本来「家族」とは、心の拠り所であり、安らぎを与えてくれる場所であるはずです。
しかし、もしその家族が、見知らぬ誰かに侵食され、崩壊していくとしたら……。
櫛木理宇さんの「侵蝕」は、そんな想像もしたくないような恐怖を描いた作品なので
す。あなたもそんな世界観に足を踏み入れてみませんか・・・
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■あらすじ
侵蝕されてしまう家族のひとりである、主人公の皆川美海は、両親と弟の四人家族でした。
ある日、美海の亡くなった弟と同じ名前の少年が現れ、そのみすぼらしさから不憫に思った美海の母は、彼を家にかくまい世話をすることにしました。
亡き息子の再来と思い込んでしまったのです。
しかし、それをきっかけに、皆川家は徐々に狂気に蝕まれていくことになります。
間もなく、その少年の母親だと名乗る、異常な白厚塗り化粧と白い服を着た女(葉月)が現れ、皆川家に居座り始めます。
彼女は、巧みな話術と奇妙な行動で、皆川家の面々の心を操り、徐々に支配していくのです。
美海は、家族の異変に気づきながらも、どうすることもできない・・・
次第に精神的に追い詰められていく美海。そして、恐怖の果てに彼女を待ち受けるの
は、想像を絶する結末だったのです・・・
■家族に入り込まれる恐ろしさ
本作の最大の特徴は、日常に潜む狂気をじわじわと炙り出す、その描写にあると思います。
見知らぬ他人が、家族という密室に侵入し、徐々にその家族と家族の関係性を破壊していくのです。
その過程は、まるで寄生虫が宿主を蝕んでいくかのようで、読んでいるこちらの心までざわつかせます。
特に、少年の母親である女(葉月)の不気味さは、筆舌に尽くしがたいものがあります。
彼女は、常に冷静で、何を考えているのか分からない・・・その異様な存在感は、読者に底知れぬ嫌悪感を与えることでしょう。
■徐々に壊れていく人間と人間関係
物語が進むにつれて、登場人物たちの精神は徐々に崩壊していきます。
特に、美海の母親、姉の変貌ぶりは、目を覆いたくなるほどです。
彼女たちは葉月の言葉や態度に操られ、次第に自分以外の家族を顧みなくなっていきます。その姿は、まるで洗脳されたかのようで、人間が狂気に侵されていく過程を生々しく描き出しています。
それにより家族間の関係も崩壊していきます。
互いを信じ、支え合っていたはずの家族が、疑心暗鬼に陥り、崩壊していく様は、読んでいて胸が締め付けられる思いがします。
櫛木さんの文章は、人間の心理を緻密に描写しており、読者は登場人物たちの心の動きをリアルに感じ取ることができます。
それゆえに、彼らが徐々に壊れていく様は、読者にとっても耐え難い嫌悪感を抱くことになるでしょう。
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■加害者なのか被害者なのか
終盤ではある疑問に突き当たります。
それは、「一体誰が加害者で、誰が被害者なのか」という問いです。
彼女(葉月)の過去を知った時、恐らく複雑な感情を抱いてしまうと思います。
憎しみ、哀れみ、そしてやるせなさ。彼女もまた、狂気の被害者だったのかもしれないのです・・・
櫛木さんは、安易な善悪感情に陥ることなく、人間の複雑な心理を描き出しています。
それゆえに、読者は深く考えさせられることになります。
■全体の感想
「侵蝕」は、ホラー小説でありながら、人間の心理を深く掘り下げた作品でもあります。家族という密室で繰り広げられる狂気のドラマは、読者に深い衝撃を与えてしまうのではないでしょうか。
読み終えた後、きっと自分の家族について、そして人間について、深く考えさせられるはずです。
この作品は、ホラー小説が好きな人はもちろん、人間の心理に興味がある人にもおすすめです。ぜひ、あなたも「侵蝕」の世界に足を踏み入れてみてください。
「侵蝕」は、読む人を選ぶ作品かもしれません。しかし、一度読み始めたら、その世界から抜け出すことはできないでしょう。
あなたは、この狂気の物語に、どこまで耐えられるでしょうか?
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