現在から20日程度、前に読んだ週刊文春9月10日号の「池上彰のそこからですか!?」で、米大統領選の郵便投票についての説明から引用します。

期限に間に合った投票用紙でも、ひとつずつ開封して集計するには大変な時間がかかります。投票が終わり、投票所に出向いて投票した有権者の票を集計し終わった後でも、郵便投票分の追加に時間がかかることが予想されます。開票が始まっても何日も結果が確定しない。悪夢としか言いようのない事態に陥ったとき、トランプ大統領が、郵便投票には不正があると宣言し、郵便投票を除外し、それ以外の票の集計で自分の当選を宣言する。

民主党は、トランプ大統領が、こんな手法で再選を果たそうとしているのではないかと疑っているのです。


20日前に読んだときは、或る種、バイデン陣営の杞憂の話なのかなと思っていたんですが、よくよく考えてみると、結構、リアリティーが出て来てしまった気がする。つまり、トランプ大統領がホワイトハウスで

「誰が何と言おうが、ワシが大統領選に勝利したっ!」

と、言い出してしまった場合、どうなるのか? 幾らトランプ大統領が問題の多い大統領でも、それはやらないだろうと思うものの、TikTokを巡ってのディールなどを見ていると、ひょっとしたら、やりかねないのでは? 国際関係がどうなろうが大統領選挙の方が大事だという勢いになっている気がする。また、それをアメリカも抑えなくなっている。

実際に票の集計で大混乱が起こるのは珍しくなく、2000年のブッシュ・ジュニアVSアル・ゴアでも集計をめぐって揉めたし、2016年の大統領選挙でも選挙人の数でトランプが勝利したが得票数そのものではヒラリー・クリントンが勝っていたという接戦でもあった。また、『もう一つのアメリカ史』を視ていれば、やはり、重要な選挙で不可解な締め出し事件が起こっていて、実は、それが「アメリカの世紀」と「民族の世紀」との分岐点であったとして描かれていたんですよね。選挙で問題が発生するなんて南米大陸とかアフリカ大陸じゃあるまいしなんて感覚があるものの、結構、アメリカ大統領選って、揉めそうなんですよね…。

しかも、今回の場合は郵便投票がかかわっている。郵便投票で有利になるのはバイデン候補と思われている事、また、既に郵便投票に対して不満を募らせているトランプ大統領は「郵便投票は腐敗した選挙になる」とフェイスブックに投稿したところ、フェイスブック社から「政府の公式投票を参照のこと」と注釈をつけられたという騒動が既に7月に起こっており、ずーっと揉め続けている。更に、ここに来て、新たに最高判事選びの問題が浮上し、保守派判事のエイミー・バレッド判事を指名した。これによって、最早、「郵便投票は無効!」と持ち込める体制となり、予てから指摘されていたように、大統領選が終わってもアメリカの混乱は終わらず、分断は更に進行するという観測が現実味を帯びてきている。バイデンに代わっても基本的に分断や混乱については同じかも知れませんが、いよいよ収拾不能の度合いが強まってきているような。

現在、当ブログではハンコは重要な自己同一性を証明するアイテムであるという話をしていますが、それとも関係しているのかな。確かに、トランプ大統領の言うように郵便投票って不正が紛れ込む可能性ってないですかね? 有り得るかな。或る意味ではトランプが郵便投票を懸念しているのも分かる。で、結局は、その本人による投票なのかどうか、その承認・照合の問題がある。池上解説に拠れば、投票用紙は郵送されてくるらしく、事前に有権者登録をしたサインと照合されるのだという。結局、肉筆のサインで本人かどうかを照合するというプロセスは省きようがない訳ですよね。

ホントに郵便投票で本人確認に不正が割り込む余地はないんだろか。人間、勝ちたいという心理が頂点に達すると、ズルをしてでも勝利したいと考えるものかも知れませんやね。誰かが強大にして具体的な目的意識を持ったときに、その「ズルをしてでも勝とう」という心理が沸き起こって具現化する。ベラルーシの大統領選とか、実際、こういう状況になってきている訳だし。

まぁ、ワシントンポストあたりの支持率調査でも、既にバイデンをトランプが追い抜いたというから、ズルをするまでもなく、トランプが勝利する公算が高くなってきていますが、その「力の根源」とか「正当性の証明」という問題にまで深く関わる大きな問題になってきていると思う。

更に、週刊文春10月11日号の「池上彰のそこからですか!?」では、パレスチナ問題が解説されている。UAEとバーレーンが、イスラエルと国交を結んだ――と。これ、ホントは大ニュースですやね。これが何を意味しているのかというと、アラブ諸国はイスラエル建国以降、そのイスラエルによってパレスチナのアラブ人を追い出すのはおかしいとして、反イスラエルで戦ってきたという歴史がある。イスラエルの建国は、実は1948年でしかない。元はといえば、「アラビア人のアラビアだ」というのはまさしく「アラブの大義」であった。長い間、アラブ諸国はパレスチナを支援してきた訳ですが、遂にUAEとバーレーンがイスラエルと国交を結んだ――と。シオニズム(ユダヤ人によるユダヤ国家主義)が勝利しそうだという事でもある。

では、何故、UAEとバーレーンはイスラエルと結んだのか?

池上解説では、それはディールによるという。UAEもバーレーンも、反イラン感情があるのでトランプ政権の書いた図に乗って来る土台はあったといえるが、このうち、UAEに対しては「F35ステルス戦闘機を売却する」というエサによるものであるという。動いたのは、やはりユダヤ人の娘婿のジャレッド・クシュナー氏だというから、やはり、シオニズムが関与していると疑われても仕方がないでしょう。

経緯を知っている者からすれば、ここで起こった事は「パレスチナの切り捨て」なのですが、見ようによっては、トランプ政権が中東和平に貢献したと語る事もできる。つまり、道理のようなものは無関係で、兎に角、力のある者が、その力で現実世界を動かしているだけって事ですね。

しかも厄介だったりする。池上解説を引用して終わりますが――

福音派は『聖書』に書かれていることは全て真実だと信じる人たち。かつてイエス・キリストが昇天したエルサレムをユダヤ人が確保していてこそ、やがてイエスが再臨すると信じているのです。そのためにはイスラエルの安全確保が一番です。

だって。

しかし、このシオニズムは不気味なんですよねぇ。ちょっとオウム真理教にも似たものを感じるというか…。だって、わざわざハルマゲドン幻想、人類に破局的な状況が訪れないとイエスの再臨は起こらない、マイトレイヤー(弥勒菩薩)伝承と同源なのだけれども、そういう状況へ現実世界を寄せていくかのような動きだしねぇ…。

習近平政権の覇権主義にも触れないとバランスが悪くなってしまいますが、日本では習近平政権の覇権主義についてはテレビや新聞でも充分に流れていますが、トランプ政権のそれとかシオニズムについては、おそらく報道自粛か何かしていますな。