二度目の人生における健康的な食生活 87~生命と健康長寿に必要なモリブデン(Mo)の摂取基準と摂取量等

モリブデンを豊富に含む大豆の畑のイメージ画像 生命と健康長寿に必要な栄養素の摂取基準と摂取量等


 前回クロム(Cr)摂取基準摂取量等に引き続き、今回は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」におけるモリブデン(Mo)摂取基準摂取量等について書きます。

Ⅱ各 論 1エネルギー・栄養素 1-7 ミネラル(2)微量ミネラル ⑧モリブデン(Mo)

1 基本的事項

1-1 定義と分類

 モリブデン(molybdenum)は、原子番号42、元素記号Moのクロム族元素の一つである。

1-2 機能

 モリブデンは、キサンチンオキシダーゼ、アルデヒドオキシダーゼ、亜硫酸オキシダーゼの補酵素(モリブデン補欠因子)として機能している。先天的にモリブデン補欠因子、又は亜硫酸オキシダーゼを欠損すると、亜硫酸の蓄積により脳の萎縮と機能障害、痙攣、水晶体異常などが生じ、多くは新生児期に死に至るモリブデンをほとんど含まない高カロリー輸液を用いた完全静脈栄養を18か月間継続されたアメリカのクローン病患者において、血漿メチオニンと尿中チオ硫酸の増加、血漿と尿中尿酸及び尿中硫酸の減少、神経過敏、昏睡、頻脈、頻呼吸などが発症している。これらの症状がモリブデン酸塩の投与で消失したことから、この症例はモリブデン欠乏だと考えられている。しかし、モリブデン欠乏に関する報告はこの一例のみである。

1-3 消化、吸収、代謝

 モリブデンを22、72、121、467、1,490µg/日摂取した状態で、別に経口摂取したモリブデン安定同位体の吸収率は88〜93%である。食品中モリブデンの吸収率として、大豆中のモリブデンが 57%、ケール中のモリブデンが88%という報告がある。しかし、20代の日本人女性を対象として145〜318µg/日のモリブデンを含有する献立を用いた出納試験は、大豆製品が多い献立でも吸収率低下は生じず、食事中モリブデンの吸収率を93%と推定している。モリブデンの尿中排泄はモリブデン摂取量と強く相関するので、モリブデンの恒常性は吸収ではなく尿中排泄によって維持されると考えられる。

2 指標設定の基本的な考え方

 アメリカ人男性を対象に行われた出納実験より平衡維持量を推定し、推定平均必要量推奨量を算定した。一方、耐容上限量の策定に関して、アメリカ・カナダやヨーロッパ食品科学委員会では、ラットの健康障害非発現量(900 µg/kg 体重/日)に不確実性因子30又は100を適用して成人の値を定めているが、我が国は、アメリカ人男性を対象に行われた実験及び菜食者のモリブデン摂取量から総合的に判断して値を設定した。

3 健康の保持・増進

3-1 欠乏の回避

3-1-1 推定平均必要量、推奨量の設定方法

・成人・高齢者(推定平均必要量、推奨量)
 22µg/日のモリブデン摂取を102日間継続した4人のアメリカ人男性において、モリブデン出納は平衡状態が維持され、かつモリブデン欠乏の症状は全く観察されていないこの22µg/日に、汗、皮膚などからの損失量を他のミネラルのデータから3µg/日と推測し、これを加えた25µg/日を推定平均必要量の参照値とした。この参照値から、4人のアメリカ人の平均体重76.4 kgと性別及び年齢区分ごとの参照体重に基づき、性別及び年齢区分ごとの推定平均必要量を体重比の0.75乗を用いて外挿することで算定した。なお、参照値として用いた25µg/日は、アメリカ・カナダの食事摂取基準及びWHOも採用している。
 参照値が被験者4人の1論文に依存したものであるので、個人間の変動係数を15%と見積もり、性別及び年齢区分ごとの推奨量は、推定平均必要量に推奨量算定係数1.3を乗じた値とした。
・小児(推定平均必要量、推奨量)
(略)
・乳児(目安量)
(略)
・妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
(略)
・授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
(略)

3-2 過剰摂取の回避

3-2-1 摂取状況

 モリブデンは穀類や豆類に多く含まれることから、穀物や豆類の摂取が多い日本人のモリブデン摂取量は欧米人よりも多く、平均的には225µg/日大豆製品を豊富に含有する献立の場合は容易に300µg/日を超えると報告されている。

