JRと私鉄は駅名の外国語併記の際、日本語の発音/呼称を表わさない中国漢字を使うのではなく、表音文字ピンインで表記すべきだ

駅名の外国語併記に中国漢字が使われている。しかし中国漢字は日本語の音を消してしまう。この大欠点をなくす代替策を提言する。

序論  新しくブログに掲載する作品のテーマを導く

2023年12月30日 | 駅名の外国語表記
新しくタイトルを付けて掲載する作品につながるお話

〈中国人旅行者の発した行き先の発音を考える〉
はっきりいつ頃だったかは思い出せませんが、恐らく2000年代前半か中頃のことではないだろうか、Intraasia は日本を訪れた時にJRや私鉄の駅名に中国語・華語と韓国語が併記されていることに気が付いて、ちょっと意外な思いを感じました。
当時の Intraasia はマレーシア居住(移住)時代であり、時たまごく短期間だけ日本を訪れていた。Intraasia は日本国外に居るとき、日本語のニュース類や記事は、印刷されたものであれネットに載っているものであれ、昔から全く読まないので、日本事情には疎いのです。

駅名の中国語・華語と韓国語併記に関して、その後マレーシアでの移住を終えて去るまで、正直言ってほとんど考察したことはなかった。日本に2010年代中頃から再度住むようになって駅を日常的に使うようになると、中国語・華語の併記に何か違和感を覚えるようになった。

そのことをもっとよく考えるようになったのは、何年か前に(2010年代後期のこと)成田空港で見かけたある出来事がきっかけになった。空港から東京駅へ向かう格安バスに Intraasia が乗り込み座席で発車を待っていると、2人連れの中国人女性が乗ってきた。
彼女たちは運賃前払いに対応する運転士に向かって「yinzuo, yinzuo」と何回も言っていた。運転士は最初少し戸惑ったようだったが、すぐに言っている意味が分かったらしい。yinzuo [インツオ] とは漢字で書くと銀座だ。注:発音のカタカナ表記はあくまでも便宜的です

このバスは東京駅を経由して銀座へ行く。バス停の行き先に、「銀座」に併記して簡体字で「银座」と書かれていたかどうかは覚えていないが、今 Intraasia の手元にある同バス会社発行の紙の時刻表にはちゃんと簡体字、繁体字、ハングルでの停留所名が併記してある。

この2人組女性は、その発音と振る舞いから間違いなく中国人であった。Intraasia はその長年の東南アジア生活経験から、東南アジア華人はこういう発音と振る舞いはまずしないことを知っている。つまりこの2人組は銀座を中国語でまたは中国語として読んでいるわけだ。
格安バスの性格から、中国人旅行者や韓国人旅行者の利用が少なくないことは容易に推測できる。だからそのバス運転士は中国人乗客によるバス停名呼称をそれまでにも何度も聞いたことがあり、その発音の意味を察した、と Intraasia が判断しても間違いはないだろう。

付け加えておく。東南アジア華人の華語と中国人(台湾人については後日触れる)の話す中国語(普通語)は、書記すれば同じ言語だが、その発音などに両者間で微妙に違いがあり、聞き慣れた耳なら、彼らは中国人だろう、いや東南アジア華人だろう、と推測がつく(断定ではない)。

では中国人旅行者は、なぜ銀座を「ギンザ」と呼ばずに「yinzuo」 と呼ぶのか? もちろんそのバス停行き先名にはラテン文字綴りで "Ginza" と併記してある。このような日本語駅名にラテン文字綴りを併記することは首都圏のほとんど全ての駅で昔からほぼ同様であろう 。

ローマ字が外国人にどのように発音されるかの説明

〈駅名のローマ字綴りの読まれ方は様々である〉
駅名のラテン文字綴りは、一般にローマ字綴りと呼ばれているが、英語綴りを模したものも混じっている。だからラテン文字綴りには、日本式のローマ字綴りもあれば、書いた人が英語ではこう綴るはずと思った”英語を模した綴り”もある、と言ってもいいだろう。
要するに、英語の母語話者と非母語話者を問わず、とにかくある程度以上に英語を解する外国人向けに、駅名やバス停名に関して、できるだけ日本語風の発音を知らしめるまたは日本語風に発音して欲しいという期待を、ラテン文字綴りには込めているわけだ。

ここで強調しておくことが1つある。駅名のラテン文字綴りを日本人が期待するように、外国人が発音してくれる保証はまったくない。なぜなら、かなり多くの人は各自の母語の影響を多分に受けて、その母語の発音規則・慣習によってラテン文字を読むからだ。
注:上記では”母語”であり、”母国語”ではない。人はまず母語の影響を受けるまたは残しているからです。母語と母国語をきちんと区別することは必須知識です。

例えば多くの欧州言語話者には、母音と母音の間に挟まれた子音は一般に有声音で読むという規則・慣習がある。例:駅名の恵比寿 Ebisu や大崎 Osaki の s は[ズ]と濁って読まれる可能性が高い。なお確実に [ス] の発音を得る綴りにするには "ss" と s を重ねる方法がある。

何語かの声調言語の母語話者であれば、他言語を発音するときその声調がある程度残るか感じられるのは当然だろう。そこでタイ語話者は日本地名の発音でア行やエ行やオ行の母音を長母音化することが珍しくないだろう、例:品川を [ซินางาวะ シナーガーワ] 。

それはタイ語における発音慣習を反映しているからだ。なおタイ語には子音において同音異字がかなりある。そこで日本語の固有名詞をタイ文字で綴る場合、声調と子音の選び方によって複数の綴り方(綴りのゆれ)があることは不思議ではない。
またタイ語の音韻には[ザ]音の文字がないので、多少工夫する必要がある、例:銀座を [งินซะ ギンザ] または [งินจะ ギンジャ] のように。

駅名に併記されたラテン文字を論じ中です。駅名の大門 Daimon をフランス語話者なら [デモン(鼻音化)] と発音するだろう。フランス語では ai は[エ] となり、mon は鼻音化する規則だ。スペイン語では J は息のやや強い[h] 音だ。例:Japón [ハポン]日本、
そもそもスペイン語アルファベットの J は[ホタ]と読む。
さらにスペイン語では g 文字に関して、ge の場合は je と同じ発音[へ]、及び gi の場合は ji と同じく[ヒ]と発音する。ただし g のその他の組み合わせは [g] の発音だ:gu [グ]go [ ゴ]。

またドイツ語では J は[ユ]音だ、例:jung [ユング]若い、Japan [ヤーパン」日本。
上述のようなことを考えれば、外国語話者によって駅名の十条 Jujo が果たして日本人の期待通り読まれるかな?

まだある、スペイン語では h 文字を発音しない。例:時間 hora は[オラ」と発音。男 hombre は[オンブレ]。試みに駅名 八王子 Hachioji が中南米出身のスペイン語話者によってどう発音されるか、興味あるところだ。" ji " は既に上記で言及しましたね。

このように3つ、4つの言語を取り上げただけでも、既に駅名のラテン文字表記は日本人の期待するようには読まれないことがわかる。逆に、ラテン文字を利用したベトナム文字を、日本人がどう発音しようと、本来のベトナム語音とはかけ離れた音になるのは当然といえる。

ベトナム文字音の例をあげる。anh [アイン]意味:男性に対する2人称単数、không[喉から強い息でホン]意味:否定する語、giờ[ゾー でも日本語のオーではない]意味:何時の時、 dと giと r の文字は[z] の音だ、ただし南部では異なる。ベトナム語は声調を含めて発音の難度が高い言語です。

誤解なきように強調します: ラテン文字綴りが良くないということではない。日本文字を外国人にできるだけ日本語音に近づけて発音してもらうには、ラテン文字綴りが最良ではなくても適している、ことは事実だ。Intraasia は駅名のラテン文字併記に実用面から賛成です。

〈人は母語の影響を受けて文字を発音する〉
実用面という意味を説明しましょう。世界で使われているどの文字を使おうと、他言語の話者は多分に母語の影響を残してその文字を読み、発音する。例えば"A" という文字の母音には、口の狭いア、広いア,口内奥で発生するア、あいまいなアなど幾つもの"ア"があるのです。どの"ア"で発音されるかは話者の母語次第だ。

要するに他言語話者に正確な音を伝える文字種はない、且つそれを正確に発音してもらうとの期待は非現実的だ。言語学の世界で用いられる国際音標記号 IPA は、どんな発音でも正確に表記できるが、相当複雑で難しいので一般使用は論外だ。そこで最大公約数的に文字種を選べば、世界で最も普及しているラテン文字ということになる。

