2023-5-23 20:27
恋とは(レサカ)
恋ってもっとフワフワとした、甘くってかわいらしいモノじゃなかったっけ。
カフェテーブルを前に、足をプラプラと揺すりながら、レッドはぼんやりとそんなことを考えた。
数少ない友人のひとりであるグリーンは、昔からよくモテていた。たくさんの女の子たちがグリーンに恋して憧れて、目をキラキラと輝かせていたのを、覚えている。
レッドは恋愛には興味がなかったけれど、ライバル兼友人がそんなであったから、恋の話はやたらと耳に入ってきた。
恋すると、景色まで鮮やかに輝いて見えるだとか、心がウキウキと弾んで心地いい、だとか。それと同時に、ひどく切なくてキュウッと心が引き絞られるものでもある、だとか。
だから恋愛というのは、ポップでカラフルで、それでいてちょびっと苦い、グレープフルーツのようなモノだと思っていたのだ。
――それが、どうして。
ずるずると行儀悪くストローで炭酸を飲み込みながら、向かい席に座る相手をチラっと見る。
「食事はもう済ませたのか」
「……まだ、だけど」
「なら、再会を祝しておごってやろう。好きなものを頼め」
目の前でメニュー表を開いたのは、悪の組織の元ボス、サカキだ。
アローラ地方、ポニ島。ホエルオーの形をした独特のレストランの中にて、知古の男と鉢合わせになった時は本当に驚いた。
サカキは、つい先ほどまで被っていた帽子を外し、コートと共に畳んで隣のイスに置いた。その下に置かれたスーツケースにチラっと視線を送りつつ、レッドはメニュー表を眺めた後、一番シンプルなものを言った。
指差されたメニューを確認したサカキは、眉をヒョイと上げて、給仕を読んだ。
「このZもりというのを一つと、おおもりをひとつ」
「え……ちょっ、サカキ」
「お前はZもりだ。コレくらい食えるだろう?」
レッドが決めたメニューの、ランクが三つ上の品を躊躇なく頼み、サカキはメニュー表を片づけた。
「まさか、おごりに気をつかう殊勝さがあるとはな。容赦のない注文を覚悟していたんだが」
「……だって。ぼく、二十歳過ぎたから通常料金でしょ。なんか、悪いかなって」
「お前は案外、ポケモン勝負以外は謙虚だな。誠実で好ましいことだ」
男はサラリとそんなことを言って、レッドの帽子のつばをピン、と弾く。
気安い仕草と、ニヤリと笑ったその表情。シャツから見え隠れする喉ぼとけと、テーブルの上に置かれたがっしりとした指。
そんな一つ一つが、ヒリヒリと沁みるように目に刻まれる。アイスロズレイティーに口をつけるサカキの横顔を盗み見しつつ、ふぅ、とレッドは息をついた。
この男を見ると、なんだか無性に喉が渇く。
余裕そうな顔を、崩してやりたい。軽率に「好ましい」なんて言う彼の心に、もっと重い感情をねじ込んでやりたい。
ただ並ぶだけの平行線ではなく、引きずり込んで、同じ線上にむりやり立たせてしまいたい――。
「ずいぶんと、むずかしい顔をしているな。腹でも減ったのか?」
「……すごく、すいてる」
「それはいい。たくさん食え。わたしの身長を超えられるくらいにな」
笑う男の顔を、レッドはジッと見つめた。
キラキラなんて輝かない。心がウキウキと弾まない。
けれど、この男の世界の中心に自分がいてほしい、という欲求と、乾いた心が燃えたつような、火山の噴火口さながらの熱さがあった。
ギラギラと、自分のまなざしは燃えているだろう。それは、食事の後に約束しているポケモン勝負への期待だけではない。
きっと恋というのは、ひとつの形だけではないのだろう。
テーブルに届けられたZヌードルを前にして、レッドは食器を手にとった。
この恋を成就させるのに、いったいどんな手を使おうか。
そう、心の中で考え込みながら。
だから恋愛というのは、ポップでカラフルで、それでいてちょびっと苦い、グレープフルーツのようなモノだと思っていたのだ。
――それが、どうして。
ずるずると行儀悪くストローで炭酸を飲み込みながら、向かい席に座る相手をチラっと見る。
「食事はもう済ませたのか」
「……まだ、だけど」
「なら、再会を祝しておごってやろう。好きなものを頼め」
目の前でメニュー表を開いたのは、悪の組織の元ボス、サカキだ。
アローラ地方、ポニ島。ホエルオーの形をした独特のレストランの中にて、知古の男と鉢合わせになった時は本当に驚いた。
サカキは、つい先ほどまで被っていた帽子を外し、コートと共に畳んで隣のイスに置いた。その下に置かれたスーツケースにチラっと視線を送りつつ、レッドはメニュー表を眺めた後、一番シンプルなものを言った。
指差されたメニューを確認したサカキは、眉をヒョイと上げて、給仕を読んだ。
「このZもりというのを一つと、おおもりをひとつ」
「え……ちょっ、サカキ」
「お前はZもりだ。コレくらい食えるだろう?」
レッドが決めたメニューの、ランクが三つ上の品を躊躇なく頼み、サカキはメニュー表を片づけた。
「まさか、おごりに気をつかう殊勝さがあるとはな。容赦のない注文を覚悟していたんだが」
「……だって。ぼく、二十歳過ぎたから通常料金でしょ。なんか、悪いかなって」
「お前は案外、ポケモン勝負以外は謙虚だな。誠実で好ましいことだ」
男はサラリとそんなことを言って、レッドの帽子のつばをピン、と弾く。
気安い仕草と、ニヤリと笑ったその表情。シャツから見え隠れする喉ぼとけと、テーブルの上に置かれたがっしりとした指。
そんな一つ一つが、ヒリヒリと沁みるように目に刻まれる。アイスロズレイティーに口をつけるサカキの横顔を盗み見しつつ、ふぅ、とレッドは息をついた。
この男を見ると、なんだか無性に喉が渇く。
余裕そうな顔を、崩してやりたい。軽率に「好ましい」なんて言う彼の心に、もっと重い感情をねじ込んでやりたい。
ただ並ぶだけの平行線ではなく、引きずり込んで、同じ線上にむりやり立たせてしまいたい――。
「ずいぶんと、むずかしい顔をしているな。腹でも減ったのか?」
「……すごく、すいてる」
「それはいい。たくさん食え。わたしの身長を超えられるくらいにな」
笑う男の顔を、レッドはジッと見つめた。
キラキラなんて輝かない。心がウキウキと弾まない。
けれど、この男の世界の中心に自分がいてほしい、という欲求と、乾いた心が燃えたつような、火山の噴火口さながらの熱さがあった。
ギラギラと、自分のまなざしは燃えているだろう。それは、食事の後に約束しているポケモン勝負への期待だけではない。
きっと恋というのは、ひとつの形だけではないのだろう。
テーブルに届けられたZヌードルを前にして、レッドは食器を手にとった。
この恋を成就させるのに、いったいどんな手を使おうか。
そう、心の中で考え込みながら。
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