命短し、歩けよたおやめ

体力なし筋肉なし経験なしのたおやめが老朽化と戦いながらはじめた登山の記録

真夏の大雪高原温泉沼めぐり_2:ヒグマにおびえながらめぐる美しき沼

大雪高原温泉~ヒグマ情報センター~高原沼~ヒグマ情報センター_2

【登った時期】2021年8月上旬
【同行者】なし

熊鈴を鳴り響かせながら水芭蕉の道を行く

かつてこれほど緊張しながら山を歩いたことがあっただろうか。

いや、無い。

これほど熊鈴を鳴らしまくりながら山を歩いたことがあっただろうか。

いや、無い。

ヒグマ情報センターでレクチャーを受けた後、私は熊鈴をつけたストックを元気いっぱい振りながら大雪高原温泉沼めぐりに出発した。

熊鈴の効果には賛否があり、
人慣れした熊が寄ってくるという意見もあるようだが、今回はヒグマ情報センター監視員さんのアドバイスに従って、じゃんじゃん鳴らしまくりだ。

サンタクロースのソリばりにしゃんしゃん鳴らしながら、最初はほぼ平坦な道を行く。
立木の枝が斜め下に垂れ下がるのを見て、雪の深さを想う。

 

多くの人もそうだと思うけど、私は人が多い混んでいる山が苦手。
いつもならこの静けさは大歓迎なのだけど。

静かすぎ。

いくら紅葉時期が人気の場所とはいえ人いなさすぎでしょ。

昨日、宿で【ゴールデンカムイ】を読んでしまったのもまずかった。
ロビーでのくつろぎタイムにコーヒーを飲みながら、なんとなく第一巻から読み返してしまったのだ。
最初の頃ってヒグマの登場回数が多いのはわかっていたのに。
ついつい読んじゃった。
ぶんっと顔面をはたかれる恐怖絵図が頭をよぎる。

 

あっ

これが根っこが美味しいと噂の水芭蕉ね。
ということはセンターのすぐ近くで食痕が見つかったというのはこの辺り?

掘り返したような跡があるのかなあ、と思うがよくわからぬまま通り過ぎる。

少し歩くと小さな川が見下ろせた。
川に向かってどんどん下りる。

石狩川支流のヤンベタップ川らしい。

川の近くにはもくもくと噴気があがっている。
ヤンベ温泉と呼ばれているが、90度の熱湯が噴出していて入ることはできない温泉。

ちょっとやわやわした不安定な橋を渡って、

美しい川の流れにしばし熊のことを忘れる。

橋を渡ってちょっと登った所が、高原沼めぐりコースの時計回り・反時計回りの分岐点【ヤンベ温泉分岐】だ。
現在は熊が多く出没しているので、反時計回り側は立ち入り禁止だが【のぞき地獄】というところまでは行けるみたい。

【のぞき地獄】というのは何だろう。
噴煙もくもくの出所を上から覗けるのかな。
別府温泉のようにぼっこんぼっこんお湯が沸きたつ様が覗けるのか。
100mほどらしいが、帰りに時間が早ければ寄ってみることにして通り過ぎる。

しかし、帰路には【とある事件】があったため結局【のぞき地獄】が何かは分からずじまいだった。

分岐の陰の【ヒグマに注意】注意書きを見て熊を思い出す。
はいはい、充分注意していますよ。

水芭蕉の群生地にして見通しが悪いポイント。

ザック付属のホイッスルを吹き鳴らしてから通過。
そういえばザックのホイッスルを使ったの初めてかも。
役立って良かった。

更に、水芭蕉だらけのまさに群生地もあったが、写真も取らずにとにかくさくっと通り抜けた。

ビビりながら歩いているうちに坂道の傾斜がきつくなってきた。
振り返るとさっき渡ったヤンベタップ川が下の方に見える。

少し空が明るくなってきたようで、ほんのり明るい光を受ける緑の葉がきれい。
わしゃわしゃした黄色いきのこも鮮やかだ。

今日のベストオブきのこ

もちろん注意は怠らないが、すこし緊張感が和らいで山を楽しめるようになってきた(かも)

それにしても、この山は至る所に水芭蕉が生えておるな。

ほとんど川というかプチ滝と化した階段状の登りもあるが、長靴のおかげで躊躇せずじゃぶじゃぶ進める。

登山靴で来なくて本当に良かった。
ありがとう、高原山荘。

どんどん青空が広くなってきた。

空が明るいと恐怖心が少し軽減されるのはなぜだろう。
熊は曇りやガスの日を好むと聞いたせいか。
単に青い明るい空はホラーにふさわしくないからか。

と、ぱあっと開けた場所に突然出た。
あら素敵!