以上新しいテーマにつながる序論として、あれこれ例示しつつ書きました。駅名やバス停名にラテン文字綴りを併記している主たる狙いは、外国人の鉄道やバスの利用を手助けする、外国人ができるだけ利用しやすくする、というものであることは言うまでもありません。
JRと私鉄の駅名のラテン文字併記の狙いは、それに加えて、外国人にすごく正確でなくてもいいからできるだけ、日本語の発音を知ってもらう、そういう風に発音して欲しい、との期待が込められている、と捉えても間違いではないでしょう。

〈Intraasia が新しくブログ上で掲載する作品に関して〉
こういった序論の内容を基にして、2023年10月初旬から掲載する、新しいタイトルを付けた作品の下で論を展開していきます。この作品はかなり長文なので前編、中編、後編にわけて掲載します。そこで、新しい作品をお読みになるときは、是非この序論の部分から読んでいただくようお願いします。

次にこのブログの目次を掲げます。
【 目次 】
序論 新しくブログに掲載する作品のテーマを導く
前編 はじめに、 第1章、
中編その1 第2章、 第3章、 第4章、 第5章、
中編その2 第6章、 第7章、 第8章、
中編その3 第9章、 第10章、 第11章、
後編 第12章、 第13章、 第14章、 おわりに、

2023年12月末の注記:文章が読み易くなるように、序論をブログの先頭つまり最上部に移行した。なお当ブログを始めたのは、この序論部分を最初に掲載した2023年10月の初め頃です。その後約3週間位の間に、前編、中編、後編を順次掲載しました。


今回発表する作品のテーマは広い意味での言語に関する範ちゅうに属しますので、Intraasia が2018年以来ツイッターの場で毎日連載している『いろんな言語のこと、あれこれ』シリーズの一環としてのブログ版です。なお今回の新作は Intraasia がこれまで発表してきた数々の作品とは幾分狙いが異なります。
注: Intraasia はツイッターを自作品の発表の場としてだけ利用しており、いわゆる”一般的なツイッター行為・活動はしておりませんし且つ今後もそうするつもりはありません”。

〈ツイッターで発表した作品と今回のブログ作品との関係〉
当ブログで掲載する作品のいわば原著は Intraasia が2021年にツイッター上で半年に渡って連載した作品です。その際のタイトル名は【JR と私鉄は駅名併記に中国漢字を使うな】でした。しかしこれだと Intraasia の書く内容を訪問者が読む前から誤解してしまう可能性がかなりあるのですが(例えば反中国感情を前面に出したものとの憶測)、ツイッターが定める制限文字数の点からタイトル名を短くせざるを得なかった。その当時本当に付けたかったタイトル名は、本文中に織り込んだのですが、毎日掲載する記事には載せられない残念さがありました。

字数制限のない今回のブログ作品では内容とIntraasia の趣旨をより反映する長いタイトル名をつけています。

ツイター版作品とブログ版作品は内容的には大体同じですが、ブログ版作品は年月的には新しい掲載となり且つ掲載文字数に制限がありません。そこで切れ切れに読むことになるツイッター版から一気に読める長文型の文章にすべく、表現の書き換えや掲載文章の順序入れ替え、及び校正・加筆・削除などを随所に施して全面的に見直しています。従って新版と称してもいいでしょう。
そのため新版であるブログ版の方が、読者にはずっと読み易くなっている、作品の趣旨を理解しやすい構成である、と Intraasia は思っています。

2023年9月末記
Intraasia

前編 ハングルは日本語音を表わしている、しかし中国漢字は日本語音を消してしまう

2023年12月29日 | 駅名の外国語表記
 【 はじめに 】

当ブログ公開(2023年10月初め)にあたって、まず最初は序論を掲載しました。その序論に続いて、これから徐々に本論を展開していきます。

Intraasiaは20代の頃は、短い時は数日間、長い時は数か月間の外国旅・滞在を時々する一方、主に国鉄の周遊券やミニ周遊券を利用して日本国内をあちこちへと旅した。しかし、大部分の期間国外に居た1980年代終盤以降近年までは、数えるほどの国内地しか訪れていない。
従って日本国内のJRと私鉄でどのくらいの割合が駅名に複数外国語併記がされているか、よく知りません。そこでこの場で述べていく論では、首都圏だけで目にしたこと及び入手した外国語版首都圏路線案内図を基にしていることを、あらかじめお断りしておきます。またこのタイトル下では駅名という表現にはバス停名も含める約束にしておきます。

そんな事情があるので、例えば九州の何々私鉄でも、北海道の何々地方でも、四国の何々県でも「駅名に中国語・華語を含めた複数言語併記をしているよ」などとご存じの方は、気が向かれましたら当ブログのメッセージ欄に書き込んでくだされば嬉しいです。

〈Intraasia の作品の特徴〉
ところで Intraasia は10年近くツイッターでいろんな自作品を掲載してきました。その中で2018年からは2つの主要作品シリーズを連載するというあり方に方針を変えた。その1つである言語シリーズ作品は全て、 Web 上で使える多言語ソフトキーボードを用いて各種の文字を手入力している。
Intraasia の作品では多くの場合、複数の言語と複数の文字体系に言及します。従ってこのブログでも同様に、論を進める必要上もしくは参考または関連情報として複数種の言語、文字に触れています。

〈駅名の外国語併記の主目的は2つある〉
序論では示唆するような形で触れたことをこの場で明瞭に書いておきます: 駅名の外国語併記の主目的は、『第一に鉄道やバスに関して外国人利用者の便宜を図る、利用を助ける、ことであり、第二に外国人利用者に日本語での駅名を、正確ではなくてもいいからできるだけ知ってもらう、そのように発音してもらう、ことにある』と理解してもいいでしょう。この二点は衆目の一致するところではないでしょうか。

従って、駅名の外国語併記はすべからくこの観点からだけ捉えるべきです。ナショナリズムの観点からうんぬん、ある国の印象に結びつけて何々語は必要だ、不必要だ、といったようなことは当ブログでは考慮外であり且つ触れません(当作品の原著を発表したツイッター掲載時でも触れなかった)。従って、当ブログの趣旨から外れる観点からのコメントはお断りします。

当ブログで論じるのは、外国語併記における言語の選択ではなく、文字体系の種類です。そして上記の2つの主目的に合うべく内容にしています。

さて、駅名にラテン文字が併記されているのは、恐らく日本全国で相当一般化していると思われる。その中でローマ字表記における文字使いと表記法の不統一さが最も問題になる点でしょうが、その問題はこの場では扱いません。
なぜならローマ字表記のあり方・綴り方を問題点として論じるのは当該テーマから外れるし、それを論じるだけで1テーマ設ける必要があるほどになるからです。
当ブログの場ではローマ字表記の現状と背景の理解及びローマ字表記の利点を説明することに留めています。

以上のことから駅名の複数言語表示に関して当タイトル下での対象は、主として中国語であり、副として韓国語になると言っても差し支えないでしょう。ただし Intraasia 作品の特徴として、言語に関するテーマを多面的に考えるため、論じるため、ヨーロッパ語及びその他の言語にも適当に言及します。

当ブログの目次をここに掲げておきます。
【 目次 】
序論 新しくブログに掲載する作品のテーマを導く
前編 はじめに、 第1章、
中編その1 第2章、 第3章、 第4章、 第5章、
中編その2 第6章、 第7章、 第8章、
中編その3 第9章、 第10章、 第11章、
後編 第12章、 第13章、 第14章、 おわりに、

2023年12月末の注記:ブログは新しい記事が先の記事の上に掲載される、つまり古い記事ほど下方になる仕組みだ。しかし当作品は1冊の本を模して書いてあるので、それでは読みにくい。そこで今回上記の目次の順序になるように、それぞれの編を入れ替える/ 移すことにしました。


第1章:駅名の外国語併記 ハングルの場合

まず韓国語・朝鮮語に関してです。この言語は文字にハングルを使うことは多くの人がご存じですね。
注:言語分類上は朝鮮語という名称の方が適しているようだが、当ブログでは韓国語・朝鮮語という捉え方であり、この場における呼称として韓国語を使っておきます。

参考として:韓国語とハングルに関して
Intraasia はツイッターにおいて、【いろんな言語のこと、あれこれ】というシリーズ名の下で数々のオリジナル作品を連載してきました。この言語シリーズの開始時期は2018年11月なので、既に5年近く続けています。それらの作品中には、韓国語とハングルに関する作品もあります。

