トーキング・マイノリティ

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サッカー賭博シンジケート

2020-10-11 22:01:59 | 音楽、TV、観劇

 サッカーにはまるで疎い私だが、BS世界のドキュメンタリー「サッカー 偽代表チームの正体〜広がる賭博シンジケートの闇〜」(10月5日再放送)は実に妙味深かった。サッカー国際親善試合の舞台裏では巨額の資金が動き、賭博や八百長の噂が絶えなかったが、それを暴いたドキュメンタリー。以下は番組サイトでの紹介。

サッカーの国際親善試合のために中東のバーレーンに派遣された西アフリカのトーゴ代表が、後に偽の代表チームだったと判明。国際試合の背後でうごめく陰謀をあぶり出す。
 2010年に行われたバーレーン対トーゴのサッカー国際親善試合。自国開催のバーレーンが3-0で圧勝し、トーゴのひどいプレイだけが話題に上ったゲームだったが、後にトーゴ政府が「代表チームを派遣した記録はない」と発表したことで、スポーツ界を揺るがす大事件へと発展してゆく。当事者たちが初めて公に語る事件の真相とは?原題:Fixed-A Football Comedy(オランダ 2019年)

 番組の冒頭ではアダム・フィールズというコメディアンが登場、舞台でトーゴとバーレーンの国際親善試合の顛末を解説していた。これは完全な八百長試合だったが、八百長の仕掛人はウィルソン・ラジ・ペルマルなる人物。'65年シンガポール生まれの男で、国際親善試合の興行主だった。2009年には「フットボール4U」という会社を創業するが、この組織を通じて八百長試合を画策していた。
 ドキュメンタリーでの主役はペルマルと言ってよく、八百長試合に関わり、偽の代表チームを仕組んだトーゴのバナ・チャニル監督はペルマルに利用されたカモにも見える。

 トーゴはサッカーが盛んな国だが、貧困国ゆえにサッカー選手は貧しく、サッカーだけでは生活が成り立たない。問題となった“国際親善試合”でトーゴは2万5千ドルを得たが、それを25人で分け合っており、最も金額が多かったはずのキャプテンでも300ユーロ程度。
 対照的にペルマルは経費として6万ドル(約633万円)支払っていても、50万ユーロ(約6,248万円)ゲットしている。これでは八百長試合は止められないだろう。現にペルマルは、スマホで指示しただけで思い通りの試合結果となり、笑いが止まらないと語っている。

 ペルマルは八百長試合を組む際、貧しい選手に目をつけるそうだ。目を付けた選手に金品を渡して手なづける。金品を受け取れば交渉は成立したも同然であり、さらに2~3人の仲間が追随するそうだ。
 さらにペルマルは自分は白人よりも黒人と仕事をする方が好き、と意味深い話をしていた。白人は主義主張があって負けるのを嫌がるが、黒人は違う、と。つまり黒人は買収しやすいということだが、実際に国際機関で働く黒人にもその類は少なくないようだ。

 トーゴ代表チームメンバーは偽だったにせよ、審判はFIFA所属のホンモノだった。こちらも買収されており、ペルマルがバーレーンが3-0で勝利するように仕組んだため、審判はそれ以上得点が入らぬようにやたらホイッスルを鳴らすなど、試合を色々妨害していたという。
 バーレーン対トーゴのサッカー国際試合が八百長だったことが発覚しても、FIFAは内部調査に熱心ではなかったらしい。コメディアンのアダム・フィールズ氏は「FIFAはFIFAらしく振舞った」と述べ、顔や体を背け、「我々は知らなかった」とつぶやくジェスチャーで観客を楽しませる。欧州人のFIFAに対する見方が伺え、国際機関というだけで公明正大と思い込んでいる初心な日本人とはなんと違うことか。

 八百長の仕掛人はペルマルだけではなく、彼に資金を提供したのが同じシンガポール生まれで1歳年上のダン・タンこと本名タン・シート・エング。風貌や名前からインド系と思えるペルマルに対し、ダン・タンは明らかに中国系シンガポール人。
 ペルマルの話では彼の育った環境ではサッカー賭博は違法ではなく、大人たちはこれに興じていたという。サッカー賭博は東南アジアや中国で盛んに行われていることを、番組で私は初めて知った。サッカーに限らずプロスポーツは、違法賭博の温床になっているのか。

 タン・シート・エングで検索すると多数の記事がヒットしたが、2013.3.3付の電子版産経には2011年にフィンランドでペルマルが逮捕されたことが載っている。ダン・タンの裏切りにあったとされ、その報復として捜査機関に協力したとか。ダン・タンも同年にシンガポールで逮捕されたことを報じたニュースサイトもある。

 逮捕されたことでペルマルの名や違法賭博シンジケートの存在が広く知られるようになった。尤もサッカー通の間では八百長国際親善試合やら賭博の話は既知だったかもしれない。ペルマルは自らの体験を語った本を出版、ダン・タンを告発しているそうだ。「サッカーで八百長100回、仕掛けた人物に初のテレビインタビュー」(2014.08.27)というCNNの記事もある。
 
 ドキュメンタリーではペルマル逮捕の詳しい経緯は触れなかったが、彼はハンガリーで今も証人として保護されている。傑作なのはペルマルがエホバの証人に入信したこと。子供たちには道理をわきまえ、信心深い暮らしをしてほしいからというが、今度は宗教に目を付けたのか?と皮肉りたくなる。
 番組のインタビューでペルマルは、「私はサッカーを愛するよりもサッカーで儲けたい。愛しても食べ物が買える訳ではない」と語っていた。神を愛するのではなく宗教で儲ける暮らしを送りたいのだろうか。

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2 コメント

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Unknown (牛蒡剣)
2020-10-15 22:29:07
トーゴの偽代表の事件、とても今世紀の事件
とは思えぬ酷い話です。

かつて2002年のWCUPで韓国人某FIFA元副会長が
買収したことを自慢してましたが、サッカー界隈
は腐りまくってますね。
牛蒡剣さんへ (mugi)
2020-10-16 22:40:59
 私はこの番組で初めてトーゴ偽代表の事件を知りましたが、今世紀でもこのようなことが堂々と行われていたのには驚きました。発覚しないだけで、他にも偽代表チームが出場していたかもしれませんね。

 巨額の資金が動くため、サッカー界隈の腐敗は止まることがないでしょう。尤も最近は八百長がネットで暴かれるようになってきたとか。