2025年1月20日、トランプ2.0が始まる。
2016年にトランプが選ばれたとき、ぼくは「やっぱりアメリカの民主主義はたいしたもんだ」というのが第一の感想だった。
あんなへんてこな大金持ちでも、メディアや知識人がよってたかって叩いても、国民が良いと思えば選ばれる。
国民が自立しているからだ。日本ではこういうことは起きない。国民はみんなで寄りかかりあっているからだ。日本社会の美質はいまある民主主義には向いていないのだろう。お上はだいたいよいことをやってくれると信じていて、メディアが作る空気には従っておいた方が無難だと思っている。与党も野党もリベラルだから選択肢もない。
ぼくの人生はいつもなぜか少数派(全共闘→プータロウ→歴史授業改革)で、大勢から叩かれ続けたので、こういうありえないことが起きるのはなかなか快哉なのだ。
あのとき、わずかな人がトランプの可能性を教えてくれていた。ぼくが学んだのは江崎道郎さんと渡瀬裕也さん。テレビからはあまり情報を取らないようになっていたので木村太郎さんの発言は知らなかった。
ただ、なぜいまトランプなのか?という全体の景色はよくわからなかった。
「民主党・リベラル・大きな政府」VS.「共和党・保守・小さな政府」という古典的な見方では、今起きている地殻変動はつかまえられなかったからだ。
そのあといろいろ調べてきて、会田弘継さんの本がいちばんわかりやすく、全体像をとらえていると思えたので紹介することにした。
以下、会田弘継『それでもなぜ、トランプは支持されるのか』(東洋経済新報社)から学んだことの要約と感想です。「アメリカ地殻変動の思想史」という副題がついています。
1 経済的な格差への改革(階級闘争的)
米国民の世帯資産(2023年第3四半期統計による)
・上位10%(平均約10億円)=全世帯資産合計の66.6%
・学歴でみると:大卒の五分の一が高卒、それ以下は十分の一
・(ジェフ・ベゾス+ビル・ゲイツ+ウォーレン・バフェット)=全国民の下位50%の合計
・資産と学歴は世襲されて固定した「階級社会」が出現している(新封建社会?)
低学歴の白人労働者階級の死亡率が急上昇「絶望死」(自殺・薬物・飲酒肝障害)
これがトランプを大統領にした。だからトランプは経済政策では保守ではない。従来の共和党の小さな政府ではない。共和党は乗っ取られたのだ。民主党の左派である社会主義者サンダースと右における並行的な立場である。
トランプは階級闘争を始めていると見られるようになった。
アメリカの経済政策の新しい見方
1 1930年代~70年代(40年間):ニューディール(社会主義)時代
F・ルーズベルト・トルーマン・アイゼンハワー・ケネディ・ジョンソン・ニクソン・フォード・カーター
2 1980年代~2020年代(40年間):ネオリベラル(新自由主義)時代
レーガン・ブッシュ・クリントン・ブッシュ・オバマ・トランプ・バイデン
製造業からサービス業への産業構造の転換
ネオリベラル時代は1980年のレーガンから始まるが、それを継承して本質的に実行した(格差を広げ中間層を絶滅させった)のはオバマだったと見られている。この時代に民主党は上流サービス業=グローバル企業(金融・IT・環境など)・上流階級・知識人の政党に転換していった。統計データはオバマ時代に今の格差まで広がったことを教えている。
さらに、911後の対テロ戦争とリーマンショックが最後の一押しになった。
第一次トランプ期には格差は若干縮んだがバイデンでまた大きく開いた。
この途方もない格差を見ると、これでは国はやっていけないと思うのが普通だろう。
日本の格差などお花畑である。
「民主党=従来の共和党=エスタブリッシュメント全体」という構図に、それぞれの左右で抵抗が始まった。
それがサンダースとトランプの反乱だった。今回はとりあえずトランプが勝った。
2 思想・文化戦争
1980年以後の支配階級(金融資本家・テクノクラート・知識人・お金持ち)と結んだ民主党は、彼らの思想を全面的に支持して文化戦争を展開した。
ポリティカル・コレクトネス(PC)に始まるネオリベラル思想・文化政策。
これは主観的には「そこに悪がある。悪は滅ぼせ。善は救え。悪を善に変えるための強制・自由の制限・検閲などは正しい。悪には表現の自由はない。内心の自由もない」という思想である。しかも「何が悪で、何が善かは俺たちが決める」というおまけがつく。これはウッドロー・ウイルソンの延長線上だがある種の観念の病気である。
ウイルソン思想は世界を混乱に追いやり第二次世界大戦の遠因となった。
現代のPCはまだどうなるのかわからない。とにかくトランプはこの流れを押しとどめようとしている。
PCの延長線上に一般国民には理解できないような極左思想がメディアから押し付けられていく。
多様性、公平性、包括性 ( ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン diversity, equity, inclusion)
LGBTQ
BLM
歴史教育の極左化(アメリカは奴隷を使うために建国された国)
妊娠中絶
非合法な移民の果てしない流入
アイデンティティーポリティクス・・・
一つ一つの理念や運動にはそれぞれ価値ある動機がこめられているのだが、いずれも左翼観念の自動運動に乗って果てまで行こうとする。すると、大多数の国民の対場が否定されて、マイノリティが救われることが正義だというところまで行ってしまう。
歴史教育では現在の特定の価値観で、先人の命や立場や功績が否定されていく。
言葉狩りが始まる。
そしてとどめは、キャンセルカルチャー(言葉尻をとらえてSNSで攻撃し教授などの職を奪う)だった。これが跋扈するに及んで、右派だけでなく、自分にも火の粉が飛んでくることが分かったアメリカの左翼知識人もようやく重い腰を上げるようになっている。
トランプの就任を前に、アメリカ社会でDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)の方針をいったん白紙に戻す動きが出てきている。これほど早い反応は「行き過ぎ」を感じていた企業や団体が多かった証拠だろう。
トランプはこれと戦うことを明確にした。
この思想戦争がいまのアメリカの支配層(リベラル・左翼)によって引き起こされ、国民は被害者だと明示している。サンダースはこの思想に肯定的だったが民主党内で勝てなかった。
学生はサンダースが好きだったが、貧乏人や真の弱者はトランプを支持した(黒人男性・ヒスパニックも)。
土着しているふつうの国民はどこの国でも「極端な・新しい思想」にはおいそれとついていかない。生活というのはそもそも「保守的な考え方」で成り立っているからだ。
かつてのレーニンもこの国民の文化の壁によって、「子供は家庭から引き離して社会が育てる」等の共産主義的な文化方針を大転換せざるをえなかった。
保守派の知識人はPCに始まる上記の一連の文化戦争が「共産主義思想(マルクス主義)」と同質だとみなしているようだ。
さて、そういう次第でアメリカは変わる。問題は日本はどうするかである。
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