木道の傍にはチングルマも咲いている。

次々に現れる沼をめぐるめぐるよ

ここまで、登山口(ヒグマ情報センター)から1時間程度、ヤンベ温泉分岐から30分程度だろうか。
木道を進むと、第一の沼に到着した。

土俵沼

由来:沼の形が相撲の土俵に似ているから。

丸い沼ならたいてい土俵に似ているのではないだろうか、、
と思うがあまりつっこまない。

近くで見渡してみたけれどあまり「土俵感」は感じられなかった。
しかし、静かな水面に山や木々、そして空が映る様子にテンションがあがる。

バショウ沼

由来:水芭蕉が群生しているというわりと「そのままやん」な理由と思われる。

 

熊の好物水芭蕉は対岸にみっしり生えているのでちょっと安心。
風がほとんどない日で、対岸に茂る水芭蕉がくっきり。

瀧見沼

由来:小さいながら滝があるようなのだが、、どうしても見つけられなかった

視力悪めのせいか滝は見つからない。
パンフレットには「滝の音が聞こえてきます」とあるが、聴力にも自信のない私には水音も聞こえず
ただただ静か。

滝見沼を後にして少し木道を歩いていく。

そういえば、入山してからの異常なばかりの静けさは鳥の声がしないからだと気づいた。
六甲山系など歩いていると、ぴーちくぱーちくほけきょっきょーとうるさい程の鳥の声に包まれるものだが、この山は本当に静かだ。
標高は1200mくらいだからそれほど高山というわけではないけれど、「さすが北海道」だけに本州の1200m+1000mの生態系なのだろうか。
ともかく鳥の声と風がないと山はこんなに静かなんだなあ。

緑沼

由来:??
緑がしたたっているからかと思ったら看板には「紅葉自慢です」とあるので、「緑自慢」ではないみたい。
今は見えていないけれど緑岳が見えるからかも。

「紅葉自慢」

この沼は最初の3つよりもかなり大きい。
ほとりには座って休めるベンチも整備されており、食事をしてもいいポイントの1つがここだ。
とは言っても、ひとりぼっちでここで食べ物を広げるのはかなり不安。
水分補給だけして先へ進む。

沼をたどっている間にどんどん晴れてきた。

本当に静か。

しーーーんと漫画みたいな描き文字が私の頭上に浮かんでいるのではないか。

静謐
無風
ぼっち

と、なんだか夢の中のように感じる嘘くさいくらいの現実離れした美しい景色は、ちょっと不思議な感じでおとぎ話に出てくる沼みたい。
水面からざばあっと女神様が現れてあちらの世界に連れて行ってくれそうだ。

あまりの美しさに沼を覗き込んでみる。

うわあ

吸い込まれそう、、、

吸い込まれている場合ではないので先を急ぐ。

振りかえっても誰もいない。
いたら怖いけど。

名残惜しいような怖いような気持ちで緑沼を後にする。

と、途端に現実に引き戻されるちょっと間抜けな顔の【熊注意】

小さな流れに沿って少し登っていく。
このあたりも川と化した道があり、長靴大活躍。

湯の沼

由来:沼の底から湯が沸きだしている

「手を入れてごらんなさい」とあるので、近づいて手を入れてみたが、残念ながら冷たいだけだった。
春秋なら温かさが感じられるのかもしれない。

また、8月には「ゆっくり休憩もできないほど」群がってくるというヌカガなる虫?もいなかった。

ヌカガとはなんぞや?と下山後に調べたら、「吸血害虫と呼ばれるハエ目の昆虫」だそうで、いやいやこれはいなくて良かった。

鴨沼

由来:?

鴨はいない。

そしてここで携帯トイレブース発見。
なかなかきれいな建物なので中を拝見。

中もびっくりするほどきれい。
購入できるよう携帯トイレも置かれていた。
使用したときはヒグマ情報センターで精算、使用物はもちろん持ち帰って登山口の専用ゴミ箱に捨てることができるみたい。

またしても川と化した登山道を進む。
長靴でじゃぶじゃぶ歩くのはちょっと楽しくて、むやみに水たまりに突入していた子供のころを思い出す。

エゾ沼

由来:上から見ると北海道の形をしているらしい

沼のふちに沿う木道を行くと、ここでもおとぎ話のような光景が広がっていた。

少し風があったので鏡ばりの水面にはならず、すいこまれそうにはならなかったが、それでもなんと美しいことよ。
沼の向こうが広く開けているので、木々の向こうにも水が続いて実際よりも広いように感じた。

式部沼

由来:??

式部といえば、紫式部や和泉式部しか浮かばないが、なぜに式部?

沼名の由来がわからないとなんだか盛り上がらない。
しかもちょうど太陽が顔を隠してしまったのでキラキラ感に欠け、なんだか地味。

地味な沼(ごめんね、式部沼)をさらっと見て歩き出したとき、

木道脇の茂みに動く茶色いものが見えた。

鹿だった。

あああ、びっくりさせやがって。。

体格差があるので親子だろうか。
茂みから木道に移動してきて、行く手を阻む。
草食動物とはいえなかなかの体格をお持ちだし、蹴っ飛ばされたら絶対勝てないのでどいてくれるのをしばし待つ。

なかなかどいてくれない。
子鹿のほうは好奇心満々で振り返ってはこちらをガン見。

母が立ち去っても動かず、めっちゃ見てる。

やっと登山道を離れて沼のほうへ移動していってくれたが、

まだ見てる。。

名残惜し気な鹿と別れて次の沼へ。