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【前回までのあらすじ】

私が2010年春に赴任した仙台のレストラン「アバンダンス」は人手不足でお店は荒れており、その原因はリーダーの月本弓香さんだとにらんでいます。

そんな中、お店の更衣室で現金盗難事件が発生してしまいました。

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盗難事件があった翌日、ビルの警備部から警備室に来るように言われました。

犯人が捕まったそうです。

警備室に行くと、同じフロアにある和食店『ひのき丸』の店長もいました。

「昨日の防犯カメラの映像です」

警備室のモニターに、画像が流れます。

「こちらをご覧ください」

警備部長の徳永さんがモニターを指さします。

モニターにはアバンダンスの裏口の様子が映っています。

そして、そこに現れたのはひのき丸の若い男性店員でした。

普段フロアで会う時は、明るく元気に挨拶をしてくる好青年です。

彼はアバンダンスの裏口から入ってきました。

わずか1分ちょっとで再び裏口から出てきました。

右手はポケットに入ったままです。

おそらくここに16万円が入っているのでしょう。

ひのき丸の店長は、ばつが悪そうな顔をしています。

「昨日、この画像を確認して警察が彼から事情を聞いたところ、犯行を認めたそうです」

「本当に申し訳ございません」

ひのき丸の店長が頭を下げます。

あまりに突然のことなので驚きましたが、自分の店の人間の犯行ではなかったことに少し安堵しました。

徳永さんによると、犯人は何度か下見に来ており、水森サヤカさんの更衣室のロッカーの鍵が壊れていることも知っていたそうです。

このことから、他にも余罪があると疑いをかけられ、アバンダンスの隣のイタリアンのお店からも窃盗を働いたことも認めたということです。

さらに、

「実は、うちの店の更衣室でも何度か盗難がありまして、それも彼の犯行だということが分かりました」

常習犯ということなのです。

しかし、それならなぜもっと早くに原因追求をしなかったのでしょうか。

ひのき丸の店長によると、実店舗での被害は多くて数千円で、同じく財布から抜き取る手口だったのですが、1000円から3000円という金額で、被害者の勘違いの可能性もあるとして深追いしなかったそうです。

窃盗は金額の大小ではありません。もしも、ひのき丸さんが自店舗での被害の際に適切に対応してくれていれば、ここまでエスカレートすることはなかったかもしれません。

いずれにせよ、悪いのは犯人なのですが。

水森さんはお金が返ってくればそれでいいと主張していましたが、徳永さんの方から、事がことなのでちゃんと被害届を出して欲しいと言われ届け出をしました。

結局、他の店舗も含め4店舗で20件以上の犯行があったということで犯人は逮捕されました。

ここまで大きな窃盗事件は私も初めてでした。

テナント側の動きは早く、翌日には各店舗の裏口に鍵付きのドアが設置され、その翌日には各店舗のロッカーをダイヤル式ロックと鍵を使用しなければ開けられないものに変更してくれました。

さらに、毎月月初に各店舗の新人アルバイトを集めて、全体のルールの徹底のためのミーティングを開催するように改善されました。

アバンダンスでも、私から全員に再度ルールの徹底について厳しく申し伝えました。

私の店にとっては、ただでさえ従業員が不安定な状況の中、起きては欲しくない事件ではあったのですが、このことがきっかけであることも起きました。

ルールを徹底の面談で、特に古いアルバイトの子には過去のルールへの対応について聞き取りも行いました。

その話の中で、前の店長に採用されたあるキッチン担当の従業員が、前の店長は自分が新人の時にしっかりとルールの説明をしてくれた、と教えてくれたのです。

話の延長で、前の店長のことについて話し始めました。

これまで、全従業員と何度も面談を繰り返してきましたが、どの従業員も一様に前の店長や社員の話はいいことも悪いことも口にしてきませんでした。

自分から以前の店長について口にしたのは彼女が初めてでした。

彼女は自分を採用してくれた前の店長に対して好感を持っていたようでした。

そこで思い切って、

「前の店長を従業員全員で無視していたというのは本当ですか」

と聞いてみました。

すると、彼女の表情がみるみる変わり、泣き出してしまいました。

しばらく間を置いて、

「もし可能なら、知っていることを話してくれませんか」

と問いかけました。

彼女は泣きじゃくりながら、月本さんがmixiで店長以外の全従業員を掌握していること、月本さんの指示で前の店長を徹底的に無視していたこと、自分は店長のことを嫌いではなかったのでつらかったこと、などを話してくれました。

私は彼女に、話してくれたことに対してお礼を告げ、このことはもちろん誰にも言わないこと、そして必ず改善することを約束して面談は終了しました。

窃盗事件は絶対に起きて欲しいことではありませんが、怪我の功名と言いますか、ついに従業員の口から直接月本さんの行動について聞き取ることができました。

しかしながら、これは従業員1人2人の問題ではなく、お店全体の従業員が関わっていることなので慎重に事を進めなければなりません。

月本さんを問い詰めてやめさせることは簡単ですが、前からお伝えしているように、私の目から見ると月本さんはこの仕事が嫌いなようには見えません。

むしろ、単純に仕事だけを見ればとても高い能力の持ち主だと思います。

おそらく、月本さんをこのような行動を取るようにさせてしまった原因がどこかにあるはずです。

そこを解決しない限り、月本さんひとりをやめさせたところで全従業員の意識を完全に変えることは難しいだろうと判断していました。

なので、月本さんとの見えない戦いはまだまだ続くのでした。

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窃盗事件は、こう言っては何ですが自店舗の人間が犯人ではなく、正直少しほっとしました。

また、従業員の一人から月本さんの行動について明確な証言を得られたことは、私にとっては一歩前進でした。

今考えると、1人の店長を病気にまで追い込むとはとても恐ろしいことですが、当時は当事者としてまずは従業員の方一人一人と向き合うことが最も大切だと捉えて行動していたことを思い出します。

とにもかくにも、今回の窃盗事件をきっかけに、より従業員たちが安心して働ける環境を作り上げることが大切だということを身にしみて感じるのでした。

・・・続きをどうぞお楽しみに！

⇒【続きはこちら】エピソード④-0: 「人員を確保せよ！」【連載物語・『震災を超えて～絆のレストラン』】

⇒エピソード１はこちら！

※このブログの挿絵は、ほぼChatGPT4.0で作成しています。

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