前回の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」におけるビタミンDに関する記述の要点等(前段)に引き続き、今回は記述の要点等(後段)について書きます。
Ⅱ各 論 1エネルギー・栄養素 1-6 ビタミン (1)脂溶性ビタミン ②ビタミン D
3 健康の保持・増進
3-1 欠乏の回避
3-1-1 必要量を決めるために考慮すべき事項
上記のように、我が国においては、骨折リスクと血液中25-ヒドロキシビタミンD濃度の関係に関するコホート研究は、少ないながら報告があるものの、摂取量評価が同時に行われた研究が極めて乏しい。また、海外では多くの大規模臨床試験が行われており、1日当たり10µg程度では無効だが、20µg程度では大腿骨近位部骨折を抑制するとの報告があるものの、我が国においては、骨折予防をアウトカムとした介入試験は行われていない。
このような状況から、我が国のデータに基づいて、目安量を定めることは困難と考えられた。アメリカ・カナダの食事摂取基準(2011)においては、ビタミンDの推奨量として、70歳以下に対して15 µg/日、71歳以上に対して20 µg/日とされており、これに準拠することとした。ただし、これらの値は日照による皮膚でのビタミンD産生を考慮しないものであるため、そのまま目安量とすることは過大な策定となる懸念があり、この値から、日照により皮膚で産生されると考えられるビタミンDを差し引いた量を、目安量とすることとした。
3-1-2 目安量の策定方法
・成人(目安量)
厳密な遮光を要する色素性乾皮症患者に対する調査より、これら患者ではビタミンD欠乏者の割合が高く、ビタミンD必要量が大きいことが示されているが、例数が少なく、これだけから目安量を策定することは困難と考えられた。日照がビタミンDの栄養状態に及ぼす影響に関して、最近、10µgのビタミンD産生に必要な日照量は、600cm2(顔面及び両手の甲の面積に相当)の皮膚であれば、minimal erythemal dose(MED;皮膚に紅斑を起こす最小の紫外線量)の1/3 と算出された。すなわち、皮膚に有害な作用を起こさない範囲で、ビタミンD産生に必要な紫外線量を確保することは、現実的に可能であると考えられた。ただし、紫外線の照射は、緯度や季節による影響を大きく受ける。国内3地域(札幌・つくば・那覇)において、顔と両手を露出した状況で、5.5µgのビタミンD3を産生するのに必要な日照への曝露時間を求めた報告によると、那覇では冬季でもビタミンD産生が期待できるが、12月の札幌では正午前後以外ではほとんど期待できず、晴天日の正午前後でも76分を要するという結果であった(表 1、図 3)。
しかし、これは晴天日に限定した算出であり、晴天日に限定しなかった場合、冬季の札幌では、最大限に見積もっても、5µg程度の産生と考えられた。目安量という指標の特質を考慮して、日照による産生が最も低いと考えられる冬季の札幌における値を引用すると、アメリカ・カナダの食事摂取基準で示されている推奨量(15µg/日)から、この値を引いた残り(10µg/日)が1日における必要量と考えられた。
ところで、ビタミンDは、摂取量の日間変動が非常に大きく、かつ、総摂取量の8割近くが1種類の食品群である魚介類に由来する(平成 28 年国民健康・栄養調査)という特殊な栄養素である。また、摂取量の日間変動も極めて大きい。そのために正確な習慣的摂取量を、特に過度な過小申告並びに大きな日間変動の影響を排除した上で、把握することは極めて難しい。健康な成人(男女各 121 人)を対象として、比較的ていねいな方法を用い、かつ、4季節4日間(合計16日間)にわたって半秤量式食事記録が取られた調査によれば、ビタミンD摂取量の中央値は表2のように報告されている。一方、平成28年国民健康・栄養調査で報告された中央値は上記調査で報告された値よりもかなり小さい。この違いの理由として、調査日数の違いに加えて、季節や調査方法の違いなどが考えられるが詳細は明らかでない。
ビタミンDについては、こうした特殊性を考慮した上で、実現可能性に鑑みた目安量の策定が必要と考えられた。全国4地域における調査結果(16 日間食事記録法)データの中央値を単純平均すると8.3µg/日であり、これを丸めて8.5µg/日を目安量とした。なお、男女別のデータは十分に存在しないために男女とも同じ値とした。しかしながら、上記に示した日照曝露時間や日照曝露によって産生されるであろうビタミンDの量に現時点では強い根拠はないことに留意すべきである。またこの値を一律に適用するのではなく、夏期又は緯度の低い地域における必要量はより低い可能性を考慮するなど、ビタミンDの特質を理解した活用が求められる。
・高齢者(目安量)
骨粗鬆症により種々の部位の骨折リスクが高まり、ビタミンD不足は、特に大腿骨近位部骨折を含む、非椎体骨折のリスクを増加させる。これらの骨折は、特に高齢者において発生する 。ビタミンDが不足状態にある例は、高齢者で特に多いことが日本人でも報告されている 。さらに、日照の曝露機会が非常に乏しい日本人の施設入所高齢者に対する介入試験では、血清2-ヒドロキシビタミン濃度20ng/mL以上とするためには5µg/日では無効で、20µg/日でも20ng/mLを超えたのは約40%に留まったとの報告がある。これらを根拠として、骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年度版(日本骨粗鬆症学会)では、10〜20µg/日の摂取を推奨としている。しかしながら、上記で引用した報告の多くは施設入所高齢者を対象とした研究である。また、アメリカ・カナダの食事摂取基準では、71歳以上に対して、20µgという推奨量を定めている。しかし、ここでは日照曝露を考慮していない。これらの結果を我が国の自立した高齢者全体に適用できるか否かについては更なる検討が必要であると考えられる。そのため、65歳以上にも、適切な日照曝露を受けることを推奨し、18〜64歳に算定した目安量(8.5µg/日)を適用することとした。
・小児(目安量)
(略)
・乳児(目安量)
(略)
・妊婦(目安量)
(略)
・授乳婦(目安量)
(略)
3-2 過剰摂取の回避
紫外線による皮膚での産生は調節されており、必要以上のビタミンDは産生されない。したがって、日照によるビタミンD過剰症は起こらない。また、ビタミンDは、肝臓及び腎臓において活性化(水酸化)を受けるが、腎臓における水酸化は厳密に調節されており、高カルシウム血症が起こると、それ以上の活性化が抑制される。
3-2-1 耐容上限量の設定方法
多量のビタミンD摂取を続けると、高カルシウム血症、腎障害、軟組織の石灰化障害などが起こることが知られている。ビタミンD摂取量の増加に伴い、血清 25-ヒドロキシビタミンD濃度は量・反応関係を有して上昇するが、血清 25-ヒドロキシビタミンD濃度が上昇しても必ずしも過剰摂取による健康障害が見いだされない場合もある。そのため、ビタミンDの過剰摂取による健康障害は、高カルシウム血症を指標とするのが適当であると考えられる。
乳児については、多量のビタミンD摂取によって成長遅延が生じる危険があり、これを健康障害と考えて行われた研究が存在する。
・成人(耐容上限量)
成人男女(21〜60 歳、30人)に3か月間にわたって、10、20、30、60、95 µg/日のビタミンDを摂取させたところ、95µg/日を摂取した群の中に血清カルシウム濃度の上昇を来した例があったが、60µg/日では血清カルシウム濃度が基準値範囲内であったとの報告がある。しかし、対象例数が非常に少なく、また、元々高カルシウム血症を来しやすい肉芽腫性疾患患者を対象
とした研究であるため、この結果をもって耐容上限量を定めるのは不適切であると考えられた。
この論文を除くと、250µg/日未満では高カルシウム血症の報告は見られないため、これを健康障害非発現量とし、アメリカ・カナダの食事摂取基準に準拠して、不確実性因子を2.5として、耐容上限量を100µg/日とした。さらに、1,250µg/日にて高カルシウム血症を来した症例報告があり 、これを最低健康障害発現量とし、不確実性因子をとして耐容上限量を算出しても、ほぼ同等の値となることから、上記の算定は妥当なものと考えられた。なお、性別及び年齢区分ごとの違いは考慮しなかった。
・高齢者(耐容上限量)
現在までのところ、高齢者における耐容上限量を別に定める根拠がないことから、成人と同じ100 µg/日とした。
・小児(耐容上限量)
(略)
・乳児(耐容上限量)
(略)
・妊婦・授乳婦(耐容上限量)
(略)
3-3 生活習慣病の発症予防
近年ビタミンDに関しては、心血管系・免疫系などに対して、種々の作用が報告されている。
また最近、我が国における代表的コホート研究である JPHC 研究において、ビタミンD不足は、発がんリスクを上昇させることが報告された 。しかし、目標量を設定できるだけの科学的根拠はないことから、設定を見送った。
4 生活習慣病の重症化予防
既に骨粗鬆症を有する例において、ビタミンD不足は、負のカルシウムバランスから、二次性副甲状腺機能亢進症を起こし、骨折リスクを増加させる。しかし、重症化予防を目的とした量を設定できるだけの科学的根拠はないことから、設定を見送った。
5 フレイルの予防
最近ビタミンDの筋力維持における役割が注目され、ビタミンD不足は転倒のリスクであることが示されている。75歳以上の日本人女性1,393人を対象に、転倒を評価指標としたコホート研究において、ロジスティック回帰分析の結果、血清25-ヒドロキシビタミンD濃度が25ng/mL以上群に対して、その濃度が20ng/mL未満群では、転倒のオッズ比は有意に高かった。椎体骨折以外の骨粗鬆症性骨折は、そのほとんどが転倒によって起こるので、ビタミンDは骨・骨格筋の両方に作用して、骨折予防に寄与している可能性が考えられる。しかし、フレイル予防を目的とした量を設定できるだけの科学的根拠はないことから、設定を見送った。フレイル予防を目的とした量の設定は見送ったが、日照により皮膚でビタミンDが産生されることを踏まえ、フレイル予防に当たっては、日常生活において可能な範囲内での適度な日照を心掛けるとともに、ビタミンDの摂取については、日照時間を考慮に入れることが重要である。
6 活用に当たっての留意事項
ビタミンDの大きな特徴は、紫外線の作用により、皮膚でかなりの量のビタミンDが産生されることであり、その量は、緯度・季節・屋外活動量・サンスクリーン使用の有無などの要因によって大きく左右されることから、各個人におけるビタミンD摂取の必要量は異なる。例えば、日照の機会が極めて乏しい場合であれば、目安量以上の摂取が必要となる可能性があり、活用に当たっては、各個人の環境・生活習慣を考慮することが望ましい。
7 今後の課題
日本人における日照曝露時間、ビタミンDの習慣的摂取量及び血清25-ヒドロキシビタミンD濃度の相互関係に関する信頼度の高いデータが必要である。
まとめ(目安量の意義とビタミンDの特質を理解した活用)
目安量の意義
8.5µg/日という目安量は、日照による5µg/日程度のビタミンDの産生を前提としたものであり、日照による産生量が少なければその分は不足することになります。
更に、この目安量が(必要性よりも?)実現可能性を鑑みた上で策定されているため、日照によって5µg/日程度のビタミンDを産生した上で、食事から目安量(8.5µg/日)程度のビタミンDを摂取するだけでは、骨粗鬆症や骨折のリスクを軽減できたとしても、免疫力の調整機能や癌や糖尿病等の生活習慣病の予防機能を期待するには不足していると考えた方が良いのではないかと思っています。
ビタミンDの特質を理解した活用
『ビタミンDは、摂取量の日間変動が非常に大きく、かつ、総摂取量の8割近くが1種類の食品群である魚介類に由来する(平成 28 年国民健康・栄養調査)という特殊な栄養素である。』と書かれていることについて・・・
私は、総摂取量の8割近くが1種類の食品群である魚介類(鰯や鮭等一部の魚類)に由来しているのは、ビタミンDを多く含む食品がこうした食品に限られているため、こうした食品を食べた日はビタミンDを十分に摂取出来るが、食べなかった日はビタミンDをほとんど摂取出来ず、結果的に摂取量の日間変動が非常に大きくなるということだと理解しています。
ビタミンDは、肝臓や脂肪組織に貯蔵されるため、毎日、魚類を食べる必要はないとしても、最小限、週に何回かはビタミンDを豊富に含む魚類を食べるようにしています。
また、私の場合、Uberの配達をしているので屋外での活動時間は非常に長いのですが、その分、日焼け対策が必要不可欠で、日照によるビタミンDの産生量がどの程度なのか全く不明のため、日照によるビタミンDの産生量は全く無いものと仮定して、食事からの摂取必要量を計算しています。
次回は、ビタミンDの摂取量と摂取源としている主な食品等について書きます。
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