『アリとキリギリス』親子で遊ぶ昔話の脚本③

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アリとキリギリス

登場人物

語り

キリギリス

アリA

アリB

アゲハ

コガネムシ

第一場

キリギリスは、今夜もコガネムシのおやしきで、歌を歌っていました。

アゲハ「すてきだわ」

コガネ「天使の歌声とは、よく言ったものさ」

アゲハ「声が心にちょくせつひびいてくるのよ」

コガネ「キリギリス君の歌を聴いた後では、他の歌は聴けないね」

キリギリスは、毎晩誰かのおやしきに呼ばれては、歌っていました。

彼の指先がかなでる美しいピアノの音は、聴く人の心を酔わせました。

いくつものこくさいコンクールで賞をとった歌声は、「天使の歌声」と呼ばれ、貴族の虫たちからのコンサートのいらいで毎日忙しく、とても裕福に暮らしていました。

キリギ「(歌)夜に光る黄色い羽 月の光からうまれたの?

    燃える心の赤と 夜の闇の黒が 羽にあやしい絵を描く

    ゆらゆらと光るその羽根は 月より明るく夜を照らす 

    花の蜜より甘い声で 今夜僕と話してください」

「ブラボー」の歓声と拍手が鳴りわたりました。

虫たちは声をそろえて、キリギリスの歌を聴いた夜はぐっすり眠れると言います。

キリギ「今夜もお集まりいただいてありがとうございました。明日の夜、また心をこめて歌います。今夜はどなた様もごゆっくりお休みください。それではお休みなさいませ。キリギリスがお礼を申します」

アゲハ「すばらしかったわ」

コガネ「君の歌を聴いていると、夜が永遠に続けば良いのにと思うよ」

アゲハ「明日はわたくしの家でお願いいたしますわね」

キリギリスのコンサートは、もうずっと先まで予約がいっぱいなのでした。

第二場

次の日キリギリスは、たくさんのアリたちが、歌いながら働いている姿を目にしました。

アリ「(歌)ワッセワッセ 城つくれ

  明るいおひさま あるうちに

  ヨイコラ はこべ たべものを

  つめたい きたかぜ くるまえに

  明日は雨がふるかもしれぬ

  夜には仲間とのみあかそう

  昼のつかれと 仲間のえがお

  それだけあれば 酒はうまい」

キリギ「いい歌だね!」

アリA「やあ、きりぎりすさん。歌?だれか歌ってた?」

キリギ「歌ってたよ。『ワッセワッセ 城つくれ』って」

アリA「ああ、あんなの歌じゃないよ。キリギリスさんの歌に比べたら」

キリギ「そんなことないよ。ぼく、聴き入っちゃった。すばらしい歌だった」

アリA「ありがとう。てれるな。働いているとね、自然と歌っちゃうんだ。ハナウタみたいなもんさ。だから、同じうたは二度と歌えないんだよ」

キリギ「へえ、すごいね。心から生まれた歌なんだね。それが本当の音楽なのかもしれないね」

アリA「へへ、キリギリスさんに言われると。なんだか立派に思えるね。おっと、遅れちゃう。またね!」

キリギリスは、雷に打たれたようでした。

キリギ「ぼくは、毎晩お金持ちのお客さんに呼ばれて歌っているけど、さっきのありさんたちの歌はなんだろう?心の中から自然とわきあがってくる歌だ。だから、ぼくの心にもひびいたんだ。ぼくは歌うことでたくさんのお礼をもらってる。だからいい暮らしができている。歌うことがぼくの仕事だ。仕事のために歌を作ってる。でも、ありさんの歌はちがう。まず仕事が先にあって、歌が後から生まれている。音楽的なりろんがどうのとか、全然なってないのに、あんなに心にひびいてくる。ぼくもあんなふうに、心の中から自然と生まれる歌を歌ってみたい」

第三場

キリギリスはコガネムシに相談しました。

キリギ「これまで目をかけてくださっていたことには、かんしゃしています。でもぼくは、働きながら歌うアリたちの歌を聴いて、心がふるえました。もういちど歌を勉強しなおしたいのです」

コガネ「なるほど。君ほどの音楽家は代わりなんて見つからないから、しばらく歌を聞けなくなるのはさびしいが、よく分かった。勉強してくると良い。こまったときはいつでも来なさい」

そして、コンサートの後で、貴族の虫たちに言いました。

キリギ「今までぼくの歌を聴いてくださって、ありがとうございました。みなさんにおわびがあります。みなさんの前で歌うのを、しばらくの間お休みさせてください。ぼくはもっと良い歌を歌えるようになるために、勉強したいのです」

アゲハ「それはこまるわ、わたくしあなたの歌を聴かないとよく眠れないわ。今さら何を勉強するというのよ?」

キリギ「ごめんなさい。今まで良くして下さってありがとうございました。では、さようなら」

貴族たちのなげく声を背に、キリギリスは走り去りました。

第四場

そして次の日、キリギリスはギターを持って、アリたちが来るのを待っていました。

アリたちが来ると、キリギリスはアリたちの歌に合わせて、ギターで伴奏をしながら、行列の後ろについていきました。

アリB「なんだあいつは、昼間から働きもしないでギターなんか弾いて。みんな、気にしないではこぶんだ!」

キリギリスは夜もアリたちの酒盛りする横で歌いました。

それから毎日、昼はアリの行列の後ろで歌って、夜は酒盛りの横で歌いました。

迷惑そうにしているアリもいましたが、キリギリスの歌を喜ぶアリもいました。

アリA「キリギリスさん、いつもありがとう」

キリギ「迷惑になってないかな?」

アリA 「ううん。悪く言うやつもいるけど、ぼくは君の歌を聴きながら働くと、身体が軽くなって、少しも疲れないんだ。夜も君の歌を聴いてから寝るとぐっすり寝られる」

キリギ「ありがとう。最高のほめ言葉だよ。君たちの歌の通りだね。昼の疲れと、仲間のえがおがあれば、じゅうぶん酒がうまい。ぼくはこんなに楽しく歌えたことはないよ。毎日楽しいんだ」

