お客様は神様です。23

お客様は神様です。

僕は好きな物以外の記憶が無い。そんな状況で早熟だの晩成だの言われたところでそれが当たっているのかどうかはわからない。しかし、サラリーマンは見るからに冴えない。それがもし早熟だとすれば、早くに熟して、早くに腐ったとも思えるが、早熟とはそういう事ではないような気がした。早咲き遅咲きとでも言えばいいのか、サラリーマンはまだ咲いたことが無いことは僕が見てもなんとなくわかった。

サラリーマンも記憶があいまいなのだろう。どうもピンときていない様子ではあったがどこかうれしそうな表情に見える。特に目が先ほどまでとは違く、時間が経過するほどイキイキとして見える。それは甘いショートケーキを食べた事も関係するだろうが、好き神に言われたことの方がむしろ大きい所もあるだろう。

「では、僕はまだ、頑張れるということでしょうか?頑張っていれば報われるという事でしょうか?」とサラリーマンは好き神に必死な眼光で問う。

「そうじゃな。頑張れば報われるという保証はどこにもありはせんのじゃ。残念じゃが。でも、頑張る事は無駄ではないぞよ。今までは運が悪かったり頑張り方が間違っていてお前さんは咲くことができんかったのじゃ。そうそう、植物と同じじゃな。少し温度が高かったり低かったり、土が乾いていたり逆に濡れすぎていたりすると種は目を出さん。そして花を咲かせんもんじゃ。だけど、もし運さえよければ何の努力も無しに花を咲かせることさえある。その運の要素が非常に大事なのじゃ。」と好き神が熱弁し、サラリーマンが食い入るように聞いている。

「ワシが見るところによると、お前さんはまだ蕾のようじゃ。やっと色々な努力をして蕾にまで成ったのじゃ。それなのに、蕾のまま終わるのはもったいなかろうに。何のことかわかるな?」と少し怒ったような表情で好き神はサラリーマンをにらんだ。

「・・・はい。」と真剣な眼差しでサラリーマンは答えたが、僕は二人の重たい空気に耐えられずゴクリと唾を飲み込んだ。

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