富雄丸山古墳 ― 2025年01月28日 15:37
富雄丸山古墳(とみおまるやまこふん)は古墳時代に築造された奈良県奈良市にある日本で最大の円墳である。
概要
奈良市街地から西方の富雄川左岸の丘陵に築造された大型円墳である。奈良盆地の西の矢田丘陵の東を南流する富雄川中流域右岸の台地上に立地する。北側に三条大路が通り、暗越の道路付近で単独の営造である。宝来山古墳(佐紀古墳群南大支群)からは約3km西である。北方に大阪平野と奈良盆地を結ぶ「暗(クラガリ)越え」が走る交通の要衝である。 円丘の径は109mで、高さ14.3mの三段築成である。 墳丘北東側に造出を有する。特異な形の「盾形銅鏡」「蛇行剣」が出土したと、2023年1月に報道されたことで知られる。この鏡と剣はいままでに類例のない形とサイズである。国宝級との声もある。墳頂部は盗掘を受けているが、造り出しの粘土槨は未盗掘であった。 1段目平坦面に円筒埴輪列があり、10cm間隔で密に樹立する。南東側から囲形埴輪と家型埴輪が出土した。囲形埴は60cm以上の正方形である。中に30cmの家型は庭と水槽型埴輪が入る。水辺の祭祀儀礼を示す最古の囲形埴輪である。二段目平坦面に鰭付円筒埴輪列がある。
張出部
- 幅45m、長さ10mの方形である。平坦面に3cmの河原石がある。斜面に拳大の河原石による葺石を伴う。
発見
発見された銅鏡は「だ龍文盾形銅鏡」と命名された。鏡面の面積は過去最大の福岡県・平原遺跡の銅鏡(直径46・5センチ)を上回る。盾のような形をした鏡が見つかったのは、今回が初めてである。文様面は国産のだ龍鏡2枚を配置したデザインである。板の成分は、銅にスズや鉛を混ぜた青銅であった。 長さ64cm、幅は約31cmである。木棺の蓋を蔽う被覆粘土の形状に合わせて斜めに立てかけられていた。背面中央に紐があり、その上下に倭鏡に認められるだ龍鏡の図像文様が確認できる。ほかに鋸歯文を中心とする文様がある。内区外周に半円方格帯が備わる。三角縁神獣鏡では環状乳、半円方格帯を表す例は少ない。
蛇行剣
全長237cmで、幅約6cmの鉄剣である。最古級の大蛇行剣である。木製の鞘に収める。 日本最大の鉄剣であり、蛇行剣としては日本最古の事例である。 鉄剣は左右に屈曲した「蛇行剣」であり、漆塗りの柄や鞘の痕跡が残っている。完全な形で出土したものとしては過去最大である。奈良大学の豊島直博教授は「あれだけ長い剣を作ろうとすると、相当大きな炉や人と道具を揃えないといけない。素材もたくさんの鉄が必要になるので、高度な技術と製作体制が必要になる。当時の鍛冶技術の最高傑作といえる」と話す。 今尾氏によれば、この寸法は後漢単位尺の十尺に相当する。倭の工房で生産した蓋然性は高いとする。今尾氏は倭の4世紀に中国起源の尺度を理解していた可能性があると指摘する。
明治の盗掘
1879年(明治12年)ころに墳頂が盗掘された。副葬品の一部は天理参考館や京都国立博物館などに収蔵されている。盗掘を見た人の証言では、「地表下約2・4メートルに礫層があり、この真ん中の粘土の中に、刀、鏡、石製品などがきれいに並んでいた」とされる。石製品(鋤形石、刀子形、ノミ形、琴柱形、碧玉合子、鉇形)、鉄製品、有鉤銅釧を発見したとされる。 京都在住の弁護士で、書画や骨董品の収集家として知られた守屋孝蔵のコレクションとなったが、1957年に国の重要文化財に指定され、1968年に京都国立博物館が購入した。
調査
- 第1次調査:2017年度
- 発掘計画策定のための航空機レーザー測量により、3段築成で直径110mの造り出し付き円墳であることが判明した。高さ14.3mで、北東側に「造り出し」と呼ばれる方形の張り出しがあることが確認された(参考文献5)。
- 第2次調査:2018年度
- 埋葬施設の再調査を行い、墓坑1段目の輪郭を確認し、副葬品の一部が出土した。直径は復元で109mとなり、日本最大の円墳と判明した。埋葬施設の東側では墳頂平坦面の中心部がさらに1段高まる壇を確認した。
- 一段目、二段目平坦面では中央に円筒埴輪列を確認した。
- 造り出しは北西側で斜面が二段になっている。葺石が良好に残存していた。
- 第3次調査:2019年度
- 普通円筒埴輪列のほか、鰭付円筒埴輪の配列を確認した。
- 第4次調査:2020年度。
- 南東側くびれ部で円丘部から作り出しへと屈曲する基底石と葺石を確認した。斜面の 葺石は7cm程度の石材であるが、基底石は20cmの石材を使用する。造り出し北西側の斜面が三段(上・中・下)に構築されていることが判明した。これは珍しい作りである。
- 第5次調査:2021年度
