。

 

夫が死亡して、妻が遺族年金を受ける時

 

●子がいるケース

妻は年齢を問わず、遺族基礎年金遺族厚生年金が受けられます。

末子が18歳になった後は、遺族基礎年金はなくなりますが、条件が合えば、40歳から65歳まで中高齢寡婦加算が受けられます。この加算はその名の通り、妻にしか支給されません。

金額は年額596,300円です。

 

遺族厚生年金は生涯受け取れます。

ただし、65歳以上になると、自分の老齢厚生年金との調整が入ります。

 

※遺族厚生年金の条件を満たす夫が死亡 子1人の場合の

妻の遺族年金

 

※中高齢寡婦加算が支給される条件

この加算は、かなり金額も大きいのですが、すべての寡婦が受け取れるわけではありません。

故人はお勤め中だったとか、厚生年金に20年以上加入していた、といった条件があります。

また、妻についても、子のない場合は夫の死亡時40歳以上であること、または遺族基礎年金が終了した時点で40歳になっていること、といった年齢要件もあります。

 

※65歳からの老齢厚生年金との調整

① 故人の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4

② ①の2/3+自分の老齢厚生年金の1/2

①か②のうち、高い方が遺族厚生年金の額となります。

さらに、自分の老齢厚生年金が優先的に支給され、遺族厚生年金から、自分の老齢厚生年金の額が差し引かれます。

 

●子がいないケース

遺族厚生年金が受けられます。

夫の死亡時、30歳未満の場合は、5年間の有期年金です。

30歳以上であれば、生涯受給権があり、条件が合えば中高齢寡婦加算もつきます。

 

妻が死亡して、夫が遺族年金を受ける場合

 

●子がいるケース

 妻死亡時、夫が55歳未満

夫は子が18歳になるまで、遺族基礎年金を受けられますが、55歳未満なので、遺族厚生年金を受けることはできません。

遺族厚生年金は、18歳になるまで、子が受けることになります。

 

※遺族厚生年金の条件を満たす妻が死亡 夫55歳未満 子1人の場合

 

●子がいるケース

 妻死亡時、夫が55歳以上

夫は子が18歳になるまで、遺族基礎年金を受けられます。

また、遺族厚生年金の受給権もあります(子がいない場合、支給は60歳から)

遺族基礎年金を受けている間に限り、夫は60歳未満でも遺族厚生年金を受けることができます。

 

60歳になる前に、子が18歳年度末に到達し、遺族基礎年金が終了すると同時に、夫が受けている遺族厚生年金も、いったん止まります。

そして夫が60歳になったら、また支給されるようになります。

 

65歳からは、自分の老齢厚生年金との調整が入り、まず老齢厚生年金を受けることになるので、遺族厚生年金の金額が、老齢厚生年金より少なければ、遺族厚生年金を貰えなくなります。

やはり夫は自分の厚生年金期間が長く、もらえないことは多いです。

 

※遺族厚生年金の条件を満たす妻が死亡 夫55歳以上 子1人

夫60歳前に子18歳到達の場合

 

 

●子がいないケース

妻の死亡時、55歳以上の場合は、遺族厚生年金の受給権があります。

ただし、支給されるのは60歳からです。

65歳からは、自分の老齢厚生年金との調整が入ります。

 

※老齢年金の繰下げ受給との関係

 

繰下げ受給とは、最長75歳まで、老齢年金を受ける時期を延期して、年金額を増やす受給方法です。

ただし、他の年金の受給権が発生すると、それ以後、繰り下げることはできません。

 

65歳以降に、老齢年金を繰り下げようと思っても、その時点で遺族年金の受給権があると、繰り下げることができません。

たとえ、自分の老齢厚生年金の方が遺族厚生年金より高く、実際は遺族厚生年金を貰っていなかったとしても、繰り下げできないのです。

夫の場合、自分の老齢厚生年金の方が妻の遺族厚生年金より高く、受給権はあるけれども、実際には遺族厚生年金を貰っていないケースの方が多いので、この決まりを理不尽に感じる男性もいらっしゃると思います。

 

これからの遺族年金

 

以上、夫と妻の遺族年金を見てきました。

夫の支給は、妻が受ける場合に比べて、年齢要件が絡んで複雑だったり、妻に支給される加算がないことなどが、お分かり頂けたかと思います。

 

もともと遺族年金は、大黒柱の夫に先立たれ、残された妻と子の生活を助ける、という意味合いが強いものでした。

 

子のいる夫が、遺族基礎年金を受けられるようになったのは、平成26(2014)年の法改正の時から、わずか10年前からに過ぎません。

 

それ以前、遺族基礎年金が受けられたのは、「子のある妻」か「」でした。

つまり、妻が亡くなった場合、遺族基礎年金を受けられるのは、夫ではなくて、子でした。

しかも、父親と生計を同じくしていると、その遺族基礎年金も、支給が停止され、受けられませんでした。

 

2014年の法改正によって、「子のある配偶者」が受給権者となるように改められ、ようやく夫も、遺族基礎年金が受けられるようになったのです。

お勤め中の妻だけではなく、専業主婦が亡くなった場合も例外ではありません。

当時、第3号被保険者である妻が亡くなった時も、夫に遺族基礎年金を出すかどうか、被扶養者の妻が亡くなったのだから、出さなくても良いのではないか、という意見が出て、改正が少々難航しましたが、最終的には、夫に扶養されている妻が亡くなった時も、夫に遺族基礎年金を支払うという結論になりました。

 

夫婦は、共に家庭経済を担っていくものです。

長い共同生活の中で、時には、妻が夫に扶養される期間もあるかもしれません。

でも、結婚後、何らかの形で働く妻は確実に増えています。

もはや妻の働きは、家庭経済の維持に欠かせないものとなっています。

住宅購入も、夫一人のローンでは賄えず、ペアローンを組む夫婦もいます。

妻が亡くなった時の経済損失は、今後、ますます大きくなっていくことでしょう。

 

にもかかわらず、まだまだ、時代にそぐわない遺族年金の制度ですが、10年前の法改正で、夫が遺族基礎年金を受けられるようになったのは、大きな進歩でした。

2023年7月の厚生労働省審議会では、再来年の年金制度改正に向けて、遺族厚生年金の男女差の解消に向けて、議論されました。

今後、55歳という夫の年齢制限が撤廃されるなど、遺族年金が、今の時代に合った制度に変わっていくことが、期待されます。

 

 

以前、遺族年金を取り上げた記事があります。

2021年のもので、金額も当時のものですが、よろしければ参考になさってください。

 

 

 

 

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