5年に1度の財政検証に向けて

 

10月26日の朝日新聞に「国民年金の保険料納付「64歳まで」5年延長へ 国が本格検討を開始」という記事が掲載され、気になっている方も多いと思います。

またニュースでも「保険料は100万円の負担増」という話題で、自営業の方の不安な声のインタビューなども流れました。

 

現在、国民年金は20歳から59歳までの40年間の加入が義務付けられています。

毎月、約1万7,000円の保険料を40年間、満額納付することによって、65歳から月約6万5,000円の老齢基礎年金を、生涯受けとることができます。

 

年金は永年に渡って国民に給付するものですから、長期の見通しが欠かせません。

年金財政が将来どうなるか、給付水準がどう下がるのか、5年に1度、財政検証が行われています。

 

次回は2024年に予定されており、これに向けて、今月から、厚労相の諮問機関である社会保障審議会の年金部会で、制度の見直しについての議論が始まりました。

 

5年延長の案は、この議論の中で検討されているもので、2024年末までに結論を出し、25年に次期年金制度改正法案の提出を目指しています。

 

年金改革は避けられない?

 

これまでも年金制度は、何度も何度も改正を重ねてきました。

それがより一層、制度をわかりにくくし、年金不信を生む結果にもなっています。

 

保険料納付期間の延長についても、以前から検討されてきた大きな論点ですが、次回の法改正で、いよいよ本格的に検討されることになってしまいました。

背景にあるのは、「少子化の進展」と「年金額の調整がうまく進まないこと」の2点です。

 

1.少子化の進展

新型コロナウィルスの影響によって、少子化は一段と進んでいます。

2021年の出生数は、過去最少の約81万人でした。合計特殊出生率も、前年よりさらに下がって1.30という低さでした。

2022年上半期の出生数も40万人を下回っていて、推計より6年も早く、少子化が進んでいると言われています。

 

日本の年金制度は、現役世代が高齢者に仕送りする形式であるため、少子化が加速すると、年金財政に深刻な影響が出てきます。

さらに2040年には、団塊ジュニア世代が65歳以上になり、高齢者数がピークになると予測されています。

少子高齢化で、給付と負担のバランスは年々偏っているのです。

 

2.マクロ経済スライドの長期化 ~進まない年金額の調整~

年金額は、物価や賃金の変動によって、毎年見直されています。

それに対して、寿命の延びと、働き手の減少に応じて、年金の増額を抑制する仕組みが、マクロ経済スライドです。

2004年の年金改革で導入されました。

調整期間は、「年金財政が長期にわたって均衡すると見込まれるまで」です。

 

この制度がうまく機能すれば、給付が減り、年金財政も安定して、マクロ経済スライドによる調整も終了するはずでした。

しかしながら、マクロ経済スライドは、デフレ下では実行されない決まりがあり、これまでは物価も賃金も上がらない状態が続いたため、あまり実行されてきませんでした。

 

その結果、2019年度の財政検証では、マクロ経済スライドの終了時期は、

厚生年金が2025年度、

国民年金(基礎年金)にいたっては、あと25年も先の2047年度と見込まれています。

しかも、その頃の老齢基礎年金の受給水準は、2019年度水準に比べて、約3割も減ると言われています。

 

2018年には、実行されなかったマクロ経済スライドの抑制分を、次年度以降に繰越す「キャリーオーバー」という制度も導入されましたが、これもツケを、将来に繰越すだけです。

このような現状の中、小手先の改正ではない、大きな年金改革は、避けられないのかもしれません。

 

マクロ経済スライドについての過去記事はこちら↓

 

 

次回制度改正の主な論点

 

新聞記事によると、2025年の年金制度改正に向けて、10月から、次の3つが主な論点となっています。

 

1.基礎年金の保険料拠出期間の延長

 納付年数を40年から45年へと延長する案です。

  40年(20歳~59歳)の基礎年金の加入期間を45年(~64歳)に延長します。

  5年延びることによって、保険料は、今年の金額に基づいて計算すると、

  1万6,590円×12×5≒100万

  の負担増が予想されます。

  

2.マクロ経済スライドを早期に終了させる

 現状のままでは基礎年金(国民年金)の調整期間が長期に渡ります。

 また、最終的な給付も約3割減り、月5万円を下回ると予想されています。

 このマクロ経済スライドを早期に終了させ、5万円台を維持する案です。

  この給付の穴埋めとして、

    〇厚生年金の調整期間を予定より延長する

    〇国庫負担金を増やすことで財源を確保する

   といった議論がされています。

  その結果、

    〇一部の高所得の会社員が将来受け取る厚生年金が目減りする。

    〇累計で数兆円単位の国庫負担が新たに必要となる。

  といった影響が指摘されています。

 

3.厚生年金(社会保険)の適用拡大

 パートなど、短時間労働者の厚生年金適用範囲の拡大が進んでいます。

 (該当する短時間労働者は、週20時間以上、賃金月額8.8万以上

 従業員数の条件が、どんどん緩和され、

   2016年10月~ 従業員数常時501人以上

   2022年10月~ 101人以上  

   2024年10月~ 51人以上

 と、適用範囲が広がっていますが、今後は、それをさらに拡大し、

   従業員数50人以下

   現在加入義務のない事業所にも、適用を拡大する

 といった、議論が進められているそうです。

 

  社会保険料は労使折半のため、中小企業にまで社会保険の適用が拡大することによって、企業の負担が増えることになります。

  また、一方で、新たな加入者は、保険料の負担はありますが、

  年金額が増えるなどの恩恵もあります。

 

厚生年金適用拡大の過去記事はこちら↓

 

 

「年金がおかれた厳しい将来を白日の下にさらし、制度の持続性を確かにするために、もう大盤振る舞いはできないと国民各層にはっきり告げる」(10月26日日経新聞)

それが、政府に求められる最大の役割だ、という厳しい記事もありました。

 

年金というと、負担増、給付減という、マイナス面ばかりが強調されがちですが、全世代で痛みを分け合い、年金制度を持続させるための手探りの議論が続いています。

 

終身受け取ることができる公的年金は、生活費の下支えとして、老後のライフプランに欠かせないものです。

ご自分の場合、将来はどうなるのか、しっかりと、今後の制度改正に注目していきましょう。

 

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