「それに」
彼は続ける。
「お前がどれだけ何を頑張っても、結果は変わらない。そこは理解と覚悟をしておいたほうがいい」
「何もしませんよ、僕は。誰にも言いませんし、逃げもしない。故郷の人に生きて欲しい、それはやっぱり本心です。ただ、皆の一員に戻るより、僕は彼女と一緒にいたいだけです」
彼と2人で何度も悩み、出した結論だ。何も変わらないし、変えたくもない。変えてはいけないとすら思う。故郷の人に生きて欲しいという思いは、地球へ行くと決めた時から、変わっていない。
でも、僕はやっぱり帰りたい。
「……地球人は洗脳術に長けていると、合わせて報告しておくよ」
また間が空く。彼はまた煙草を取り出したが、一瞥し、そのまましまった。彼は続ける。
「まぁこの船は発進さえしてしまえば、あとは自動運転で帰れる。あとは直接報告して我々の仕事は終わりだ。もう1人でも問題無いさ。小型の脱出艇があったな、あれなら使っていいぞ」
やはり、この人は悪い人ではない、と僕は思う。
もしかしたら恩を忘れた行為なのかもしれないと、少し申し訳なくも思った。
「……喫煙室の掃除、やっていきましょうか?」
「いいよ、次の掃除当番は俺だ」
彼が次の当番を覚えているはずなんてないと思ったが、僕は少しだけ笑ってみせた。
「もし結婚できたら、式、呼びますね」
「……電報だけにしておくよ」
少しだけでも感謝の言葉を伝えようと思ったが、言おうとしたら恥ずかしくなったので、僕は一礼だけして、喫煙室から身を引いた。
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