FIREブームで労働力不足が深刻化する?

2025/03/14

リタイア生活

 FIREしてもうすぐ5年になる僕ですが、最近、ネット上でこんな言説をよく見かけるようになりました。

「FIREする人が増えたら日本社会の労働力不足が深刻化する」

「みんながこんな生き方をするようになったら社会が成り立たなくなってしまう」

要するに、FIREブームは日本社会や日本経済の発展を阻害しかねない危険な風潮だというのです。

でも、これって本当でしょうか?

実は僕、そんな心配はないと思っています。

むしろ、FIREブームって社会の歪みを改善してくれる「神の見えざる手」なんじゃないかと思っているくらいで。

というわけで、今回は「FIREは社会悪なのか」という問いに対する僕の考えを述べさせていただきます。


FIREする人のボリュームゾーンはどこか

日々のニュースなどを見ていると、確かに日本は今、少子高齢化によって労働人口が減りつつあることがわかります。

特に介護や保育の現場で働く人、運送ドライバー、警備員などは人手不足が深刻らしいです。いわゆるエッセンシャル・ワーカー=社会の維持に欠かせない職種ですね。この分野で働く人がさらに減ってしまうとすれば確かに大問題です。

しかし僕が見たところ、実際にFIREしている人々、これからFIREしそうな人々のボリュームゾーンはここじゃないです。

恐らくボリュームゾーンは、わりと規模が大きく、世間一般より給料が高めな会社に勤める40~50代のホワイトカラーサラリーマンたちでしょう。



統計データがないのであくまで僕の印象に過ぎませんが、FIRE達成者のブログやSNS発信を眺めていると、こうした高給取りサラリーマンが長年の会社勤めや株式投資でまとまった資産を築く一方、社畜同然の生活スタイルに疑問を抱き、「一生こんな感じでいいんだろうか」と悩んだ末にFIREを選択するケースが圧倒的に多いような気がします。


中高年サラリーマンはダブついている

では、彼らが労働市場からドロップアウトすることは、社会にとってそれほど大きなダメージとなりうるでしょうか。正直、僕はそう思いません。

というのも、多くの日本企業ではホワイトカラーの中高年サラリーマンがダブついているという現実があるからです。

人間というのは40~50代になると、多くはだんだん頭が固くなり、気力体力も衰え、事務処理能力も仕事量も落ちてきます。だけど年功序列制度のお陰で給料だけは若手社員よりずっと高いし、場合によってはそれなりのポストもあてがわないといけない。そんなこんなで、会社にとっては扱いにくい存在になりがちです。

こうした高給取りオジサンを大量に抱え込んでいることが日本企業の重荷となり、若者の昇給昇進を阻み、結果的に生産性を低下させているのではないかと指摘されているくらいです。

だからこそ、多くの企業が40~50代を対象とした早期退職優遇制度を設けて、社員の若返りを図っているわけです。


40~50代のFIREはむしろ社会貢献

以上のことから考えると、すでに経済的自立を達成してしまった中高年サラリーマンの場合、いつまでも会社にしがみつくより、早々と後進に道を譲ってリタイア生活を楽しんだ方が、むしろ世の中に貢献することになるんじゃないでしょうか。

もしこれが、「リタイア後は生活保護で暮らします」という話だったら「まだ働けるんだから福祉に頼るな!」とツッコミが入りそうですが、これまでの労働で築いた資産の運用益で自立して生きていくわけだから、その批判は当たらない。むしろ、資産を築く過程で人一倍納税しているわけだから、引け目を感じる必要はありません。

(※念のためですが、FIREは自分のためにやるものであって、勤務先や社会のためにやるものではありません。なので、他人から「後進に道を譲れ」と要求される筋合いはないし、雇用者がリストラの方便にするべきでもありません。今回はあくまで、「FIREは社会悪なのか?」というテーマを論じているので、こういう視点で語っていることをご理解ください。また、これも念のためですが、経済的に困窮した人が生活保護を受給するのは法律で保障された正当な権利です。)

しかも、です。

ホワイトカラーの人(特に文系事務職の人)って、AIの進化でこれからどんどん仕事がなくなってゆくと予想されています。だから、このままいったらますます人員がダブつき、リストラの嵐が吹き荒れるかもしれません。

ならば、経済的自由を達成した人からどんどんサラリーマンを卒業して、今のうちから人数調整しておけばちょうどいいくらいなんじゃないでしょうか。


若者に広がるFIRE願望は問題か?

さて、ここまで読んでくれた人の中には

「40~50代のオッサン連中がFIREするのは別にどーでもいいんだよ。問題なのは20~30代の若者たちの間にFIRE願望が広がってることなんだよ」

とツッコミを入れたくなった方もいるでしょう。

確かに昨今、「FIRE願望を持つ若者の比率が増えた」といった類のニュースをよく見るようになってきました。

こちらの記事によると、2024年に実施されたアンケート調査で、20代男性の3人に1人が50歳までのリタイアを希望、30代男性の3人に1人が55歳までのリタイアを希望しているそうです。

でも、これって由々しき事態なんでしょうか?