ハングルは表音文字です。従って、ハングル文字そのものが発音を現わしていることの利点が、駅名の併記時に現れる。
注:言語作品の決まり事の1つとして [ ] 内は発音を示す。カタカナは発音記号ではないのでおおよその音しか表せない、だから発音表記に用いたカタカナはあくまでも便宜的である、ことは皆さんよく承知しておいてください。

〈表音文字 ハングル〉
駅名の例示です。先が韓国語ハングルとその音、後が日本漢字:
도쿄 [トキョ] 東京、 긴자 [ キンジャ] 銀座、 시나가와 [シナガワ]  品川、 신주쿠 [シンジュク]  新宿、 우츠노미야 [ウチュノミヤ] 宇都宮、 오후나 [オフナ] 大船、 지바 [チバ] 千葉

日本語の音韻体系と韓国語の音韻体系は異なるから、ハングルで日本音を正確には表せないし、同様にカタカナでハングル音を正確には表せない。しかし近似した音は互いに表せるので、日本の駅名を表記及び発音という点から言うと、ハングルは好適な文字種だ。

〈日本語音の表記に適した文字、適さない文字のお話〉
日本語音の表記にはあまり適してない文字もある。この意味はその文字に対する馴染み度とは関係なく、純粋に文字の性質から見た場合です。例えばアラビア文字だ、アラビア語は母音が [ a ]  [ i ]  [ u ] の3つだけだ。その文字例を示しておきましょう。

アラビア文字では子音と結合しないア、イ、ウの単独長母音字は آ اِي اُو だ。アラビア文字は右から左へ綴るので一番右(3つ目)の文字がアーになる。母音と子音が結合すると文字の形が変化する場合が多い、例:تَا [ター] 、سِي  [ シー] 、 مُو [ ムー] 、
仮にエ列の音とオ列の音を示すには何らかの付加記号を考案する必要がある。つまりある子音に [ e ] の音を加えてエ列音を示すには工夫が必要ということだ。なお普通のアラビア語文では外来語のような単語におけるエ音の字はイ音字で代用、オ音の字はウ音字で代用されている。

またアラビア語の子音には日本語の子音にはない音が少なからずある。アラビア文字で五十音図を示すことは可能だが、そのためには工夫が必要であり、また両語間には子音の音価の違いが目立つので、アラビア文字で日本語音を示すのはあまり向いていない。

参考として:Intraasia のツイター発表作品にアラビア語、デーヴァナーガリー文字もある
Intraasia はアラビア文字に関して、自身のツイターの言語シリーズにおける当該テーマの中でこれまで二桁数の記事を書いた。アラビア語・文字の説明は2019年と2020年の掲載においてまとめて記事にしたり単発的に触れている。

一方、日本人に馴染みがなくても日本語音の表記に案外適している文字もある、例えばヒンディー語などで使われているデーヴァナーガリー文字だ(あくまでも比較的ということ)。この文字及びヒンディー語に関しても、上記ツイターの言語シリーズにおける当該テーマの中で書いた。

〈日本語音の表記における文字選択の重要さ〉
一見当ブログのテーマに関係なさそうなアラビア文字やデーヴァナーガリー文字になぜ言及するのか?  それは、駅名の併記に用いる際の文字種(言語の種類ではない)の選択は大変重要だということを説明していく中で、皆さんに理解していただくための材料にしたいと思ったからです。

〈翻訳地名と翻字〉
Intrrasia がハングル表記の駅名を無作為に選んで大雑把に眺めた限り、ハングルでは翻訳した地名は使っていないようだ。翻訳地名とは、例えば日本橋を Nihon / Nippon Bridge のように部分的に翻訳してしまうことを指す。これは最も愚かな地名表示と言える。
なぜならそんな地名は日本語の地図や路線図にないし、そもそも国民は翻訳地名など使わない。使われない地名は外国人向けでも使うべきではない。どうしても意味を伝えたければカッコ内に入れて補記するような形をとるべきだ。例  Nihombashi (bashi=bridge)

なお日本橋を Nihombashi と書くのを翻字と呼びます。にほんばし、ニホンバシ も同じく翻字だ。ただしひらがな、カタカナを使った翻字は、大多数の外国人旅行者や少なからずの外国人居住者が日本語の書記知識を持たない以上、不向きであることは皆さんもおわかりでしょう。

ハングルはこの翻字に向いている。JR発行の首都圏路線図の韓国語版、都営交通ホームページの韓国語ページをみると、どちらも日本橋を 니흔바시 [ニホンバシ]と書いている。

ハングルがこのように容易に日本語音を表すことは既に上記で言及しました:「ハングルは表音文字です。従って、ハングル文字そのものが発音を現わしていることの利点が、駅名の併記時に現れる。」 このことを是非覚えておいてください。

Intraasia の手元にJR発行の都区内のお得な切符案内パンフレットがある。そこで例えば舎人ライナーを見ると、韓国語の表記では、도네리 라이너 としている。ところで ”ライナー”は韓国語に翻訳してあるのだろうか? それともそのまま翻字にしてあるのだろうか?
いずれにしろハングルでは[トネリ ライノ]と発音するので、韓国語の話者がどこかの駅や街角でこれを尋ねても日本人が直ぐに且つ容易に推測できる、ということだ。なお都営交通のサイトでもハングルの綴りを確認したが、語尾が ”나 ナ” ではなく ”너 ノ” になる理由が Intraasia の限られた韓国語知識ではわからない。

2023年11月追記:語尾が ”나 ナ” ではなく ”너 ノ” になる理由、この疑問点は解決した
Intraasia はごく最近読んだ、韓国語学者の著書の中に次のような説明を見つけたことで、この疑問は氷解した。以下は引用ですー
「writer も lighter も日本語同様区別なく、 라이터 [raitᴐ ] [ ライト] 。最後の母音が ㅓ となるのは、英語の円唇母音 [ ᴐ] は韓国語では非円唇母音である広い ㅓ[ᴐ] (発音記号は同じものを使用)で写す決まりだから・・・」 ー引用終わり
参照本:野間秀樹著 図解でわかる ハングルと韓国語  2023年 平凡社刊

Intraasia による解説
英語の単語を韓国語文中で、つまりハングルで表わす時の例を説明した個所です。言語学的知識が多少必要な文章だ。英語単語の特定綴りをハングルで表わす時の韓国語規則が例示されており、その結果 ライナー の最後の母音が[オ]音となって [ノ] と表記されることがわかりました。

〈翻訳地名に関してのコラムを1つ〉
この話題で Intraasia がすぐ思い出すのはバンコクでの例だ。Intraasiaは1980年代中頃からタイを度々訪れていた。クアラルンプールに居を構えてしばらく経つと、まずバンコクに入るというルートはあまり取らなくなったが、80年代、90年代前半まではまずバンコクに入ることがほとんどだった。そんなおりたまに見かける光景に、白人旅行者が市内バスの乗務員らに尋ねる場面だ。

彼らは「このバスはバンコク駅へ行く/を通るのか?」とか「どのバスがバンコク駅へ行く/を通るのか?」と英語で尋ねていた。当時市バスの乗務員らは英語をほとんど解さないのが普通であった。だから乗務員らは要を得ない返事に終始していた。
単に質問の意味がよく分からないからだけでなく、「バンコク駅」ということばそのものが、彼ら彼女らにとって意味を持っていなかった。何よりも、タイ事情を知ろうとしない尊大な白人旅行者たちはこのことに気がつかない。
バンコクにタイ国鉄の駅は幾つもあれど、”バンコク駅”という駅は存在しない(もちろん今でもない)。日本語出版の地図やガイドブック類に書いてあるバンコク中央駅はあくまでも日本人の便宜のためにわかりやすく翻案したのであり、Bangkok Central Station は英語話者用に翻案したということだ。

外国人相手の旅行関連業の従事者や外資系企業に勤める人たちを除いて、市井のタイ人は、バンコクのことをタイ語の名前である " กรุงเทพ [クルンテープ] " と呼ぶ。参考:正式名の กรุงเทพมหานคร はもっぱら書き言葉で使われる
同様に市井のタイ人は、タイ国鉄のバンコク中央駅にあたる駅はタイ語名称である " หัวลำโพง [フゥアランポーン] " と呼ぶ(両語とも当然声調を付けて発音)。言い添えておけば、タイ語名称が唯一の駅名である。

地下鉄(MRT)ができ、高架鉄道のBTS(スカイトレイン)が何路線も運行されている現在では ”กรุงเทพ クルンテープ” のことをバンコクと呼ぶタイ人も増えたかもしれないが、中央鉄道駅は依然としてほとんどのタイ庶民が "หัวลํโพง フゥアランポーン" と呼ぶ。

