2006年のフランス映画「譜めくりの女」は怖い映画
2006年のフランス映画「譜めくりの女」(原題:La tourneuse de pages)は得体のしれない怖さに心が凍りつきそうな映画である。もっとも何が怖いか、は人によって千差万別なのでいちがいには言えないかもしれない。しかし私にはハリウッド映画の血がドバッと流れるホラーよりも、「譜めくりの女」のような心理劇のほうが数倍怖いのだ。そしてもし私がピアノのコンクールの審査員をするようなピアニストであれば、この映画を観た後、審査を引き受けるのも、譜めくりを誰かに頼むのも、「困ったぁ」と及び腰になるにちがいない。
映画「譜めくりの女」のあらすじ
それでは映画「譜めくりの女」のあらすじを、最後のネタばれなしで、ざっくりご紹介。
両親の理解と愛情を受けながらピアノの練習に励んだ少女、メラニー(デボラ・フランソワ)は音楽学校入学のためピアノの試験に挑む。試験官は高名なピアニスト、アリアーヌ。ところが演奏中にアリアーヌが、ファンからのサインの求めに応じたことから、メラニーの集中力が切れ、さんざんな結果となり、ピアニストの道を諦めてしまう。
成長してから研修生として、アリアーヌの夫の弁護士事務所に勤務するようになったメラニーは、万聖節の休暇中、彼らの息子の守役をかってでる。それは周到に用意された、アリアーヌに対するメラニーの復讐劇の始まりだった・・・
メラニーのここが怖い!
まず、このメラニーという若い女性、なんとなく気色悪い。美人だが感情を表に出さずほとんど笑わない。彼女の気色悪さに気づいているのは、アリアーヌと三重奏を組んでいるバイオリニストだけだが、メラニーを専属の譜めくり役に抜擢し、全面的に信用してしまったアリアーヌは忠告に耳を貸さない。メラニーの「悪意」の表れは以下の通り。
- アリアーヌの息子、トリスタンにわざと手を痛めるような練習をけしかける
- トリスタンがプールに入っている間、息ができないように頭を押さえつける
- チェリストの男性にセクハラされたとき、楽器の先端で彼の足を力任せに刺す
- アリアーヌの同性愛嗜好を目覚めさせるような行動をとる
疑問はあってもなぜか引き込まれてしまう心理劇
非常に冷静で理性的な観客なら以下の疑問をもつかもしれない。
- いくらピアノの実技試験に失敗したからとはいえ、アリアーヌにそれほど責任があるとは思えない。集中心を乱されたぐらいでなぜメラニーは怨みを持ち続けられるのか?
- クルマの事故が原因で精神が不安定になったとはいえ、なぜアリアーヌは譜めくり役にそれほど精神的に依存するものなのか?譜めくりってそれほど大事な役なのか?
- 若く美しく信頼できる女性から思わせぶりなことをされたとはいえ、愛を告白するまでになるとは、アリアーヌにはもとから同性愛の傾向があったのか?
私もよくよく考えれば??になるかもしれないのだが(特に同性愛について)、そこはこの二人の女優の圧倒的な演技力で見ている間はまったく気にならなかった。そして最後はとどめを刺すようなメラニーの復讐!やり遂げたあと、ほくそ笑むかのようにひとり歩くメラニーに、「よくやった!」と言いたくなる私も彼女に毒されてしまったのかもしれない。
YouTubeでみる映画「譜めくりの女」
ありがたいことにこの映画、現在YouTubeで全編を無料で観ることができる。言語はフランス語、字幕はフランス語、英語が設定可能で誤りは多いが、タダだから仕方ないか?
映画のなかで聴ける音楽は以下の通り。
- トリスタンが弾く幾分たどたどしいバッハ:プレリュード6番 BWV875
- サスペンス気分を盛り上げるショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏作品67の2
- アリアーヌの精神状態が不安定になったため、ピアノがボロボロのシューベルト:ピアノ三重奏作品148 D897