2023年度の公的年金改定率が公表されました

 

今回は、1月28日付、日本経済新聞のマネーのまなび「年金「目減り」過度に恐れず」という記事を参考にしながら、2023年度の年金額について、考えてみたいと思います。

 

1月20日、厚生労働省は、2023年度の公的年金について、改定率を公表しました。

23年度中に68歳以上になるケースで、前年度比1.9%増67歳以下2.2%増となります。

公的年金が増額されるのは3年ぶりです。

4,5月分が支払われる6月入金分から、増額された年金が受け取れます。

 

昨年、このブログでニッセイ基礎研究所による予測値をお知らせしましたが、その時の改定率は、68歳以上で1.8%増、67歳までは2.1%増という予測でした。

実際の値は、それより0.1%の増額となり、各1.9%増、2.2%増という結果となりました。

 

昨年の試算に用いられた「マクロ経済スライド調整率」は-0.4%で、これが-0.3%となったために、+0.1%の差が生じています。
これは、2021年度の公的年金加入者変動率が、予測では-0.4%と仮定されていたものが、-0.2%となり、その3年平均が0.0%となったため、とされています。

(4年度前+0.3%、3年度前-0.1%で、3年平均は0.0%)

マクロ経済スライド調整率を決定するもう一つの要素である「平均余命の伸び」は固定値で、-0.3%です。

これを合わせて

マクロ経済スライド調整率=0.0%-0.3%=-0.3.%

となりました。

 

年金額の改定率の決まり方 おさらい

 

年金額の改定率は3つのステップで決定されます。

1.本来の改定率

 賃金・物価の変化を反映します

2.上の値がプラスの年だけ、マクロ経済スライドを適用

 少子高齢化に対応し、年金財政を健全化するために、給付を抑えます

3.キャリーオーバー分の適用

 マクロ経済スライドが適用できなかった繰り越し分を反映し、給付を抑えます

 

1.本来の改定率 

〇67歳以下の改定率

=賃金上昇率(名目手取り賃金変動率)

=22年の物価上昇率+実質賃金変動率(19~21年度の平均)

=2.5%+0.3%=+2.8%の増額改定

〇68歳以上の改定率

賃金上昇率(2.8%)>物価上昇率(2.5%)のため、

物価上昇率が適用されて+2.5%の増額改定

 

2,マクロ経済スライド調整率を適用

公的年金加入者数の変動+平均余命の伸び

=0.0%+(-0.3%)

=-0.3%

 

3.キャリーオーバー分

21年、22年度合わせて-0.3%

 

これによって、2023年度の年金額改定率は

本来の改定率(2.8%、2.5%)から、

-0.3%-0.3%=-0.6%減額されて

67歳以下 2.2%増

68歳以上 1.9%増

となりました。

 

増額改定も物価高には及ばず、実質は目減り

 

年金増額は3年ぶり、しかも増額率も過去最大という朗報ではありますが、キャリーオーバー分が適用された結果、67歳以下の増額率も、前年の物価上昇率2.5%を下回ってしまいました。

実質的な目減りです。

さらに、昨年から今年にかけて、電気・ガス、食品などの値上げが立て続き、倹約や買い控えをしなくては、と心配されている方も多いと思います。

 

総務省の発表によると、2022年12月の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合指数で、前年同月比で4.0%上昇しました。

さらに、1月の東京都区部の消費者物価指数の中間速報値によると、前年同月比4.3%上昇したということです。

食品価格の上昇は続き、12月は主要食品のうち6割の品目で、前年同月比の上昇率が5%を超えました。

しかも、原材料高などコスト上昇分の価格転嫁は、まだまだ反映しきれず、今後も値上げが続く可能性が高い見通しです。

電気代、ガス代などエネルギー価格や、家電、衣類などの価格も上昇を続けています。

 

22年の実質賃金は0.9%減、物価高を下回る

 

物価高の影響を受けて目減りしているのは、賃金も同様です。

コロナ禍後、経済再開は進み、賃金の伸び率は増えていますが、実質賃金のマイナスは続いています。

7日に発表された厚生労働省の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、物価の影響を考慮した実質賃金は、前年比0.9%減となって、2年ぶりのマイナスとなりました。

賃金は2.1%増と、31年ぶりの伸び率とのことですが、賃金上昇が物価高に追いつかない状況となっています。

ただ、12月の実質賃金は、前年同月比0.1%増とプラスとなっています。

実質賃金がプラスとなるのは、9ヵ月ぶりで、直近では10月が-2.6%、11月には-3.8%と、大きなマイナスが続いていました。

良い傾向に見えますが、12月に実質賃金がプラスとなったのは、ボーナスの影響が大きいとされており、月給ベースでは実質賃金の減少が今後も続くと予想されています。

 

金融界で賃上げの動きが広がるなど(2/7)、少しずつ賃上げの動きは高まっているようですが、今後も、インフレの水準を超えたさらなる賃上げが必要とされます。

 

今後の年金額改定に向けて

 

年金改定率は、前年の物価と2~4年度前の賃金を計算の基とするため、年金改定は、賃金や物価の動きに、少し遅れて変動します

物価上昇があれば、年金は翌年度に上がりやすいということです。

2024年度は、2023年の物価と20~22年度の賃金変動率が適用されますので、改定率はプラスになることが予想されます。

さらに、-0.3%のキャリーオーバーは、2023年度に消化され、繰り越し分は解消されました。

 

日本経済新聞1月28日付けマネーの学び「年金「目減り」過度に恐れず」の記事によると、

実質賃金変動率が、マクロ経済スライド調整率より大きければ、最終的な改定率も物価を上回ることができます。

 

前述の67歳以下の改定率を求める計算式によれば

 

物価上昇率+実質賃金変動率(20~22年度の平均)-マクロ経済スライド調整率

≧物価上昇率

となるためには、

実質賃金変動率≧マクロ経済スライド調整率

となれば良いことがわかります。

 

社会全体で実質賃金がプラスの状態に戻すことが、足元の暮らしだけでなく、マクロ経済スライドの影響を小さくするためにも不可欠だと、日経新聞には記されています。

 

 

昨年度の年金改定率試算について、過去記事はこちら

年金額改定ルールについても、解説してありますので、参考にしてください。

 

 

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