これは基本的知識なのに、知らない、知ろうとしない外国人旅行者は多いようだ。なぜバスで尋ねていた白人旅行者はそのことを知らなかったのか? それは多分に外国人向けの情報紙・誌や無料案内パンフレットや旅行ガイドブックが、”Bangkok (Railroad)Station” というような単語を常用していたからだろう。

主としてその国を訪問する外国人旅行者向けに地名類を翻訳してしまうことは、きっといろんな国で起きているのではないだろうか、と Intraasia は推測します。
〈コラム終わり〉

これまで述べてきた考察から、駅名併記に複数の言語が選ばれていることを既定のことと捉えた場合、韓国語で使うハングルに対する違和感はほとんどありません。
しかし同じ既定のことの下で、中国語・華語による駅名併記において中国漢字を使っていることには、Intraasia は大いに違和感を抱きます。批判意識が沸いてくると言った方がいいだろう。だからこそ、今回これをテーマにした作品を書き下ろしたのです。

これでようやく、現タイトル下で本題を論じる段階が間近になった。当ブログを開設して、まず序論から始めて関連事や周辺知識を長々と述べてきたのは、Intraasia が論を進める上で皆さんにどうしても知っておいて欲しいこと、わかっていただきたいことだからです。

〈当ブログ作品の骨組み〉
Intraasia はここに掲げたようなタイトルの作品に仕上げる際に、 その論と主張を堅固なものにすべく、各項目で例示を充分にする、テーマに関係する事柄をできるだけ取り上げて丁寧に説明しておく、重要事には傍証も加える、周辺を固めてから核心を述べるといった点に配慮した構成を取るようにしました。

最初から本題に入って主張をさっさと述べるという安直なことはせずに、1冊の本を書くように、読んでいただく方にも関連知識を共有してもらう、性急に論を進めないという制作方針です。予想される反論や批判があるだろうことはあらかじめ織り込んでいます。

中編その1に続く


中編その1 中国語と華語のお話し、及び表音文字ピンインを使うことの利点

2023年11月27日 | 駅名の外国語表記
第2章:中国語、華語、簡体字に関する概論

現在駅名併記に使われている中国語・華語は、2種類の中国漢字体系を使っている。簡体字と呼ばれる字体系は主として中国で使われていること、及び繁体字と呼ばれる方は主として台湾(及び香港)で使われていることは、日本人にも結構知られていることでしょう。

なおこの場で使っている「中国語」とは中国の共通語 / 標準語たる普通話のことであり、これが前提です。なおこの「中国語」に関して中国では「漢語」という呼称がよく使われるとのこと。ところで漢語という単語は言語学の分類でもよく用いられる、従って Intraasia は当ブログでは分類上の名称として使います。

東南アジア諸国において華語が言語として重要な地位を占めるのは2か国ある。シンガポールは華語が公用語の1つである、そしてマレーシアでは華語は公用語ではないが華人界で広く使われている。マレーシアではさらに準公立ともいえる初等教育段階の学校では、華語は教育と学習における媒介語として使われている。
解説:マレーシアでは初等教育において華語を使って教育する華文小学校は全国に広く存在する。華文小学校ではもちろん華語は必須科目である。

マレーシア華人界ではその言語を決して中国語とは呼びません、その名称は華語または華文(書き言葉的表現)です。これはシンガポールでも同様だ。
ある言語の名称の背景には、その国に住むある民族のアイデンティティーが深く絡んでいることが少なくない。従って日本人もそういう背景を考慮して”華語”と呼ぶべきなのです。

マレーシアとシンガポールの両国では、こうした教育段階での簡体字教育を既に数十年経てきたことから、新聞や出版界, 巷や街で見かける広告や表示においても、現在では簡体字が圧倒的に用いられている。

Intraasia がマレーシアに居住し始めたのは1990年代の初めだ。その頃から90年代後期ぐらいまでは、繁体字を主として使っていた主要華語紙が複数あった。しかしはっきりした時期は忘れたが、年月の経過と共にどの華語紙もほぼ簡体字のみになった。なおマレーシアの学校教育では1990年以前から簡体字だけが用いられていたとのことである。

上記2か国は当然のごとく華語紙が主要紙の一角を占めるが、その他の東南アジア諸国でも日刊華語新聞が、発行部数はかなり少ないものの、発行されている。Intraasia の知る限り、それらの華語新聞ではしばらく前から簡体字が圧倒的になっているといえそうだ(繁体字の新聞が消滅したということではない)。

駅名併記に二体系の中国漢字が使われている背景には、このような漢語圏における言語面での国際事情もあることを知っておいてください。

解説:中国語・華語は学問的にいえば、漢語に属する言語である。東南アジアでは華語を日常的に使う華人が一定の人口割合を占め、日刊の華語新聞さえ発行されている国々が多数を占める。国情によって大きな差があるが、東南アジア各国でその国語の傘の下に存在する形で漢語コミュニティーがあると見なしても間違いではないだろう。

東南アジア華人界で最も使われる、とりわけ書記語として、漢語は「華語」であり、それは要するに中国における「普通話」、日本人が一般に呼んでいる「中国語」に該当します。
注:なお当ブログでは今後いちいちこれらのことを注書きしません。

なお東南アジア華人界では、(書記語ではなく)日常口語としては福建語、広東語、客家語などの漢語諸語をむしろ華語よりも頻繁に使っている華人たちが少なくない、と言ってもいいだろう、ただし国によってその人数や程度にかなりの違いがある。

当ブログの目次をここに掲げておきます。
【 目次 】
序論 新しくブログに掲載する作品のテーマを導く
前編 はじめに、 第1章、
中編その1 第2章、 第3章、 第4章、 第5章、
中編その2 第6章、 第7章、 第8章、
中編その3 第9章、 第10章、 第11章、
後編 第12章、 第13章、 第14章、 おわりに、

2023年12月末の注記:ブログは新しい記事が先の記事の上に掲載される、つまり古い記事ほど下方になる仕組みだ。しかし当作品は1冊の本を模して書いてあるので、それでは読みにくい。そこで今回上記の目次の順序になるように、それぞれの編を入れ替える/ 移すことにしました。

第3章:ピンイン(拼音)の説明

さて中国語・華語の教育と学習において、簡体字体系では中国で考案されたピンイン(拼音)が使われている。華語教育が公教育に組み込まれている2つの国、マレーシアとシンガポールではピンインが早い段階で教えられているのは当然と言える。日本で出版されているどの中国語学習書でも入門・初級段階でピンインの理解が目標となっている(はずだ)。

その他の東南アジア諸国の場合、華語を教える私立の初等・中等学校及び町の民間語学院や塾は現在では簡体字が圧倒的だろう、と推測されるから、現在では当然ピンイン(拼音)が華語学習に欠かせない基本知識として教えられているはずだ。

ただ残念ながらこのことはマレーシアとシンガポール以外の国では、その当時 Intraasia は現地調査は不十分にしかできなかった。
当ブログのタイトルの一部にもなっている、ピンイン(拼音)のことは最重要事項ですから、是非こういった情報・知識も皆さんに共有していただければなと思います。

中国で考案されたピンイン(拼音)はもっぱら中国だけで使われているという捉え方は、21世紀の世界では既に間違いである。これは大変重要な点ですので、強調しておきます。

参考知識として、中国語を専門とする学者の書(白水社刊 池田巧著『中国語のしくみ』)から引用します:「普通話は1950年代に国家によって規範化された、また簡体字は1964年に中国政府によって公布され、国の正式な文字として定められた。」 
ピンインについては、「1977年の国連の地名標準化会議において中国の地名のローマ字表記はピンイン方式によることが正式に採択され、以来中国語の正式なローマ字表記法として世界的に公認された」
以上で引用終わり。

ピンイン(拼音)とは何か? ほとんど全ての中国語学習において入門段階でピンインを習うはずだ。中国語の学習書籍は書店や図書館にあふれているから、更に現在ではネット上でも容易に得られるから、詳しいことはその種の書籍類やサイトを参照してください。

従って当ブログで論を進めていくうえで必須な基本点だけを述べる。中国語の正式なラテン文字表記法である、ピンイン(拼音)とは、簡単に言えば中国漢字の声調を含めた発音を覚える、知るための方法/手段であり、いわば中国漢字用の発音記号ともいえる。

ピンイン(拼音)をきちんと習得すれば、どの中国漢字も間違えることなく発音できるようになる。
注意することは、ピンインは中国漢字のためにラテン文字(ローマ字)を援用して考案されたものだから特有の規則がある。ゆえに、決して日本語におけるローマ字風や英語風に発音してはいけない。
だからこそ、中国語・華語学習の入門段階で、ピンイン(拼音)をかなりの時間を費やして教えるのです。

