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オリジナル小説

無料オリジナル小説 ボラ魂2ー15

「へえ。なら」

 ラケットを見つめ、不敵な笑みを浮かべる実。何かを思いついたのだろうか。

 いいですよ。勝負です。

「ふっ!」

 右利きサーバーから見て右に弾むキックサーブ。バウンド後大きく跳ねるため、リターンの取りにくい変化球。初心者では尚更対処し辛いサーブだ。

 真子のサーブが放たれた直後。実は球の軌道を予測。素早く移動。真子のフォームからして、キックサーブと予測したのだろう。球よりも左気味へと身体を構える。

「しっ!」

 実の予測通り。放たれたのはキックサーブ。実は横回転を加えてバックハンドでスイング。緩やかな軌道を描く打球。問題ない。真子は難なくスイング。再び横回転で球を打ち返す。このまま勝負が長引いた場合、技術的に上な真子の方が有利だ。焦らず着実に打ち返して行こう。

 そう考えていた真子だったが、

「っ!?」

 真子にとって予想外の行動。球に向かい直進する実。ネット付近まで近付き、持ち方をコンチネンタルグリップに変更。球を正面に捉える。球速を殺し、球の下面をカットするようにスイング。ドロップボレーだ。

「くっ!」

 反応が遅れた真子。慌ててネットまで詰め寄る。ラケットを振りかざす。だが届かない。球はネット付近を力なく跳ねていった。

「15・オール!」

 真子の初失点を告げる声。真子は動揺。予想外だったのだ。てっきり力押しで来ると考えていたから。それがまさかのトップスライス。そしてドロップボレー。さすがに美子が認めるだけの事はある。侮れない。

 それなら。

「ふっ!」

 気を取り直して真子はサーブを放つ。トップスライスサーブ。実の放ったサーブだ。だが一言にトップスライスと言っても様々な種類がある。トップスピンとスライススピンの割合で、異なる動きを生み出せるからだ。

「ちっ!」

 そう。先の動きは、真子のサーブが左に跳ねるのを知っていたから出来たプレイ。だが今回は違う。トップスライスの動きで回転を変えられるこのサーブ。実では完璧な予測は出来ないだろう。

「30・15!」

「よしっ」

 サービスエースを取った真子。実は口に手を当て思案顔。どうやら何かを閃いたようだ。そうなると、さすがに何回もエースを取る事は難しいだろう。しかし、アドバンテージは依然として真子にあるのだ。

「40・15!」

 よし。次はこの回転だ。

「ちっ!」

「ゲーム真子 トゥゲームtラブ!」

 よし、まだいける。

「あ〜、くっそー、また負けた〜」

 第二ゲーム終了。勝者は真子。実はまたしても敗北。それもほぼラヴゲームで。さすがに悔しいのだろう。声のトーンが珍しく低い。美子は審判台の上から独り言のように、 

「まあ、実さんも筋はいいけど、相手は真木だからね〜」

 そう言って真子をチラリと見下ろす。するとそこには、少し青ざめた様子の真子が見えた。

「はぁ……ふぅ……」

「ちょっと……真木、アンタ顔色少し悪いわよ?」

 美子の声に気付いた真子。審判台を見上げる。そして作り笑いのような笑顔で、

「……そうかな? なんて事ないけど?」

 美子はすぐに嘘だとわかった。しかし今それを指摘するのは妨害行為に等しい事だろう。美子は不本意だが、見て見ぬ振りをして、

「そう……ならいいけどさ」

「うん、大丈夫」

 うん。まだ大丈夫だ。

 

 ピィイィイ!!

