湖風の湖へ帰りぬ麦の秋

 

「方円」2022年7月号円象集掲載。

「麦の秋」は夏の季語。麦が黄金色に実る初夏の頃を指す。この場合の「秋」とは実りの時という意味で使われている。私の勝手な思い込みかもしれないが、JR京都線(東海道本線)の車窓から琵琶湖を眺める風景の中に、早場米で知られる江州米の田んぼとともに、金色の麦畑が広がるという光景をよく目にする。過去この句を含めて「方円」には6句、麦の秋を使った句を詠んでいるが、2句が滋賀県で詠んでいる。この日は琵琶湖から山に向かって風が吹き、麦畑が山側へ波打っていた。ふとした瞬間、その波が逆向きになった瞬間があった。目の錯覚かも知れないが、琵琶湖から吹いた風が、また琵琶湖へ戻っていく。そんな風に見えて詠んだ句。

山口誓子の代表句、「海に出て木枯帰るところなし」も、風を題材にした句。拙句と名句を並べるのは非常におこがましいが、俳句の世界では、風を題材にしたものが多く、また季語も風にかかわるものが非常に多い。夏の季語だけでも、青嵐、風薫る、やませ、南風(みなみ)、黒南風(くろはえ)、白南風(しろはえ)と、実に多種多様。風は人間の肌が直接感じる最も身近な自然現象。それを詩歌や文学に使うのは、人間にとってごくごく自然なことなのだろう。風に当たって、「あ、風が吹いた」だけではなく、それをきっかけに、今見えている風景を深堀してゆく。俳句を趣味にしている人間の、ある意味癖なのかもしれない。

 

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