具体的に説明します。例えば ”拼音” という漢字をみても発音と声調はわからない。そこでラテン文字を使って中国語用に表音記号化した、ピンインを用いる。
例:拼音 [ pīnyīn] 、そして4つの声調は各語の上に付記した棒線で示される。この例では2つの声調はいずれも第1声(高)だ。

もう1例:普通语 [ pǔ tōng huà] あえてカタカナで表示すればプートンフアとなる。中国における共通語である普通話は現代中国の北方漢語が基になっており、日本で中学校や高校で習う”漢文”の漢語とは相当異なる。なぜならこの二つの言語は使われる時代が全く違うために、互いに音や単語や言葉使いなどが異なっていることは当然である。
注:奈良・平安時代の日本語と現代日本語の間にある違いの大きさを思い浮かべてください。


第4章:駅名併記に用いる文字種は漢字である必要性は全くない

次から述べることは、当ブログの本論における最重要点の1つです。

〈どの体系の漢字も中国語の音で読まれる〉
ピンイン(拼音)は中国漢字のために考案されたものだが、仮に日本漢字に適用したとしても取り立てて問題はない。要するに日本漢字を中国語的に発音するということだ。日本語が独自に作った和漢字に対しても、中国語として如何に発音するかは既定となっているはずだ。

なお日本漢字に声調はないが、中国語・華語話者は当然それに声調を付けて読むことになる。以前書いたように、声調言語を母語とする人たちが日本語を話すとき、声調の”香り”が残るのはごく自然なことです。
日本漢字の地名を中国語的に読む例:大阪 [ daban 第4声と3声] 、富山 [ fushan 4声と1声] 、青森 [ qingsen 1声と1声] 、福岡 [ fugang 2声と1声]、
正確にはわからなくても、ピンインが表す発音はいかに日本語音と異なるかが皆さん感じられることでしょう。

既述のように駅名併記には、現今の日本漢字と字体・字形が多少異なる繁体字も、簡体字と並んで使われている。ただし中国からの中国人、台湾からの台湾人、東南アジアなどからの華人にとっては、どの漢字も、つまりこの3種の漢字体系で表記される漢字自体は同じ扱いを受けることになる。だからどの体系の漢字で駅名を書こうと、中国語・華語として発音され、それら3種の漢字の音は同じになる。

要するに中国語・華語の話者に対しては、ある駅名に併記されている簡体字駅名と繁体字駅名からは日本語の音が全く伝わらないのだ。一方、その同じ駅名の併記に使われているラテン文字駅名とハングル駅名は、正確とまでは言えなくても、日本語音を十分に伝えているのです。なぜならこの両文字(ラテン文字とハングル)による駅名は日本語の音を基にしているからです。

〈発想の転換が必要だ〉
そこで発想を転換する必要がある。日本の鉄道や電車路線、及びバス路線の駅名を外国人に伝える際、漢字第一 または漢字中心思考を変えなければならない。外国人に漢字を伝えるのではなく、日本語音を伝えることがまずそして最大限に重要なのです。現に日本の交通機関は、ラテン文字とハングル文字による駅名併記を以前から行っているではないか!!

具体的に言おう、中国語・華語の話者に対しても同じ発想を取り入れて、ピンイン(拼音)による駅名併記に変更すべきである。”漢字”にこだわる思考は、外国人利用者に日本語の音を伝えるという実用面の最重要さを無にしています。

ひとたび駅名併記を簡体字や繁体字ではなくピンインによる表記にすれば、中国語・華語の話者にも駅名の日本語発音を知ってもらう、すごく正確ではなくてもそれなりにまたはかなり似た音で発音してもらう、ことができる。

なおピンインを見て発音する(または頭の中で音を確かめる)際、中国語・華語の話者ゆえに必然的に声調が伴うが、日本側としてこの場合声調面は気にしない。日本漢字の地名に声調が付いて発音されるからといって、その意味が変わるわけではない。


第5章:ピンインで綴る日本の地名・駅名の例示とその利点

[ ]内はピンインですよ、ローマ字ではない。上記であげた地名を例に使います。
例: [ ou sa ka] 大阪、[ dou ya ma] 富山、
注:中国語の音韻体系には do / to という音はない。存在しない音は使えない。だから近似した音として dou を選んでいる。またピンイン表記において有気音 tou の無気音が dou だ、日本語音のドウではない。ローマ字式読みは忘れてください。

参考として:有気音、無気音は中国語・華語のような声調言語では必須の発音区別です。この用語は既に言及した Intraasia のツイッター作品である【いろんな言語のこと、あれこれ】シリーズの中で何回も触れて丁寧に解説しているので、ここでは説明を省きます。

上記の例では日本漢字の地名は読者の便宜をはかって書いただけであり、実際の駅名併記の際にはもちろん使わない。 実際の駅の表示の場合、まず日本語で駅名が表示され、それに加える形で、ラテン文字、中国漢字、ハングルの駅名が併記されている。

例の続き: [ hu ku ou ka] 福岡、 [ ao mo ri / li ] 青森、
注:中国語の [r] はそり舌音でこもった響きを持つ音であり、日本語の ラ行音 や英語の [r] とはかなり異なる音だ。だから中国語話者の発する[アオモリ]の[リ]が[リ]に聞こえないことが多いだろう。そこでむしろ [ r ] の替わりに [ l ] 音を使った方がいいかもしれない。

<一口知識> 
アルファベットの r という文字の発音は言語によって音価が異なる。例えば日本語の"r" 、英語の"r"、フランス語の"r"、中国語の"r" 、インドネシア語の"r" では全て互いに異なる音だ。従って国際音声記号 (IPA と略称される) ではこれら "r" をそれぞれ異なる記号で表します。

上記にあげた地名のピンイン表記例に関して、その綴りは Intraasia の選択であり、例えば ri / li のどちらがいいかなどのように判断に迷うところがある。日本地名の適切なピンイン綴り(及びその声調も含めて)を決めるのは日本人の中国語学者・専門家におまかせします。

なお日本語駅名のピンイン表記例はこれから論を進める中でもっと数多く例示していきます。
ここまでの論を連載の初め頃から丁寧に読んでこられた方なら、Intraasia の主張の根拠とその利点が恐らくお分かりになっていただけるのではと思っています。

〈 ちょっと休憩 〉
当ブログを初めてご覧になる方へ、または Intraasia の過去のツイッター連載作品を一度もお読みになったことがない方へ

当ブログは2023年10月初めから作品掲載を開始した。作品は【序論】から始まっています、当該テーマの下で Intraasia が作品を書くに至った由縁などを綴っていますので、是非【序論】から目を通してください。Intraasia はその中で、1冊の本を書くようにと描写しています。要するに、当ブログでは関連知識や周辺事情を相当幅広く且つ丁寧に記述しており、Intraasia の主張だけを手短に述べるようなことはしていません。

中編その2に続く



中編その2 日本語音を消してしまう中国漢字は駅名の外国語併記に使うべきではない

2023年11月25日 | 社会問題
第6章:中国漢字による駅名併記がもたらす残念な現実

駅名併記の現状を見てみよう。例えば東京の原宿駅では”原宿”という簡体字が使われている(この場合日本漢字と同じ)、これでは中国語話者は [ yuansu 2声と4声] としか読まない。 小田原駅は [ xiaotianyuan 3声と2声と2声] のように発音されることになり、池袋駅は [ chidai 2声と4声] と読まれてしまう。
同じ併記駅名であるラテン文字駅名とハングル駅名に比べると、この現状は見過ごせません。
なお駅という日本漢字は簡体字では 站 という字体で表記される、このような漢字字体の違いのことはここでは当テーマから外れるので、この場ではそのままにしておきます。

当ブログ前編に載せている【はじめに】の中に、ほとんどの日本人が認めるであろう大前提を掲載しています。この場でそれを再掲載しますので、確認してください。
「駅名の外国語併記の主目的は、第一に鉄道やバスに関して外国人利用者の便宜を図る、利用を助ける、ことであり、第二に外国人利用者に日本語での駅名を、正確ではなくてもいいからできるだけ知ってもらう、そのように発音してもらうことにある、と理解してもいいでしょう。」
この2つは他言語(外国語)による駅名併記をするレゾンデートル(存在理由)となっている。
なお、それでも第二の点に疑問を呈する人がいるかもしれませんので、傍証をあげておきます。


