かねてよりリタッチカラーの予約をしていた美容院に、ちょっとわくわくしながら行く。
そう、お目当ての…
あったー!
『CLASSY.』4月号!
【※別に読まなくていい前回のお話的なやつ】
(※なお、『CLASSY.』は思ってたほど重量ありませんでした。膝に乗せれば軽々と持てました。訂正してお詫び申し上げます。)
美容師さんに了承をいただき、オペ看護師の全ページを写真に撮って妹にラインで送った。
美容師さんが「えー、これが炎上してるんですかぁ?私内容見てないからわかんないですけど、着回しコーデに炎上要素なんてありますぅ?」と言うので、「なんか、医者と看護師の不倫設定にしたことで不謹慎だって燃えてるみたいです。命の現場でがんばってる人達に不倫させたのがダメだったんですかね(笑)」と答えると、「へー、でも友達が『うちの病院の医者と看護師めっちゃ不倫してる』って言ってましたけどねー」と言うので、笑った。
私が見た批判の中に、「医師と看護師は不倫するもんだという偏見が酷い、失礼だ」という意見がいくつもあったのだけれど、もしもこれが「ドロドロ事務所内不倫を卒業して、新たな恋に踏み出さなきゃ!?ペンキ屋事務員が主人公!スカートしばりの3月着回しDIARY」ならどうだろう。「ペンキ屋の営業と事務員は不倫するもんだという偏見が酷い」だなんて世間は思うんだろうか。少なくとも、当事者である私(ペンキ屋事務員)は、「ペンキ屋事務員です」とわざわざ名乗ってネットに抗議のコメントを書き込むようなことはしない。
この物語は、よくある不倫をしていた男女の職業がたまたま「医師と看護師」だっただけだ。それ見て偏見だ職業差別だと騒ぎ立てるのは、雑誌というより、実は受け手側が潜在的にそういう意識を持っているからなのでは……
ぶっちゃけ私も思ってるかんね… やってそ~って…
実際にこの「着回しDIARY[」読んでみて、思ってた以上におもしろかった。
ちなみに前月号は『土地の下見も地主との交渉も、防寒服で乗り切り勝ち取ってみせる!地面師と戦う!ディベロッパー女子の2月の着回しDIARY』だったんだけど(時流しっかり押さえとんな~)、地面師ディベロッパー女子より不倫オペ看の回の方が、私は読み物として断然おもしろかった。
主人公ナオ。26才。大阪出身の彼女は、子どもの頃に祖母が入院したことをきっかけに「自分の手で大切な人を救いたい」と思うようになる。そして現在は手術室で働く看護師、通称「オペ看」として都内の有名病院で働いている。
おもしろいのは、彼女は自分も不倫しているくせに、他人の不倫のことは軽蔑しているのだ。自分の不倫は「出逢うのが遅すぎた」せいで仕方ないけど、彼女の同期ナースと不倫しているA医師のことは「既婚者のくせに…」と苦々しく思っていて、A医師が不倫がバレたせいで出世のチャンスをふいにした際には「遊びで不倫するから悪い。自業自得でしょ。」と感じている。
つまり、自分達がやっている不倫は「本気」で、他人のは「遊び」。
ばかな女。
ばかだけど、わかる…
そうだよね、人はいつでも正しい判断だけができるわけじゃないんだよね、自分が見たいものだけが見えて、見えているものだけが真実で。そういうの、私、知ってる。かつて私にも、そんなようなことがあったから、わかる。わかっちゃうんだよ…
けれど、不倫なんてごく一部の稀な例外(野村克也・沙知代夫妻とか)を除いて大概は未来のないものだから、彼女の恋も、最悪の形で終わりがやって来る。
まさかの、不倫現場突撃YouTuber乱入。(笑
「朝まで一緒にいられるよね!?指輪渡されちゃったりしたらどうしよ~♡うふふ♡」と浮かれまくっていた(バカ過ぎる)ナオの誕生日ディナー当日。