- 葺石の下から続く排水溝を検出した。幅約0.7m、深さ0.3m以上。溝内に葺石と同様の石材を詰める。造り出し側面の埴輪列が前面で途切れることが判明した。
- 第6次調査:2022年度
- 造り出しの調査。粘土槨から蛇行剣と盾形銅鏡を発見した。
- 2023年1月25日、造り出しを発掘し、全長5メートル前後の木棺を収めた埋葬施設を新たに発見したと報道された(参考文献4,5)。木棺を覆う粘土の中から、全長約2・37メートル、幅約6センチの鉄剣と、長さ約64センチ、幅約31センチの銅鏡が重なって出土した。過去に類例のない盾形銅鏡と全長2メートルを超える巨大な鉄剣である。銅鏡も鉄剣も国内で過去最大のものである。鏡、剣ともに古墳研究史上の画期的な発見とされる。
- 第7次調査 令和5年12月4日~令和6年3月31日にかけ行われた。 成果は、木棺の規模と構造が判明したこと、水銀朱の散布を確認したこと、竪櫛を格にしたこと、青銅鏡3面が出土したことである。
木棺
丸木をくりぬいて作られた木棺は未盗掘とみられ、保存状態も良好だった。「木棺」が盗掘されない状態のまま、木棺本体が見つかるのは珍しいことである。下部の本体である「身」と呼ばれる部分は、長さ約5.6m・幅は70cmほどのサイズで、全体の約7割が残存する。 木棺は、両端を小口板で密封し、その内部空間を2枚の仕切板で3分割していた。棺に使用されている樹種は、棺蓋・棺身・小口板がコウヤマキであったが、仕切板2枚だけがスギであり使い分けがされていた。 2025年1月27日、割竹形木棺の木棺に縄掛突起があることが公表された。縄掛突起は長さ16cmでふたと身の両端に2本ずつの計8本の縄掛突起があったと推定されており、うち3本が現存する。突起同士を縄で結んでふたと身を密封する説は埋葬状況から否定された。ふたをかぶせる時点で身の突起は粘土に覆われて埋まっていたため、縄で結ぶことができない構造と判明した。運搬用の突起とみられている。
竪櫛
第7次調査では主室の南東端から漆塗の竪櫛が9点出土した。全長14センチメートル・棟幅2センチメートルの小型品である。髪につけるアクセサリーとしてだけでなく、葬送儀礼で使われたと推察されている。
規模
- 直径109m ,高さ14.3m(第一次調査、第二次調査)
遺構
埋葬施設は粘土槨で、内部には割竹形木棺(推定長6.9メートル弱)が据えられた。
遺物
- だ龍文盾形銅鏡
- 蛇行剣
- 斜縁神獣鏡
- 鍬形石
- 管玉
- 銅鏃
- 刀
- 剣
- 刀子
- 鏃
- 鋤先
- 普通円筒埴輪 底径25cm
- 朝顔形埴輪 底径30-34cm
- 鰭付楕円筒埴輪
- 形象埴輪 家、盾、蓋(きぬがさ)、草摺
伝出土品
京都国立博物館
- 鋤形石
- 琴柱形石製品
- ヤリガンナ形石製品
- ノミ形石製品
- 刀子形石製品
- 斧頭形石製品
- 合子
- 管玉
- 小玉
- 有鉤釧形銅製品
天理参考館
- 三角縁神獣鏡 3面
- 奈良市埋蔵文化財センター保管 弥勒寺所蔵
- 三角縁神獣鏡 1面
築造時期
4世紀 前半から後半
指定
なし
現場の一般公開
奈良市教委は2023年1月28日12時半~15時と29日10~15時、奈良市丸山1丁目の富雄丸山古墳の発掘現場を一般公開した。出土現場を見学できる最後の機会のため、1月28日は1403人、29日は3100人、合計4503名が参加し、長蛇の列をなした。
被葬者像
奈良市埋蔵文化財調査センターの村瀨陸研究員は「我々の想像以上に大王に近い人物である」と語る。出土場所は、墳丘の北東方向に方形に突出した「造出し」の粘土槨で、調査によって埋葬施設であることが判明している。
アクセス等
- 名称:富雄丸山古墳
- 所在地:〒631-0056 奈良県奈良市丸山1丁目1079-239
- 交通:近鉄学園前駅(28系統)・富雄駅(50系統)・近鉄郡山駅(38系統)から奈良交通若草台行き、もしくは奈良県総合医療センター行きバス「丸山橋」下車徒歩約5分
参考文献
- 肥後和男・竹石健二(1973)「日本古墳100選」秋田書店
- 大塚初重(1996)『古墳辞典』東京堂出版
- 「富雄丸山古墳の調査 第一次から第三次」奈良市埋蔵文化財調査センター速報 展示資料67
- 「国内最大の鏡と剣出土「金工の最高傑作」」日本経済新聞、2023年1月25日
- 「直径110m国内最大の円墳と判明」朝日新聞,2017年11月16日
- 『木棺の突起は運搬用に作られたか 保存状態良く「第一級の史料」』産経新聞、2025年1月27日
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