第7章:駅ナンバリング方式を考える

現在、首都圏の JRの駅には数字と記号を組み合わせた駅番号が付けてありますね。JR東の2016年4月付け公告をネットで探した。以下はそれからの引用です:
訪日外国人旅行者の方をはじめ、すべてのお客さまによりわかりやすく、安心して鉄道をご利用いただくために、首都圏エリアへ「駅ナンバリング」を導入します。多くの路線が乗り入れる駅については、それぞれの路線記号や駅番号とは別に、アルファベット3文字からなる「スリーレターコード」を表示します。 ー以上で引用終わり。

例えば新宿駅は SJK(コード)及び JY17(路線記号と駅番号) と付けてある。仮に駅名の日本語の発音が大して意味を持たないのであれば、ラテン文字などによる複数言語・文字併記を止めて、外国人向けには全てこの駅ナンバリング方式に統一した方が、すっきりし且つ効果的なはずだ。
しかし駅ナンバリング方式実施から7年近く経った今でも、複数言語併記は変わらず表示されている。

一体鉄道・バスの外国人利用者はどの程度駅ナンバリングを参照しているのだろうか?  どう考えても、外国人の間ではもっぱらラテン文字やハングル表示の駅名の方を参照・利用している割合がずっと高いだろうと推測される。駅ナンバリングだけを参照する外国人乗客もいるだろうが、少数派だと推測される。

なぜなら人は無味乾燥なこの種の数字記号よりも、馴染んだ自国の地名の調子とは異なるために覚えにくいが、それでも具体的な地名の方を好むからです。こういう好み・傾向はどの国の人たちでも変わらないとみなしてよいだろう。
だからこそ、具体的な駅名における、日本語風の発音が大切なのです。

〈ラテン文字表記の駅名を読む場合〉
ラテン文字表記を見て、各外国人はそれぞれの母語に備わったアクセント、音韻を反映しながら発音するまたは頭の中でその音を確かめるのだ。

当ブログの【序論】に書いたように、駅名に併記されたラテン文字の読まれ方においては、日本人が期待するようにはまず発音してもらえない。しかし外国人が読む際に基となる音は日本語音であることから、彼らの発音はその日本語音と全く違った別音にはならない。

日本語を知らない外国人によるラテン文字の読まれ方に関しては、当ブログ開始と同時に掲載した【序論】の中で、多くの例をあげて細かに説明してありますので、是非ご覧ください。

〈ハングル表記の駅名を読む場合〉
ハングル表記の場合はラテン文字表記の比べてより日本語音に近く発音される、なぜなら【前編】に書いたように、ハングルは音を写す点で好適な表音文字であり且つハングルを使うのはほぼ韓国・朝鮮人に限定されるからだ。ハングル駅名を様々な外国人が読むことはない。
【前編】の第1章で、「このことを是非覚えておいてください。」とIntraasia は書きました。そのことは今ここで中国漢字との比較をする際になって、より意味を持つのです。

〈中国漢字で表記の駅名を読む場合〉
一方、簡体字と繁体字で併記された(翻字した)駅名の場合はそうはなりません、つまり日本語音のようには発音されない。翻字された駅名の発音は日本語音とはかけ離れた音になってしまう場合が圧倒的に多い(中には似た音になる駅名もあるだろうが、その割合は非常に低い)。

一般論として、簡体字や繁体字で駅名を翻字することは”地名や氏名や固有名詞における原音の尊重”という原則が失われてしまうのだ。駅名併記に中国漢字の使用を決めた決定権者らは自ら原音尊重を放棄した、これは問題視すべきだと Intraasia は主張します。

〈補助的手段として駅ナンバリングの有用さ〉
なお駅ナンバリング方式が無駄だということを Intraasia は説いているのではない。駅ナンバリングは補助的手段としては良い試みだと思う。例えばスマートフォンの検索で、駅ナンバリングの記号番号を打ち込んで検索するような場合は駅ナンバリングが便利であろう。
また駅名を覚えたり識別する方法として、具体的な名称の頭に駅ナンバリングを付けて覚えるまたは区別する、といった利用法もあるだろう。例えば "JY02 Kanda" (山手線の神田駅)、 "G13 Kanda"(銀座線の神田駅)、

だから駅ナンバリングは外国人の間で今後も鉄道利用における補助手段として使われていくことでしょう。もちろん日本人利用者の中にも、駅ナンバリングを使う人たちはいることでしょう。そこで駅ナンバリングのことをもう少しだけ論じます。

〈駅ナンバリングに関して補足〉
渋谷は東京の有名地の1つですね。幾つもの路線が交差し且つ駅名は同じだが路線によって駅の場所が異なる、渋谷駅を例にする:「明日夕方6時に半蔵門線の渋谷駅の南口改札前で会いましょう」、日本人は一般にこのように言うと思われる。
しかし都内の地理や路線に慣れていないまたはその知識がごく少ない外国人の場合なら、「・・・・Z01 Shibuya の南口改札前で・・・・」と表現した方が、互いに分かり易いと考えられる。

ちなみに渋谷駅には幾つもの「駅ナンバリング」が付与されている:JY20 山手線の Shibuya駅、JA10 埼京線の Shibuya駅、JS19 湘南新宿線の Shibuya駅、Z01 半蔵門線の Shibuya駅、G01 銀座線の Shibuya駅、まだ他にもありますが省略。

なお、東京メトロや首都圏の大手私鉄でも駅ナンバリングを採用している(首都圏大手私鉄の全ての社までは調べていないので、”全て”の表現は控える)。

ところで、京阪神など他の大都市圏でもこの駅ナンバリングを取り入れたところがあるのだろうか?
こういった情報なら知っているよという方は、気が向かれましたら、当ブログのメッセージ機能を利用して情報提供していただければありがたいです。

このブログの目次をここに掲げておきます。
目次
序論 新しくブログに掲載する作品のテーマを導く
前編 はじめに、 第1章、
中編その1 第2章、 第3章、 第4章、 第5章、
中編その2 第6章、 第7章、 第8章、
中編その3 第9章、 第10章、 第11章、
後編 第12章、 第13章、 第14章、 おわりに、

2023年12月末の注記:ブログは新しい記事が先の記事の上に掲載される、つまり古い記事ほど下方になる仕組みだ。しかし当作品は1冊の本を模して書いてあるので、それでは読みにくい。そこで今回上記の目次の順序になるように、それぞれの編を入れ替える/ 移すことにしました。

第8章:駅名併記に用いる文字種は表音文字であるべきだ

傍証及び駅ナンバリングの件は終えて本題に戻ります。
駅名併記の文字についてまとめておこう。ラテン文字は日本語音を、地名によって差はあるが、かなりの程度正確にから間違われない程度に似ているまで、示すことができ、現実に外国人からそのように発音されている。

ハングルが日本語音を写す点での長所を持っていることは既に前編で述べた。

参考として:韓国語で使われるハングル文字についてまとめて書いたのは、Intraasia が主宰するツイッターの言語シリーズ【いろんな言語のこと、あれこれ】の第90回(2019年2月17日)から第110回(2019年3月9日)頃までです。

〈音を写す点では一般に表音文字が向いている〉
ラテン文字とハングルの両文字体系は表音文字である。一般に音を写すという点では、表音文字の方が表意文字より適していることは明らかだ。
表音文字の別の例として、ヒンディー語で用いられるデーヴァナーガリー文字で日本地名を書きます。便宜的にカタカナによる発音表記も付記する:
कगोशिमा カゴーシマー、ओसाका オーサーカー、 सेंदाइ センダーイ、 नेमुरो ネムロー、

上記の地名は漢字では 鹿児島、大阪、仙台、根室の順です。ヒンディー語の音韻体系に沿って時に短母音、時に長母音にしているが、日本語音をかなり忠実に写していることがおわかりでしょう。デーヴァナーガリー文字は表音文字の中でもより音を写しやすい文字だと言ってもいいだろう。

なお表音文字はすべからく他言語の音を良く写して駅名の併記に向いている、ということには必ずしもならない。【序章】ではアラビア文字を例に出してその向いていない理由を説明した。

中国漢字は簡体字も繁体字も表意文字である(むしろ表語文字と呼んだ方が良いが)。だから既述したように、日本漢字の音を写すことにはまったく不向きで不適である。
この第8章の記述内容は最重要点です、みなさん、是非注目してください。

〈表音文字のピンインは日本語音を写しやすい〉
中国漢字には”ディスコ”を”迪斯科”と表記するような音訳方式もある、発音は [ dí sī kē ]なので音がよく似ている。しかし現代中国語では意味を取って訳す方式の方が多いそうだ。例:インターネットは 网络 [ wǎngluò ]、コンピュータは 电脑 [ diànnaǒ] 、