3-2-2 耐容上限量の設定方法

・成人・高齢者(耐容上限量)
 ヒトのモリブデン中毒に関する研究は少ない。食事からのモリブデン摂取量が0.14〜0.21mg/kg体重/日の者に高尿酸血症と痛風様症状を観察したという報告がある。アメリカ環境保護局(EPA)は、この報告に基づき、モリブデンの最低健康障害発現量を140µg/kg 体重/日、不確実性因子を30として得られる5µg/kg体重/日を、モリブデン慢性経口曝露の参照値としている。WHOもこの参照値を採用している。しかし、アメリカ学術会議は、この報告の高尿酸血症と痛風様症状にモリブデンが関与していることは疑わしいとしている。
 4人のアメリカ人を被験者として、モリブデン1,490µg/日を24日間摂取させた状態に、さらにモリブデン安定同位体を経口投与した実験では、モリブデンの平衡は維持され、有害な影響は認められていない。この実験でのモリブデンの総投与量である約1,500µg/日を健康障害非発現量と考えて、被験者の平均体重82kgで除し、不確実性因子2を適用する9µg/kg 体重/日になる。この値に、成人の性別及び年齢区分ごとの参照体重を乗じて平均すると、男性が585µg/日、女性が464µg/日となる。一方、穀物と豆類の摂取が多い厳格な我が国の菜食主義者(成人女性12人、平均体重49.1kg)の献立を分析した研究では、モリブデン摂取量の平均値を540µg/日と報告しているが、健康障害は認められていない
 以上、アメリカ人を対象にした実験及び我が国の女性菜食者のモリブデン摂取量を総合的に判断し、男性600µg/日、女性500µg/日を一律のモリブデンの耐容上限量とした。なお、ここで設定した成人男性の耐容上限量は、ラットの健康障害非発現量に基づいて設定されているヨーロッパ食品科学委員会 の値と同じである。
・小児・乳児(耐容上限量)
(略)
・妊婦・授乳婦(耐容上限量)
(略)

3-3 生活習慣病の発症予防

 モリブデンが生活習慣病の発症予防に直接関連するという報告はない。したがって、生活習慣病発症予防のための目標量は設定しなかった

4 生活習慣病の重症化予防

 慢性腎臓病の小児や人工透析を受けている患者において、血清モリブデン濃度が上昇しているという報告がある。モリブデンの主排泄経路が尿であること、モリブデンがリン酸と高い親和性を有すること、腎機能が低下するとしばしば血清リン濃度が上昇することを考慮すると、この血清モリブデン濃度の上昇は血清リン濃度の上昇に伴う二次的なものである可能性が高く、慢性腎臓病の発症や重症化とは無関係と思われる。その他の生活習慣病の重症化とモリブデンの直接的な関連を示す報告はない。したがって、生活習慣病重症化予防のための量(上限値)も設定しなかった

5 活用に当たっての留意事項

 通常の我が国の食生活であれば、推奨量の10倍近いモリブデン摂取量になる。したがって、事実上、献立の作成においてモリブデンの摂取に留意する必要はない

6 今後の課題

 モリブデンの摂取と生活習慣病との関連についての情報の蓄積が必要である。

モリブデン(Mo)の食事摂取基準及び私の摂取量

モリブデンの食事摂取基準(μg/日) 

モリブデン(Mo)の摂取量

 献立の作成においてモリブデンの摂取に留意する必要はないとされていることからその摂取量は計算していません

まとめ(モリブデンを含むサプリメント)

 モリブデン単体のサプリメントやその摂取を推奨する情報はあまり見かけませんが、マルチミネラルサプリメントにはモリブデンも含まれているものが多く、特に、海外製のマルチミネラルサプリメントの場合、モリブデンの含有量も多いようです。
 平均的には225µg/日、大豆製品を豊富に含有する献立の場合は容易に300µg/日を超えるとされている日本人は、マルチミネラルサプリメント等から200〜300µg/日のモリブデンを摂取すると耐容上限量(男性600µg/日、女性500µg/日)を超過してしまう可能性があるので注意が必要だと考えています。

 次回は、摂取基準摂取量等について書きます。

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