夏が過ぎて秋になっても、キリギリスは毎日アリの所に通いました。

そしてアリたちは、いつもよりも立派なお城をつくり、いつもよりも多くの食べ物を集めました。

一部のアリは、それがキリギリスの歌のおかげだと思っていましたが、多くのアリたちは自分たちがいつもよりも頑張ったからだと思っていました。

第五場

そして、冷たい北風が吹いて、冬が来ました。

その年の冬は寒さが厳しく、食べ物を探そうにも、木の実ひとつ、草一本さえも見つかりませんでした。

アリたちと一緒にいたキリギリスは、たくわえをみんな使ってしまって、冬を越す支度が何もありませんでした。

キリギリスはコガネムシのところへ行きました。

キリギ「冬を越すためのたくわえがないのです。少し食べ物を分けていただけないでしょうか?」

コガネ「自分でたくわえもしないで、人をあてにしてちゃだめだよ。働かなくちゃ」

キリギ「じゃあ、また歌わせてください」

コガネ「新しい歌い手はもう見つかったんだ。君の代わりなんていくらでもいるんだよ。君は自分のつごうで我々のもとを去ったんだ。今年の冬はきびしくてね。助けてあげたくても、こっちもゆとりがないんだよ」

アゲハチョウのところでも、カブトムシのところでも、キリギリスは同じように言われて、食べ物を分けてもらうことはできませんでした。

キリギリスは、最後にアリのところに行きました。

アリB「食べ物を分けてくれだって?じょうだんじゃない。これはみんな我々が、ひたいに汗して集めた大事な食べ物だ。君は夏の間何をやっていた?人がせっせと働く横でのんきに歌っていただけじゃないか。働かなかったのだから、食べ物がないのは当然だ。働きもせず生きようなんて、虫がいいにもほどがある。とっとと帰れ!」

第六場

キリギリスは途方に暮れました。そして、真っ白な雪の原を一人トボトボと歩いていきました。

キリギ「ぼくの仕事はなんだったんだろう?ぼくの歌は仕事じゃなかったのかな?」

キリギリスはもう自分が生きられないことが分かりました。身体は凍えて、指もあまり動きませんでしたが、せめて最後は大好きな歌を歌いたいと、ギターを弾いて歌いはじめました。

キリギ「(歌)悲しいことは すれちがい

   ぼくのよかれと 君のよかれが 知らんかおして すれちがう

   涙がでるのは すれちがうから

   だから 目を見て はなしを聞くんだ

   目を見て聞けば きっとわかる

   ぼくのよかれと 君のよかれが 千里の道をこえて めぐりあう

   すれちがうって 悲しいね ほんとはだれも 悪くない

   めぐりあうって 嬉しいね 分かりあうって 嬉しいね」

キリギリスの歌は、アリたちの家にも届きました。

アリA「キリギリスは、働いていたんじゃないかな。だって、彼の仕事は歌うことだろ?ぼくたちは、キリギリスの歌のおかげで、元気に働けたんじゃないか。こんなに立派な家ができたのも、こんなにたくさんの食べ物を集められたのも、彼の歌のおかげだと思う。みんなだって、歌を聴きながら働くと、身体が軽くなったんじゃない?彼の歌を聴いた夜はぐっすり寝られたんじゃない?ぼくはそうだった」

その言葉を聞いて、アリたちは騒ぎはじめました。「そうだ!」と言うアリもいれば「ちがう!」と言うアリもいました。

アリA「彼は、ぼくたちの所にくるまで、ゆたかに暮らしていた。それは歌を歌うことで糧をえていたからだ。ぼくたちは彼の歌を聴いても、何一つお礼をしなかった。彼ももとめなかった。この冬キリギリスが貧しくなったのは、ぼくたちに無償で歌ってくれたからだ。ぼくは助けに行く」

その言葉に賛同したアリたちが何人も手を上げて、吹雪の中へキリギリスをさがしに出かけました。

アリたちは必死になってキリギリスを探しました。そしてついに、雪の中に埋もれた、彼のギターを見つけました。

アリたちは力のかぎり雪を掘りました。でも、見つかったキリギリスは、もう冷たくなっていました。

脚色・貧乏お父さん

メモ

一般的に「アリとキリギリス」というと、働き者のアリと怠け者のキリギリスというイメージです。

僕は以前からこの構図に疑問を持っていました。そこで今回、キリギリスは音楽家として「働いていた」という解釈でお話を作りました。

「アリとキリギリス」の対局にあるのが、レオ=レオニ作の「フレデリック」ではないでしょうか?フレデリックも夏の間、仲間のネズミが冬支度のために働いているのに何もしません。仲間のネズミたちはフレデリックを怠け者と思っています。

ですが、冬ごもりの時期になって、フレデリックは、仲間のネズミが冬を楽しく過ごせるように「詩」を披露します。フレデリックは詩人としての仕事を冬になってから全うしています。

僕は「フレデリック」をレオ=レオニ版の「アリとキリギリス」だと思っています。

ダウンロードして使ってください

『アリとキリギリス』脚本

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