結論的に言えば、中国語・華語による日本語地名の音訳は、”迪斯科”式の意味のない中国漢字の羅列よりも、ピンイン(拼音)を使った方がスッキリしてはるかに分かり易い。
なにせピンイン(拼音)は漢字と違って表音文字なのです。
中国語・華語話者に日本の駅名を日本語音で知ってもらう、できるだけそのように発音してもらうには、まさにピンイン(拼音)こそ好適、好都合だ。

前編や中編その1で細かに書いたことの要点をここに掲げましょう。

1. そもそもピンインは中国で半世紀以上前に考案されてその後中国全国に普及した。さらに今や東南アジアの華人界における華語教育でもピンインは圧倒的に教えられているのだ。
台湾人にとってのピンイン(拼音)はどうなのかを、学者・専門家の書籍から引用しておきます:「台湾では伝統的に発音表記にはカタカナに似た注音符号を使っていますが、近年はローマ字表記に大陸と同じピンイン方式を採用しています。」ー 白水社刊 池田巧著『中国語のしくみ』2014年発行から。

2. JRと私鉄の駅名を外国語併記するに際して、中国語・華語の場合はピンイン(拼音)を用いない手はない、いや是非使うべきである。
「ピンインは1977年以来中国語の正式なローマ字表記法として世界的に公認され」ています。

3. そこで上記の駅の例でいえば、原宿は[ ha la ju / zhu ku] 、小田原は [ ou da wa la] 、池袋は [ yi gei / kei bu ke lo] のようにピンイン(拼音)で綴っておけば、それなりに日本語音に近く発音されることになる。

4. なお中国語・華語による駅名併記において、最終的に各駅名をどのようなピンイン綴りにするかは日本人の中国語学者・専門家に決めてもらう。

「最終的に各駅名をどのようなピンイン綴りにするかは中国語専門家に決めてもらう」と書いたのは、日本語単語の音をピンインで写す(音訳する)際、多少のゆれが起きるからだ。そこで日本地名の最も適当と見なせるピンイン綴りは専門家に委ねるということです。

〈ピンイン化するのは駅名だけ〉
誤解なきように念を押しておきます。ピンイン(拼音)化するのは、駅名だけである。鉄道や駅の案内・説明文や注意書きにはもちろん、中国語・華語を用いる。 中国語・華語話者に鉄道や駅からの伝えたい情報・意図を分かってもらうためですから。

中編その3に続く



中編その3 大多数の中国人と華人に馴染みのあるピンインは駅名の外国語併記に向いている

2023年11月21日 | 社会問題
第9章:地名をわざわざ中国漢字化して、日本語音を消してしまう理不尽さに気がついて欲しい

〈駅名から地名の由来を知ってもらう必要はない〉
中国語・華語話者に駅名の文字が意味するものを知ってもらう必要はない。例えば東京都にある赤羽(駅)の場合、その漢字の意味は赤い羽根だが、単に漢字の意味が分かっても仕方がない、その漢字がどういう経緯で地名となったとか、地名とのつながりがわからないからだ。

つまり地名の由来は書かれた漢字からだけでは分からないことが非常に多い。そもそも一般に地名の由来など圧倒的大多数の日本人だって知らないし、交通機関利用者がそれを知っておく必要性はない。知りたい人は地名由来に関する本を探して読めばいいのだ。

〈ひらがな地名を中国漢字化するのは愚かな行為〉
地名には種々ある。漢字を音読みした地名、訓読みした地名、当て字の地名もある。またひらがな地名は近年増えたそうだし、カタカナ地名はもう珍しくない。駅名は当然、地名の呼ばれ方を反映している。
だから漢字をどう発音するかは大事ですね。日本文字を知らない外国人にとってはひらがな/ カタカナ地名も翻字する必要がある。その際、ラテン文字とハングルは日本語音を表記する(つまり音訳している)ので問題は出ない。

一方繁体字と簡体字を使うことはひらがなをわざわざ中国漢字化することにもなる。その結果、発音される音がひらがなの音と全く異なってしまう、要するにひらがな駅名が全く別音の駅名になってしまうのです。駅名の中国漢字化は愚かな方法と評するしかない。

例をあげる。さいたま新都心駅は地方自治体のさいたまを反映した地名だろう。簡体字版の路線図では”埼玉新都心”と書かれている。地名がひらがな音そのままなのに、わざわざ漢字化した中国漢字はそれを全く反映しないのだ。発音はピンイン表記で [ qíyù xīn dō xīn ]です。”さいたま”を [ qíyù] と発音されてはまるでどこか別の地みたいだ。

一方ラテン文字とハングルで書かれた併記駅名を読む諸国の外国人と韓国・朝鮮人は、まがりなりにも[サイタマ] と日本語音で発音するのです。

わざわざ中国漢字化して日本語音を消してしまうというこの理不尽さに、JR と私鉄の日本人利用者の大多数は気がついていないのでしょうか?
Intraasia が”理不尽”ということばを使ってこのことを批判する背景と根拠は、当ブログをこれまでお読みになってきた方々ならもう既にお分かりになることだと思います。

ひらがな地名のことを続ける。北海道のえりも町は現在ではひらがな名の自治体だ。鉄道路線は通っていないがこの地名を付けたバス駅(バス停)名があるので、それを繁体字化すると 襟裳 となってしまう。その場合中国語・華語音では [ jīn shang ]と発音する。

宮崎県のえびの市もひらがな名の市だ。調べるとJR線が通っている。地図に載っているえびの駅という駅名は自治体名を反映してひらがな綴りだ。”えびの”が付いた駅は3つある。これらも中国漢字化によって、駅名から[エビノ]という日本語音が消えてしまう。

茨城県のひらがな名の自治体である”つくば市”には鉄道が通っており、そのつくばエクスプレスの終着駅がつくば駅だ。つくばエクスプレスも自治体もつくば駅と表記しているのに、エクスプレスの簡体字版はわざわざ 筑波 と漢字に戻している。
当然 [ツクバ] という発音は消えてしまい、中国語・華語音の [ zhù bō] という音になってしまう。
ひらがな駅名は駅名併記に中国漢字を使うことの愚かさを如実に示す例にもなっている。

注意:再度念をおしておきます。 この場で頻出している [ ] 内は、要するにピンインで綴る発音記号ですから、決してローマ字読みしてはいけません。必ずピンインで定める読み方規則に従って発音しなければならない。ピンインを習ったことのない日本人が「おかしな音」だと苦情を呈してもそれは的外れです。

〈漢字を使ったからと言って地名の由来がわかるわけではない〉
姫路、弘前、千葉など使われている漢字からだけでは、地名の意味や由来がほとんどまたはよくわからない地名はごまんとある。例えば、弘前市は弘前藩の名から取ったと推測されるが、その弘前という地名の由来はなんだろう?

「外国人向けにラテン文字綴りで、Himeji, Hirosaki, Chiba と表記する(翻字する)ことでは字の意味や背景が伝わらず不十分だ。しかしながら漢字文化圏の、せめて中国人と台湾人向けだけには中国漢字に翻字しておきましょう」というのが、恐らく駅名に簡体字と繁体字を併記することを決めた側の言い分であろう。

皆さん、この奇妙な論理に気がつきませんか? 日本人にとって漢字そのものの意味は大体またはかなり分かる、しかし駅名は漢字自体の意味から離れて地名を基にしていることが普通であり、他にはその地にある施設名などを駅名に付けているのだ。
一般に、その漢字を組み合わせて現在では地名となっている由来や背景が、別の表現を使えばその漢字がどういう経緯を経て地名となったかが、おいそれとはわからない地名はたいへん多いのだ。

確かに地名の意味や由来を知る上で漢字は重要な要素である。反面、特定の漢字を選んで地名とした理由、すなわち地名の由来や背景が分からない地名の方が、わかる地名よりはるかに多いということも事実である。
ある駅を利用する人たちの間で、漢字を読み書きする日本人の利用者の一体どれくらいの割合が漢字綴りと地名のつながりを知って駅を利用しているのかな?

