前回では、創作者が資本家に従属する20世紀モデルについて述べ、学校教育の場においても「創作」や「著作権」を軽視する例にも触れて、古いモデルからの脱却が資本主義社会全体の課題であるという話をしました。
学校は、知識を獲得する場ではなく、生徒自ら知的財産を生み出し、知的財産権を管理していく場になるべきであり、仮想空間の中で創作された小説、音楽、仮想商品などの著作物の取り扱いについても、著作者自らが意識的に計画的に著作権を管理するシステムを構築する必要がある、という話でした。
著作者、すなわち創作者自らが著作権などの知的財産権を管理する。・・・このハードルは(現状においては)高いといえます。
例えば、創作者に対して、上述のような必要性を語ったとしても、創作者の多くは、著作権を管理するのは法律畑の人間であって、自分は創作に没頭したい、出版会社、レコード会社、放送会社などの法務部に任せておけばよい、と回答するでしょう。20世紀モデルのままでよいと・・・
しかし、時代は、近未来のIT技術やAI技術は、その20世紀モデルを易々と超えていきます。メタバースや3D Webなどの仮想空間では、その中にある小説、音楽、仮想商品などの著作物について、誰が著作者であるのか、その著作者は著作物の利用を他者に認めているのか、どのような条件で認めているのか、対価は幾らか、などの著作権情報を(技術的には)提供することが可能になります。
20世紀モデルでは、それらの情報が個々の商品(書籍、レコード、放送番組など)に隠されており、その商品を製作・流通・販売する会社が、商品ビジネスの中で、個々の著作権の処理を(著作者に代わって)行っていたのです。
これからは違います。メタバースや3D Webなどの仮想空間を利用する者は、その中にある小説、音楽、仮想商品などの著作物にダイレクトにアクセスできます。そして、IT技術やAI技術によって、その著作物の著作権情報がわかりやすく提供されることになります。
著作者が、自ら著作権を管理するようになり、仮想空間を利用する者も、提供された著作権情報を理解した上で著作物を積極的に利用することとなるのです。
仮想空間を運営するプラットホームは、わかりやすい「著作権の管理」と「著作権情報の提供」を行っていく、これこそが重要です。
それを行ったプラットホームが、21世紀を制することとなります。
今はその入り口に立っています。AI技術開発や、メタバース表現技術など、個々の技術開発が各所で行われていますが、著作権という切り口でこれらの技術を総合して、わかりやすい「著作権の管理」と「著作権情報の提供」の実現に向けた取り組みを行う必要があります。
仮想空間内に存在する著作物に関して、それを創る側と、それを利用する側との間の関係を、著作権という権利を焦点にして構築し、著作権が新たな著作権を生む新しい社会を展望していく、これが今求められていることなのです。
権利が権利を生む新しい社会・・・ ある者が創作した著作物についての著作権が、その著作物を利用して創作した他者の著作物の著作権に関係していく。
この関係の構築には、現実空間内にリアルな物として存在する商品の製作・流通・販売を必要としません。著作物は仮想空間内でダイレクトで授受されるので、権利が権利を生む社会は、ネット空間の中で無限に拡大していくのです。
新しい社会が見えてきています。IT技術やAI技術がそれを可能にします。古いのは法律であり、従来の社会システムです。
この新しい社会は、商品流通経済を基本とする従来の資本主義社会とは異なるものです。
次回もまた、この新しい社会、超「商品流通社会」について考えていきましょう。