英検1級を圧倒したこの1冊【6】英文ライティングのメタモルフォーゼ | ひとときのときのひと

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だいたい毎日。



まずは英語から。

 ここでは、英検にこだわらず「ためになる英語」学習について手に入りやすい本の案内として説明をしていきます。

 

 今回取り上げるのは、この本、

 

 

「英文ライティングのメタモルフォーゼ 鈴木健士著」、2023年1月初版の比較的新しい本です。

 

 なぜ、この本を「推し」の一冊として取り上げたのか。その答えに移る前に一つ読者にこんな質問をしてみたいと思います。

 

 いまあなたが電車の中にいるとして、車掌のアナウンスを聞いたときにどちらを正解としますか。次の二択から一つを選んでみてください。

 

A:ドアを閉めます。

B:ドアが閉まります。

 

 大方の方はB:ドアが閉まります、を選ぶのではないでしょうか。そちらの方が圧倒的にこの国では耳に入ってくるからです。

 

 しかし、ドアは、自分で閉まってくれるものでしょうか。いや、確かに電動ではあるものの、ドアの意思で動いているわけではないでしょう。人が「閉め」ているのです。

 

 日本人と言うか日本語は、こういうコミュニケーションを取りたがる癖があるのです。誰が主体だとか何が目的物か、といったことは、重視しない。何が原因か何が結果かを明示しない。あいまいさで成り立っているのです。

 

 そこで、ドア君だかドアさんがひとりでに閉まってしまうような、車掌の責任をぼかしたような、あいまいな表現をしてしまうのです。

 

 実は、この質問についての話は、20代で広告人として駆け出し立ったころ、大先達である土屋耕一氏のエッセイを読んで知ったのです。

 

 が、実はそのときはこの自分もB:ドアが閉まります。を正解としてしまっていたのでした。しかし、よく考えれば、正解は、どう見ても車掌が主体となって

 

 A:ドアを閉めます。

 

 なのです。

 

 そこで、この本の紹介に移りましょう。

 

 結論から言えば、この本の魅力は、こういった日本文化というか日本人の習性でついつい「日本語発想の英語」を書いてしまう癖を矯正してくれます。

 

 一例をあげてみましょう。

 

 (彼は)黒人の子どもたちを教育すれば、将来、農場労働者として使えなくなってしまうと考えていたのだ。

 

 こんな文章を英訳するとき、読者はどういう切り口で書き出すでしょうか。

 

 普通の日本人、たとえ上級者でも必ずと言っていいほど、If(もしも)を使った英文にしてしまうのではないでしょうか。

 

 しかし、この本では、この形をを紹介しながらも、動詞ingを主語にした英文らしい英文を比較し、こちらを「推し」ています。つまり、

 

He believed that educating Black children would ruin useful future farm laborers.

 

 と書くことを勧めています。

 

 ちなみにいまマイクロソフトの自動翻訳で試してみると、こんな英文です。やはり ifを使った形になっています。

 

He believed that if he educated black children, they would not be able to use them as farm laborers in the future.

 

 もう一例挙げましょう。下記の和文を英語訳すとしたらどうでしょうか。

 

 10年近くヨーロッパの言語を勉強したのだが、日本語を学ぶ準備にはならなかった。

 

 十中八九、I(私は)を主語にした英文にするでしょう。日本人は。

 

 しかし、著者は「名詞のカタマリを主語にすること」でこうできると説いています。

 

 My nearly ten years of studiyng European languages did not prepare to learn Japanese.

 

 こう書いてあると、何が原因で、何が起きたかが非常に明確になります。

 

 この原稿の冒頭で説明した、車掌のアナウンス「ドアが閉まります」に代表されるような、日本語特有のぼんやりした感じがなくなります。

 

 また、Iを主語にした分より、より引き締まった効果も出ます。日本人にありがちな、頭の主語を何度も連ねる愚を避けることもできます。

 

 といった点で筆者も非常に多くを学ぶことができたので、おすすめする次第です。

 

  ただし、この本は、英検で言えば準1級、TOEICでいえば800点以上で、しかも実務で英語を使っている方向きです。もちろん、英語再開人が「しょっぱな」から読んでも悪くはありませんが。

 

  やはり日本語を訳してなんらか英文を書いてみたものの、どこか日本語発想ではないかという疑念があった時や、あるいは文頭の主語がIとかHeとか人称代名詞に偏ってしまうことにこれでいいのかという疑問が湧いてきたときの経験が」ある方には、この本が相当「効き目のある」薬になります。

 

 また、英文の素材として紹介されているエッセイの中身そのものも、読んでいて先を読みたくなる魅力にあふれています。

 

 以上、あなたの英語学習の参考になれば幸いに思います。