食事を終え、バラをプレゼントされ、みふくん(不倫医師)が「まだプレゼントがあって」と言った幸せ絶頂のまさにその瞬間、みふくんの妻に依頼されたというYouTuberが「不倫してますよね!?」とカメラとマイクを向けて店に押し入ってくる。絶対高級店だったと思うんだけど、撮影許可とか、そのへん大丈夫なんだろうか。
そっから先はまー散々で、仕事は謹慎処分になるわ、夫妻との話し合いの場に行ったらなぜか親友もいるわ(みふくんの野郎、ナオの親友と二股不倫してやがった)、みふくんが教授選に出られなくなった損害と慰謝料で200万円請求されるわ、みふくんからは「これまでのことはなかったことに」と突き放されるわ、職場にも居づらくなって結局退職するわ、高額な慰謝料支払いで生活費確保できなくなるわ、みふくんと不倫してた頃にマッチングアプリで出会ってナオのことを何かと気にかけてくれてたイケメン正くんも、不審に思ってググってみたらただの投資詐欺師だったことが発覚するわ…
もはや何も信じられなくなっていたナオは、けれどネットの言葉を鵜呑みにせず、正と向き合うことを決意する。
実は正は、詐欺に誘ってきた人の言葉を信じた投資詐欺被害者だった。「俺も儲かると信じて周りからお金を預かったんだ。」「許してもらえることはない。自分が犯した罪を償うように真っ当に生き直すしかない」という正。
彼もまた、ナオ同様「やらかした」人だったのだ。
もう実家に帰ろうと考えていたナオを引き留める正。
「東京にいてくれれば、お互いまた道を外しそうになっても助け合えると思うんだけど…」
という彼の言葉に
(私、この人のこと信じていいよね…?その言葉は、そういう意味ってことで、いいですか?)
と喜ぶ恋愛体質なナオ。
正くんは私の中身を見てくれてたんだ♡、じゃねえわ!顔だわ!マッチングアプリで出会ってまだ数回しか会ってない不倫してる女の中身って何よ、という思いは若干あるものの、ハッピーエンドで良かった。
いい話だったよ。
私は、この物語が医療従事者をばかにしているとは思わない。
医療に携わるお仕事をしている人を本当にすごいなって尊敬するけれど、医療従事者イコール人格者だとも聖人君子だとも思ってはいない。
ナオは、正しくはない。けれど、悪人なわけでもない。
誰かを救いたいという思いでオペ看護師になったこと、「名医と結婚」というステータスを夢見たこと、本気の恋だと信じて不倫にのめりこんでしまったこと、不倫なんかで全部失って一体自分は何をやってたんだと苦しんだこと。それらすべてが彼女の側面で、そんな等身大の彼女だからこそ、なんだか愛しいのだ。そもそも人間って、そういう不完全なもんなんじゃないですか。手痛い失敗を繰り返して、成長していくもんじゃないですか。
あとさ…
世間が不倫夫にブチギレる前提には、当然「妻がかわいそう」があると思うのだけれど、
みふくん妻…
あんまりかわいそうに見えないんよね…
都内の有名病院に勤める医師を夫に持つセレブ妻、という立場にありながら、「不倫現場突撃YouTuber」だなんて怪しげな輩を手配する行動力とこのドヤ顔。
世の妻は、世間が心配するよりきっとずっと逞しいから、もうよそのご家庭のことは当人にまかせて、余計な口出さないで放っといたらいいと思う。
そしてどうか、編集部の方々にはこれに懲りることなく、またばかばかしい着回しDIARYを作ってほしい。
まずは5月号で、『ファッション雑誌編集部は嫉妬が渦巻くドロドロ人間関係!?エディターが主人公!ダブルスタンダード編集長と戦う新人エディターの4月着回しDIARY』とかやって、「自分らが同じ目にあったらフィクションで済ませられんのか!」と国民の総意面で騒ぐネットの声を黙らせてもらえませんか。
*
「オペ看、私は普通におもしろかったけどな」と画像と感想を妹にラインで送ると、「面白過ぎてファッションは全く入ってこない」と返ってきた。
あ、盲点。