「プレイ!」

 ゲーム開始を告げる美子の声が、再びコートへと響いた。

         ★

「ゲーム真子 ファイヴゲームtラヴ!」

「よし!」

 美子がゲーム終了をコールする。これで真子は5ゲーム先取。マッチポイント。あと一ゲーム獲得で真子の勝利が確定する。

 あと1ゲーム……。大丈夫……。

「ちょっと、真木?」

「お〜い、真子?」

「へ? はい、なんですか?」

 気付くと実と美子がすぐ隣にいた。訝しむように真子を見つめている。

「いや、何ってコートチェンジだぞ」

 コートチェンジ。奇数ゲームの終わりに行う行為。つまり今やるべき行動。だが完全に忘れていた。どうやら疲労で上の空になっていたらしい。真子はハッ、となり苦笑いで、

「あっ、あはは。すみません。ぼーっとしてて」

「ふぅ〜ん」

 疑うような視線を向ける実。真子の顔色は明らかに良くない。調子が悪いのは一目瞭然。だがあえて触れることはしない。

「……まっいいか。ってか真子」

「はい?」

 実はビシッ、とラケットを真子に突き出して、

「このゲーム、俺はまだ諦めてないからなっ!」

 にっこり笑顔で宣言する実。既に5ゲーム差。なのに、実は勝負を諦めていない。

「……ここから逆転するつもりですか?」

 真子は疑問に思う。どうしてそんなに楽観視できるのかと。どうしてそんなに熱くなれるのかと。

「ああ、もちろんそのつもりだぜっ!」

 そして同時に羨ましくも思う。真子はすぐに冷めてしまう性格だから。実のようには考えられない。だから少し羨ましい。そして、そんな実を見ていると、自然とこちらもムキになってしまう。この男に勝ちたいと思える。だから、真子も笑顔で、

「そうですか……なら私も全力で行きますよ」

「おうっ。望むところだぜっ」

「はい、じゃあ楽しみにしてますよ」

 なんだか少しだけ気分が回復した真子。先よりも明るい表情で自コートへと向かって行く。美子はそれを横目でチラリ、と見た後に、腕組みをしながら、

「いいの? 敵に塩を送るような真似して。真木、なんかやる気出ちゃったみたいだよ〜」

「ベストじゃない相手と闘ってもおもしろくないだろ? 多分、お前が俺の立場でも同じ事をしたと思うぜ?」

「どうかな〜? 別に真木の事なんかどうでもいいからな〜」

「とか言って心配しまくってるくせに。ツンデレさんだな〜」

「なっ!? ……ふん。実さんなんか、とっとと真木に負けちゃえばいいのに」

 図星を突かれ顔を赤くする美子。実から目線を逸らして、子供のようにいじける。対して実は余裕の笑みで、

「それはどうかな? こっから大逆転が始まるかもしれないぜ?」

「はいはい。まあ、せいぜい頑張ってくださいね」

 手を振り審判台へと戻って行く美子。実は一度深呼吸をして、

「さあて、行くか」

 

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マーティー木下@web漫画家
web漫画家です。 両親が詐欺被害に遭い、全てのお金と職を失いました。 3億円分程の資産を失いました。 借金は800万円程あります。 他に会社に再就職して、 親の老後資金と自分の為に 働きながら漫画を描いております。 どうかお力添えをよろしくお願いします。 拡散などをしていただけると非常にありがたいです。
マーティー木下

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マーティー木下の代表作 自称いけづらの浅間君が主人公の漫画です。
いけづらってなんだろ、いけづらってなに。 自称いけづらの浅間愁と周りが繰り広げるぐだぐたコメディ漫画です。 短いページ数ですので、是非気軽にお読みください。

池面ーいけづらーhttps://mkinoshita-home.com/?p=908


小説家になろうにも掲載されている、私が昔書いたライトノベルの紹介です。
オリジナル小説エンジェルゲートあらすじ

少年、増田 輝希(ますだ てるき)は天使に取り憑かれていた。
「ご主人〜」
そう可愛らしい声で彼を呼ぶのは天使のミカ。
薄桃色のショートボブの少女だった。
「増田のマスター」
その隣で不機嫌そうに呟くもうひとりの天使レミ。
小麦色の褐色肌、さらっした黒の長髪を風になびかせていた。
この二人はタイプは違えど共に整った容姿をしており、何も知らない人がみれば羨むような状況だろう。だが、当の本人輝希の顔は浮かない。彼は二人の天使を交互に見て思うのだ。
一体、なんでこんな事になってしまったのかと。

*少年と天使が織りなすラブコメディです。

2011年頃に書いた作品になります。拙い作品ですがよろしくお願い致します。


小説家になろうにも掲載されている、私が昔書いたライトノベルの紹介です。

オリジナル小説ボラ魂あらすじ

私、真木真子は努力が嫌いだ。
禄那(よしな)市立美咲(みさき)高等学校に通う一年生・真木真子(まきまこ)。
毎日をぼんやりと過ごしていた彼女の前に、
ある日突然現れた先輩・椎野実(しいのみのる)。そして彼は戸惑う真子にこう言い放つ。
「ボランティア部に入ってくれ!!」

*ボランティア部を舞台にしたラブコメ作品です。2010年頃に書いた作品になります。
データが残っていたので、せっかくなのでサイトに順次掲載していきたいと思います。
めちゃくちゃ拙いですがよろしくお願いします。

こちらもよろしくお願いします

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