愛をこめて悪口を

隙あらば投資の話ばっかりしてくる60代半ばのお客様がいるんだけど。

そんな彼から午前中に注文の電話があって、今日も今日とて「ところで最近株の調子どうよ、株なんかより時計か金買え、時代は時計だ」とか言ってくるので、「車買っちゃったからお金ナインデスヨー」と生返事すると、「え?車?買ったの?新車?」と彼。

「はい、新車です」

「何買ったの?」

「タフトです」

ダイハツ?なんでスズキにしないの、スズキなら俺知り合いいるのに」

「(知るか)それ先に教えといてくださいよー」

「なんでタフト?前から欲しいって思ってたの?」

「(うるせえな)そういうわけでもないですけど…ただ、なんとなく…?でも気に入ってますよ、またお店寄った時にでも見てみてください」

「うんわかった」

 

そして営業がみんな出て行って私1人になった午後一、さっそく来た。まじか。ひまか。

「タフト見せてやー」と彼。

「ドーゾ、ドーゾ」と私。

「今日は靴もおろしたてで綺麗だから」

え… 乗るの…?

「……鍵、持ってきますね」

運転席に乗り込み、おおおー新車の匂い―、と言う。

「ええまだ納車したばっかりですから。会社に乗ってくるの今日でまだ2日目ですから。(にっこり笑顔で圧(無駄撃ち」

ブルンッ… エンジンをかける。

ガタッ、ガタッ… シートを操作しながら「ふーん、なるほど」

いやなんでシート位置を自分の足の長さに調整してんのよ…

どっかのボタン押しながら「あれ?ラジオのボリューム変わらんや?」

「ボリュームはこっちです」

「あ、ほんまや」

どこ触ったんだよ…設定変えんなよ…

「一括で買ったの?」

「はあ、まあ」

「やるね」

「カツカツです」

「でもまだ多少は残ってるでしょ?」

「イヤイヤイヤ(笑)」

「残高ゼロなら一括で買うわけないじゃん。500はあるの?」

詰めてくんな。

「まあ…それくらいは、さすがに。ないと。私ももう50手前なんで」

「えっ、もうそんなになるの?ここ何年いるんだっけ?」

20年になりますが、いいからもうエンジン切れ。燃費!

あと外さっっっぶい(寒い)んよ…

さっきからずっと私大げさに震えて見せてんのに、全然車から離れない。

さすが職人さんは寒さ暑さに強いんかな、とそこはちょっと尊敬する。

コーヒー淹れますよ、と促して、ようやく中に入ってもらう。

 

そっから1時間、延々職場の人の悪口を聞かされた。

 

「俺まじで嫁・子どもさえおらんかったらあいつのことぶち喰らして犯罪者になってもええと思っとるんやけど」

「ほーほー」

「人間の本性は人相に表れるんよ、美人でも底意地悪い顔しとんのもおるし、顔立ちは悪くても、柔らかいニコニコした子はかわいい」

「ほーほー」

「それであいつその後どうしたと思う?ああして、こうして…」

「ほーほー」

「そのせいで社長に呼び出されて、ああで、こうで…」

「ほーほー」

「まじであいつ許さん」

話が一区切りつき、とっくに冷めたコーヒーの残りを彼が飲み干したので、さてと…と私も仕事に戻ろうとしたら、「おかわり」て言われた。あ、はい、あ、ですよね?すみません、気づきませんで…

 

正直、これほど共感ポイントのない悪口聞かされることそうないな、くらい「あいつ」の非が見えない、よくわからない話だったのだけれど、最後の最後で

「あいつは普段からずっと他人の悪口ばっかり言よる。他人のことを陰で悪く言うのは卑怯だろ?俺は絶対にあいつみたいにはならん。」

と、古典落語か、くらいしっかりしたオチをつけてくれたので感動で震えた。

 

 

ぱっとしない日常にも折り合いをつけて、それなりに楽しくやっている。

それは私のいいところだと思っている。

『顔立ちは悪くても、柔らかいニコニコした子はかわいい』と、彼は私のことだなんて一言も言ってはいないのに、勝手に私のことですねと判断して褒められたと喜んでいる図太さも、私のかわいいところだ。

それから、ほぼ「ほーほー」だけで乗り切る相槌スキル…

あとなんだろ、なんでもない日常(悪口)を即ブログに落とし込む対応力…

それから、ただの悪口にもちゃんと愛を込めようと果敢に挑む姿勢…

そんな私が、

好き…

 

 

今週のお題「自分の好きなところ発表会」

 

 

無理やり、今週のお題

自分が書きたいことじゃなく、与えられたお題(たとえどんなにつまらないテーマであろうが)で文章を書く筋力を鍛えたくてやってみた(こっから毎週継続したいと思っている)けど、これお題に沿ってますぅー?

お題に沿って書いたというより、自分の書きたいことに無理やりお題をこじつけただけやなこれは…(まあいっか!

 

 

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