菓子を扱う会社のマーケティング部に転職してプロダクトマネジャーとして最初に担当したのが発売されて間もないホールズというキャンディだった。その前に働いていた広告代理店でヴィックスの仕事もしていたので知らない領域ではなかったが、代理店とメーカーでは仕事の範囲が大きく異なる。代理店でメディアや調査は経験したが広告制作は未経験だったし、製品の企画や開発はメーカーでなければタッチできない。ちょっと不安だった。

数か月後に次のクリエイティブを作ることになった。外資系ではテレビ広告は世界中で用いられているフォーマットにのっとることが多く、当時スペインやメキシコで使われていた、空気のきれいではない場所でせき込む、ホールズをなめる、のどと気分が軽快になって空中に舞い上がって海岸や花畑などに着陸する、という流れだった。海外でも10年以上使われているパターンで本社もこれをなぞることを強く要請する。他の国の成功例を踏襲できるのは外資の強みでもあるのだが、その国の独自性を無視することもある。
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そもそもホールズの導入自体がそれに近かった。米国人社長が発売を勧め社員が舐めてみたが不味い。飴は甘くておいしいのが普通で、こんなおいしくない飴は売れないと皆が言った。消費者テストの結果もそれを裏付けた。それでも社長はテスト販売をしろと命じ、山梨でのテストマーケティングが始まった。1年間を予定したテスト販売は計画をはるかに上回る実績を示し、テストは短縮され即販売エリアが拡大され短期間でトップブランドに躍り出た。その時社長はこう言った。「日本人の嗜好は独特だから他国で売れたからといって売れるとは限らない、と皆が言った。どこの国に行っても同じようなことを言われたが、他の国で成功を収めたのにはそれなりの理由があるからだ。結局売って見なければ分からないということだよ」。

そんな背景があったので広告に関しても本社の要望を断ることは困難だった。ホールズの広告は新発売時の高速道路の料金所から始まり、会議室や駅のホームなど当時はたばこの煙まみれだった場所に変わりながら、同じ流れが維持された。同じパターンで制作していると空中に舞い上がるシーンが有名になって、「ああ、あの飛び上がる広告の商品ね」と記憶されるようになった。
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ワンパターン広告の大量投下で事業部最大の製品となったが、もともとは英国のコフドロップが前身である。アメリカでも医薬品として売られているので本社は効果を前面に出した表現を求め、こちらは薬事法で効果表現には制約があると答える。製品情報が広告の中心となる米国と、視聴者が広告にエンターテインメント性を求める我が国との違いの狭間でゆらゆらしているうちに、数種ののど飴が発売されホールズは勢いを失った。「のどスッキリ」表現よりも「健康のど飴」のネーミングの方が訴求力が強いのだ。この時はやられた!と感じた。
2023-04-17
今ではコンビニで売られているキャンディの三分の一くらいが「のど飴」を謳っている。ホールズのど飴を販売したこともあったがヒットはしなかった。FMCG(Fast Moving Consumer Goods)とはよく言ったもので消費財の怖さを経験させられた製品でもあった。




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