当ブログの目次をここに掲げておきます。
目次
序論 新しくブログに掲載する作品のテーマを導く
前編 はじめに、 第1章、
中編その1 第2章、 第3章、 第4章、 第5章、
中編その2 第6章、 第7章、 第8章、
中編その3 第9章、 第10章、 第11章、
後編 第12章、 第13章、 第14章、 おわりに、

2023年12月末の注記:ブログは新しい記事が先の記事の上に掲載される、つまり古い記事ほど下方になる仕組みだ。しかし当作品は1冊の本を模して書いてあるので、それでは読みにくい。そこで今回上記の目次の順序になるように、それぞれの編を入れ替える/ 移すことにしました。

第10章:駅名表記を表音文字ですることは利便性を高める

このような実状を確認したうえで、結論づけて言いましょう。訪問者としての外国人や日本語の文字体系を知らない外国人在住者が、駅名併記の表記文字として、ラテン文字、ハングル、ピンイン(この3つはいずれも表音文字で且つ日本語音を写すのに向いている)を通して、駅名を知る、発音することは、彼らにとって大きな利便性がある。日本人にとっても彼らが駅名の日本語音を不十分ながらも知る、発音することは望むところであり且つ歓迎すべきことなのだ。
今ここで書いていることは当作品における根幹の1つです。

駅名に使われる地名の中には、多くはないが、文字から由来が簡単にわかる場合ももちろんある。代表的な例である東京は、”東の京または都(みやこ)”であることは漢字の読める人ならほぼ推測がつくでしょう
東京(駅)を例にとる:日本語名に併記して、Tokyo (ラテン文字)、东京(簡体字)、東京(繁体字)、도쿄(ハングル)と書いてある。
中国漢字の音をピンインで表すと [dōng jīng] となる。[dōng jīng] をあえてカタカナで音を表せば [ドンジン](無気音+無気音)だが、実際の音はそのカタカナを発音する際の音とはかなり違う。既述したように、ピンインは中国語の音韻体系に基づいているからです。

3番目の繁体字は簡体字と同じ発音だ。4番目ハングルの発音は大よそ [トキョ]となる。東京のような地名は誰だって知っているはずだから、事前知識として”東の京 / 都”ということを知っている外国人もいるかもしれない。ただしこの地名は稀有な例ですね。

この例でもわかる様に、ラテン文字とハングルは[トゥキョゥ] という日本語音を基にして表記されているのに、簡体字と繁体字は中国語音を基にしている。だからこそ中国漢字を使わずにピンインで日本語音を写す形で、例えば [ tou ke you]の様に表記すべきだ。

〈駅名の漢字を知りたければ日本漢字を眺めれば十分である〉
現代の圧倒的大多数の中国語話者は、中国と台湾を問わず、漢字が読める。なお華語を話す東南アジア華人の場合は事情が異なる。
だから中国人と台湾人と香港人は、日本漢字から容易に意味を推測できることになる。

ただし次の点を強調します:中国漢字と日本漢字の間には、文字の意味及び使われ方が異なることは決して軽視できないほど普通にある(生じる)ので、”意味の推測がいつも正しいという保証は全くない”。特に文章の場合、単に漢字の知識だけでは日本語はきちんと理解できない。逆も真なりで、日本人にとっても漢字知識だけで中国漢字の文章がきちんと理解できる場合は大変と言えるほど少ない。まして精度の高い翻訳などほぼ無理だ。以上は強調すべき点です。

とにかく中国人や台湾人、及び華語の読める華人は、駅名に繁体字または簡体字が併記してなくても日本漢字が使われていることから、どうしてもその併記された駅名の漢字(そのもの)が知りたければ、日本漢字を眺めればそれでかなり事足りるのです。

何らかの理由で駅名の中国漢字への正確な変換を求める人には不十分かもしれないが、そもそも交通機関利用者に対してそういうことは始めから想定されていない。探求したい外国人は日本漢字と中国漢字の対照表を参照すべきです(スマフォのアプリにこの種のものがあるようだ)。


第11章:駅名はまず第一に、実用的であらねばならない

あらためて言明します。駅名は第一に実用的であり、そうあらねばならない。そして存在する理由の九割位は実用のために存在するのだ。

〈駅名のラテン文字綴りはまさに実用的なことに価値がある〉
この駅名が実用的であることについて、もう少し論じましょう。
駅名併記に用いられている文字種の面で、駅名併記のあるほぼ全てでまずラテン文字(日本式ローマ字または英語風ローマ字)が使われている。駅名併記の普及率からみて、現行の中国語漢字と韓国語ハングルによる駅名併記はラテン文字に比べてまだぐっと少ないだろう。

当ブログ作品の初め頃に書いたことだが、中国漢字とハングルが駅名併記においてどの程度全国的に使われているかを知りたいものです。
こういった情報なら知っているよという方は、気が向かれましたら、ブログのメッセージ機能を利用して情報提供していただければうれしく思います。

駅名としてラテン文字を読む外国人(旅行者であれ、在住者であれ)の大多数は日本漢字とひらがなとカタカナはわからない。だから彼らが駅名に使われた地名に関して、文字から得られるかもしれない背景がわからないのは当然だ。
何よりも駅名にラテン文字を併記していること自体、外国人に地名の意味や由来を知ってもらうことを最初から放棄している。実用第一である駅名だから、それでいい、それで充分なのです。

我々日本人利用者だって、駅名に使われている地名からその背景や由来を推測できない駅名の方が圧倒的に多いはずだ。要するに、駅名とはまず利用者にとって、及び交通機関側にとって、実用面が最大の存在意義を持つ。

どの駅の地名にも歴史的背景とか文化的背景はあるが、この際それはほとんど重要視されない。当然ですよね、駅名を使うのに、いちいち歴史的背景とか文化的背景を知る必要性はない。実用第一なのだから。駅名の利用者が外国人であっても、この原則は当然適用される。だから併記にラテン文字が使われていることは、実用面から好ましいことになる。

併記にラテン文字が第一選択として且つ圧倒的に使われるのは、ラテン文字が世界で一番普及している文字種、ということが最大の理由ですね。

韓国、朝鮮は漢字文化圏に属する、しかし両国とも既にハングル文字を書記体系に取り入れて久しく、漢字はもはや必須ではなくいわゆる教養の範疇に属すると、捉えてもいいようだ (これは読んだ知識であり、実際に見聞したわけではないが)。
表音文字ハングルからは駅名の背景はわからない。日本を訪れる韓国人が、駅名に併記されたハングルに異論あるはずはなかろうし、実用上それが一番適している。

〈駅名併記に中国漢字を決めた人たちの思考の背景にあること〉
では同じ隣国である中国と台湾の人たち向けだけに、なぜわざわざ中国漢字を駅名併記に使っているのだろうか? 駅名併記の言語と文字種を決めた、ごく少数の権限を持った人たちは、駅名併記のラテン文字とハングルを読む人たちに駅名の背景や由来などを知ってもらう、推測してもらうことを最初から考えてもいないのにもかかわらずだ。

そして、JRの駅名併記のあり方を知った各地の私鉄や、地下鉄などを運営する公共企業体の中には、単純にJRに範をとったところが多いのではないかと、推測される。一方 JRに範をとらなくて独自の判断で中国漢字の併記を決めた私鉄、地下鉄もあるだろう。
しかしこの種の決定をした人たちの頭には、ピンイン(拼音)の利点が浮かばなかったか、ピンインの内容をよく知らなかったと思われる。加えてそういう人たちは、”中国、台湾だから即漢字を使う”という固定観念が働いたことは Intraasia の想像に難くない。

これらの根底にあるのは、一部の日本人の中にある奇妙な漢字文化圏の重視意識または一体感であろう。駅名という最も実用面が大切である表記にさえこういった観念・意識を当てはめて、中国と台湾は漢字国だから駅名にも漢字を使うべきだ、と信じ込んでいる。

文化としての漢字圏を考えることは大切なことだし、Intraasia も少なからず興味ある。しかし繰り返すが、駅名の存在意義は何よりも実用面である。日本人は感傷的ともいえる漢字の呪縛から解き放たれて、駅名併記を素直に実用面から捉えることが必要だ。

< ちょっと休憩、コラム>
読者の方たちから誤解されたくないので書いておきましょう。Intraasia は”反中国漢字意識”などは全く持っていない。Intraasia は1980年代前半の数年間、ラジオの中国語講座を聴くことで初めて中国語学習をした。その際簡体字と発音は覚えたが肝心の中国語の方は使えるにはほど遠いレベルに終わった。
その後1990年代に入ってマレーシア移住時代、華語新聞を読むために華語 /中国語を独習して、なんとか読めるレベルを目指した。『マレーシアの新聞の記事から』ブログにおいて、華語新聞から自分が訳せる程度の記事を選んで、そのサイトに頻繁に掲載して、10何年間続けた。
なお『マレーシアの新聞の記事から』は、Intraasia が3種の言語の新聞を翻訳して毎日更新していたブログです。

後編に続く