70歳まで年金受給を繰下げるメリットとデメリット

年金繰下げ受給の損益分岐点

3回に分けた年金受給の記事ですが、これが最後です。

今回は、年金受給を70歳まで繰下げることを考えます。

60歳に繰り上げて受給するメリットを考えると、一概にどちらが得か判断に迷うところです。

前回までの記事を要約すると以下の通り。

・一般的な生活に必要額=2,700万円
・60歳に繰上受給の損益分岐点=81歳
・70歳に繰下受給の損益分岐点=82歳

生活資金に余裕があり、82歳まで生きる自信がある人は、受給を繰下げるとよいでしょう。

しかし、受け取れる金額が多くなるからといって、良いことばかりではありません。今回の記事では、年金を繰下げることによるデメリットを紹介します。

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老齢年金の繰下げ受給

繰下げ受給の概要

老齢基礎年金及び老齢厚生年金は、原則として65歳から受け取ることができ、希望すれば66歳から75歳(1952年4月1日以前に生まれた人は70歳)に繰り下げることができます。

また、国民年金と厚生年金を別々にして繰下げることもできます。

繰上げと繰下げの増減率比較

年金受給を繰り上げると月に0.4%減額しますが、繰り下げると月に0.7%増額します。

・繰上げ:1か月ごとに 0.4%減額。60歳で24%減少。
・繰下げ:1か月ごとに 0.7%増額。70歳で42%増加。

繰下げ受給の注意点

繰り下げることで受給額が増えるといっても、メリットばかりではありません。厚生労働省より注意喚起されています。

1.日本年金機構と共済組合等から複数の老齢厚生年金を受け取ることができる場合は、原則すべての老齢厚生年金について同時に繰下げ受給の申し出をする必要がある。

2.老齢厚生年金の繰下げ待機期間中は、扶養している妻や子に加算される加給年金額(注1)は加算されない

3.老齢基礎年金を繰り下げる場合、繰下げ待機期間中に振替加算(注2)は加算されない

4.加給年金額と振替加算額は、繰下げによる増額が行われない。

5.65歳から年金受給を開始しつつ就労したならば、在職老齢年金制度により年金の全部または一部が支給停止されていたであろう人について、在職支給停止相当分は繰下げによる増額の対象にならない

6.繰下げによる年金額の増額によって、医療保険・介護保険等の自己負担や保険料、税金が増える場合がある。

加えて、繰下げ期間中に死亡した場合でも、遺族年金は増額の対象になりません。加給年金、振替加算を受け取りながら年金を繰り下げるイメージは下図の通りです。

厚生年金加給年金の概要図
※厚生労働省HPより抜粋

1)加給年金:厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある方が、65歳到達時点で生計を維持されている配偶者または子がいるときに加算されます。

(注2)振替加算:夫(妻)が受けている老齢厚生年金や障害厚生年金に加算されている加給年金額の対象者になっている妻(夫)が65歳になると、それまで夫(妻)に支給されていた加給年金額が打ち切られます。このとき妻(夫)が老齢基礎年金を受けられる場合は、一定の基準により妻(夫)自身の老齢基礎年金の額に加算されます。これを振替加算といいます。
※日本年金機構から抜粋

繰下げ受給のメリットとデメリット

繰下げ受給のメリット

1.年金額が大幅に増える

→1ヶ月繰り下げるごとに0.7%増額され、5年間(60ヶ月)で42%増額される。

2.税金や社会保険料の負担が減る可能性

→65歳以降も働き続ける場合、年金を受け取らないことで、所得税や住民税の負担が抑えられる。

3.長生きするほど総受給額が多くなる

→82歳以上生きた場合、65歳から受け取る金額を上回る可能性が高い。

繰下げ受給のデメリット

1.繰下げ期間中は、年金がもらえない

→繰り下げ期間中の生活費は、労働や貯蓄で賄う必要がある。

2.長生きしないと損をする

→損益分岐点を越えずに死亡した場合は、総受給額で損をする。健康でも不慮の事故で死亡するリスクがある。

3.健康リスクがある

→受け取る年齢になった時に、健康を害している可能性がある。医療費や介護費用が増えることで、想定よりも資産が減ることが考えられる。

まとめ

長寿は、良いことだけではなく、リスクになることも有り得ます。

年金を繰下げることの最大のデメリットは、長生きしないと損をすることです。そして、繰り下げ期間中に死亡した場合に、遺族に対して繰下げ期間中の増額分が支払われません。せっかく楽しみにしていた年金がもらえず、まったく大損ということになります。

もし健康に不安がある場合は、若くて積極的に活動できるうちに受給するのも一考でしょう。繰り上げしても繰り下げしても、損益分岐点は81歳~82歳ですから、本当に悩むところですね。

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