最初から最後まで働き続ける人生より、もっと自由を満喫できる人生がいい、せめて人生の後半は自由な時間を楽しみたい————というのは、人間としてごく自然な感情です。


これが「他人のお金で一生遊び暮らしたい」とか「犯罪で一発稼いで高飛びしたい」とかだったら確かに問題だけど、「いま頑張って貯めたお金で将来の自分をラクさせよう」と考えるのなら、その若者はむしろ堅実なしっかり者だと思います。

こう書くと、「じゃあ実際問題、20~30代の若者がFIREして労働市場から大量に抜けてしまったらどうするんだよ」と言われるかもしれませんが、それは大丈夫です。

なぜなら、経済的自立の達成には時間がかかるからです。若くしてFIRE願望を抱いたとしても、実際に達成できるのは多くの場合、40~50代になってから。つまり、FIREのボリュームゾーンはどこまでいっても中高年サラリーマンなんです。


優秀な人間はやがて活動し始める

まあ、なかには30代でまとまった資産を築いてFIREしてしまうツワモノもいますが、そんなことができる人はごく少数です。

しかも、そういう人たちって基本的に優秀でバイタリティーがあるから、遊ぶだけのリタイア生活に飽きたら、特技を生かして個人事業を興したり、田舎に移住して野菜作りを始めたり、大学で学び直したりといった感じで、何らかの経済活動や社会活動を始めることが多い。

実際、僕が知っているFIRE達成者の中にもそういう方が何人かいます。結果的に、彼らは活動の舞台を代えただけで社会の一端を担い続けているのです。

(※付け加えると、優秀でバイタリティーのある若者が早々に辞めてしまうような企業って、労働環境や経営方針に問題があることが多いので、社会全体のことを考えれば、こういう企業から人材が流出するのはむしろ良いことだと思います。)

また、FIRE達成者の中には年代を問わず、「生活にメリハリをつけたい」「社会との繋がりを持ちたい」といった理由でゆるくアルバイトをしている人もいます。

その場合はもちろん、ニーズがある仕事じゃないと雇ってもらえませんから、介護・運送・警備などの分野で働く可能性も出てきます。そしたら、エッセンシャルワーカーの人手不足という社会問題の解決にもわずかながら寄与するではありませんか。

つまり、FIRE後に起業するにしても、バイトするにしても、それは必然的に社会のニーズを満たす行為になるわけだから、従来の会社で消化試合のようなサラリーマン生活を送り続けるより、ずっと世の中に貢献しているわけです。

もちろん、僕みたいに起業もバイトもせず、ひたすら趣味を楽しんでいるだけのFIRE民であっても、「職場の若返りに協力し、年功序列のお陰でもらっていた高い給料を後輩たちに回してあげた」という点では社会貢献してますよね、一応。

(退職時にはそんなこと1ミリも考えていませんでしたが)


結論:FIREは社会悪じゃない

というわけで、これまでの話をまとめると、

・FIREのボリュームゾーンはホワイトカラーの40~50代。(多分)

・この層は元々ダブつき気味なので、FIREする人が増えればむしろ企業の新陳代謝が進み、若者が昇給昇進しやすくなる。

・そもそもAIの進化でホワイトカラーの需要は減ってゆくから、今のうちからFIREで人が抜けていくのは好都合。

・20~30代でFIREを達成するような人は基本的に優秀なので、放っておいても経済活動や社会活動を始めがち。

……といった感じでしょうか。

まあ、そんなわけで僕は、FIREブームによって日本の労働力不足が深刻化したり、社会が停滞したりすることはないと思っています。

いや、それどころか、これまで挙げた以外にも社会へのプラスの影響がたくさんあると考えています。最後にそれを列挙して、今回の記事を締めさせていただきます。


FIREブームが日本社会に与えるプラス効果

・人口の東京一極集中が緩和される。(※FIRE民は会社の近くに住む必要がない)

・朝夕の通勤ラッシュが緩和される。

・盆と正月の帰省ラッシュが緩和される。

・観光地の「平日ガラガラ・週末混み混み」が平準化される。

・ボランティアに参加する人が増える。

・田舎で野菜作りを楽しむ人が増えて食料自給率が上がる。

・平日の昼間からブラブラしている大人が増えることで、心身の不調でやむなく休職している人が「世間の目」を気にしなくてよい世の中になる。

まあ、こういう効果が目に見えて現れるようになるには、FIREという生き方が今よりもっともっとメジャーになる必要がありますが。


〈補足〉

FIREブームに対する批判としては、今回取り上げた労働力不足の問題のほかに「納税の義務を果たしていない」といった指摘もあります。こうした問題についても去る3月14日、X(旧Twitter)の音声サービスを使ってFIRE仲間たちと議論してみました。この記事の内容と重複する部分がかなりありますが、興味ある方はこちらで録音を聴いてみて下さい。

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コロナ禍のなか、45歳で新聞社を早期退職し、念願のアーリーリタイア生活へ。前半生で貯めたお金の運用益で生活費をまかないながら、子育てと読書と節約の日々を送っています。ただいま50歳。

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