「少年A」こと、酒鬼薔薇聖斗に見習って

 将来、人気小説家になりたい君に。子供を有名作家にしたい親御さんに。おすすめの、とってもいい方法がありますので、教授しましょう。

     *

 まずは14歳までに、人を殺しましょう。
 ご存じのように、14歳未満は何をどうしても、法的に処罰されることはない。だから全然、大丈夫です。

 相手はなるたけ、小さい子を選びましょう。大人だと抵抗されて、こちらがケガでもしたらかなわないので。
 それもできるだけ、残虐なやり方を選ぶ。
 たとえば首を切断して、そのあとで落とした首を眺めながら、自慰にふけったりするのがいい。校門にさらしてもいい。それが後々、作品のネタになりますから。

 事が事だけに、少年院送致は免れない。でも7~8年もすれば、あっさりと出てこれる。
 その先には、バラ色の未来が待ち構えているのだから、多少のことは我慢しよう。

     *

 出所したら、さっそく手記を仕上げる。事件の経緯をつづるのだ。
 文章修業も、何もいらない。殴り書きの、でっち上げでかまわない。どんな内容だろうと、必ず売れる仕組みがあるので心配ない。 

 日記より小説の体裁に、しておく方がいい。将来物書きとして、もてはやされるための布石を、今から打っておくのだ。
 「心の絶唱」みたいな、わけのわからないタイトルを付けておくと、あーら不思議、とたんに世間の連中がありがたがる、芸術の香りがしてきます。

 二の足を踏むところもあるので、出版社は慎重に選びましょう。
 太田出版(注)というところが、おすすめですよ。金儲けだけしか頭にないところですから、売れると踏みさえすれば、どんな本でも出してもらえます。
 触法少年の心の闇を探る、みたいな、もっともらしい能書きも付けてくれる。

     *     

 売れ行きは、保証します。
 猟奇趣味の読者たちも、待ってましたとばかりに、我先に飛びつく。
 その上もっと安定した、購買者もいる。社会評論家を標榜する、マスコミ関係だ。
 わが国には、「子供は基本無垢である」という公理がある。子供の罪は個人の罪ではなく、すべからく社会の問題として扱われる。だから彼らはあなたの事件を、論じないわけにはいかない。そうしないと、おまんまの食い上げになってしまうので。

 一冊だけでは、打ち止めにしない。
 それから先は同じ原理で、出す本出す本、必ず売れまくる。そのたびに一億近い印税が、懐に飛び込んくる。
 本人だけではない。家族も本を出しましょう。「鬼の子を生み育てて」みたいなタイトルにしておけば、子育てに不安を抱えるお母さんたちが、こぞって買い求めるでしょう。

 書物だけにはかぎらない。ブログを始めたり、有料メルマガを配信したり。商売のヒントは、いくらだって転がっている。
 薄気味悪いイラストでも、書いてみたらいかが? ヘンテコな、ナメクジ人間みたいな。きっと前衛のアーティストとしても、名をはせることができますよ。

     *

 あなたのマルチな才能を、そうしてどんどん活かしていこう。
 そうすればもう、人生笑いが止まらない。何たってお金がありあまるし、世の中はひとかどのセレブとして遇してくれる。

 もちろん、ネットに張り付く正義屋たちは、黙っていない。
 あなたの個人情報を、さっそく特定する。少年Aではない、実名もさらされる。
 昔の事件を蒸し返して、ねちねちと攻撃してくる。だがそんなこと、知ったこっちゃあない。
 所詮はうだつが上がらない、二流市民の言うことだ。まるっきり、無視してかまわない。

 あなたは全然犯罪者じゃない。日本国の法律が、そう決めているんだ。加害者の人権だけは、いつでもしっかりと保証してくれる。
 世の中頭を使って、のし上がった者が勝ちなんだ。たとえそれがどんなに悪知恵だろうと、いったん名士に収まってしまえばそれでもう、誰も文句は付けられない。

     *

 そうです。

 少年法というかけがえのない制度を、しっかりと利用して。他人の命さえ、踏み台にして。

 世間のうらやむ成功を勝ち取った「あの人」こそ、確かにみんなの憧れの、ロールモデルなのです。―― 

「追記」
 ちよっと時代は古くなるが、被害者の遺体の肉を食べる、という手もあります。
 もし「佐川一政」「パリ人肉事件」をご存じない方がいたら、参考にしてください。
 そちらに置き換えても、ほぼ同内容の文章が成立します。
 世の中にいかにこの手の輩が――不条理が満ち満ちているか、よくわかります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました