その砂糖製造会社の会長は、毎日、工場に顔を出しては、製品の角砂糖を一つ、持っていった。
「コーヒーに入れるんだよ。我が社の製品が一番だからね」
と会長は言っていた。
社長始め、社員一同は、会長の愛社精神に感服していた。
しかし会長はその角砂糖をコーヒーに入れたりはしなかった。
角砂糖を持って会長室に帰ると、会長は壁に埋め込まれた秘密のスイッチを押す。すると本棚がずれて、小部屋の入り口が現れる。
会長はその小部屋に入る。
小部屋には、清潔なベッドが一つあり、そのベッドの上で、点滴と心電図に繋がれた、一匹の巨大な女王蟻が眠っている。
会長は女王蟻の枕元に角砂糖を置く。そして、おもむろにカツラを脱ぐ。
会長の頭部には触角が生えている。
会長は触角で女王蟻に触れる。女王蟻がゆっくりと目覚める。会長は微笑む。
それが会長の一日の中で、一番静かな時間だ。