非国民通信

ノーモア・コイズミ

政界の与党と労組の与党

2021-10-17 21:51:24 | 政治・国際

 さて先月末には政界の与党である自民党の新総裁が誕生したわけですが、今月の初めには労組の世界の与党である連合でも新会長が選ばれました。自民党総裁選の場合、多少なりとも主張の異なる候補者が政策を訴え、比重は低いながらも党員の投票まで行われたのは周知の通りです。一方で連合会長は、候補者が政策を競うこともなければ組合員に投票させることもなく代表者が決められるものだったりします。

 まぁ(連合からはじき出されている少数派組合は知りませんが)労組の世界は基本的に無謬説で成り立っており、トップの政策は無条件で正しく議論の余地などないことになっています。ゆえに組織内の選挙で争う必要も投票で当落を決める必要もありません。そして参加の労組は「上」の労組が決めた指令に粛々と従っていれば正しい道を歩める、と。

 こう書くと労組が悪者のように見えますが、普通の民間企業も同じです。会社の代表取締役を選ぶのに複数候補者が経営方針を競い合って、それで従業員からも票を募って当落を決めたりはしません。会社も労組も上に立つ人間を決める方法は同じ、誰がトップになるかは偉い人の間で決め、上長が決めたことに部下は従うことが求められる、そういうものです。

 ただ労組のあり方として、企業に近い方が良いのか政党に近い方が良いのか、という議論はあってもおかしくない気がします。事実上の総理大臣を決める自民党総裁選の行方が日本国内の居住者の命運を左右するように、労組の世界の長が誰になるかも労働者にとって決して無関係ではありません。連合が、せめて自民党くらいに民主的な形で会長を決めるような組織であってくれたらな、と思うところです。

 

連合新会長の芳野氏 「共産の閣外協力あり得ない」 立憲に不快感(毎日新聞)

 新たに就任した連合の芳野友子会長は7日、東京都内で記者会見し、立憲民主、共産両党が政権交代時に共産による「限定的な閣外からの協力」で合意したことに対し、「連合はこれまでも共産の閣外協力はあり得ないと主張している」と述べ、共産と協力する立憲に不快感を示した。連合は労働運動を巡り、歴史的に共産と対立しており、立憲は次期衆院選に向けて最大の支持団体との連携に不安を抱えることになる。

 芳野氏は連合が推薦する立憲の候補予定者の活動について、「現場では選対にも共産党(関係者)が入り込んで、立憲、共産両党の合意をたてに、さらなる共産党政策をねじ込もうとする動きがある。立憲には混乱がないよう選対をしっかりコントロールしてほしい」とも指摘。今後、立憲の枝野幸男代表と初めて面会した際に直接申し入れる考えも示した。

 

 ともあれ新たに就任した連合会長ですが、主張に関しては従来の連合の路線を堅持するであろうことが窺われます。昔から政治に疎い人ほど、共産党が民主党に選挙協力すれば自民党に勝てる!みたいな妄想を抱きがちだったわけですが、そもそも連合とは労使協調の邪魔になる共産党系の労組を排除する形で結成されたものであり、これを支持母体とする民主党系諸派と共産党との連携が一筋縄でいかないことくらいは理解しておくべきでしょう。

 ただ民進党時代までは旧民主系勢力も反共が基調であったものの、それが合流を目指した小池百合子グループに拒絶されたあたりで潮目が変わったところはあると言えます。小池百合子が作った「希望の党」に合流し政策的に距離の近い支持層の獲得を目論んだ民進党議員の多くが排除され行き場を失う中、共産党から票を受け取ることに否定的ではない枝野一派が巻き返しを図り、政策はさておき選挙戦略には大きな変化が生まれたわけです。

 立憲民主党にとって、共産党に道を譲らせるメリットと、民主支持層の中にも少なくない反共主義者や支持母体である連合との間に溝が出来るデメリット、どちらが大きいかは一概に言えないところです。一方の共産党からすれば、専ら民主のために候補を取り下げるばかりであって、これを続けていけばいずれは社民党と同様に滅びへの道を進むほかないことは明白でしょう。

 もっとも共産党からすれば、自分たちは社民党とは違う、社民党のようにはならない、社民党と違って賢く立ち回れると、そんな驕りもあるのかも知れません。まぁ、社民党よりもアンチが多い分だけ存在感は残せるような気はします。あるいは外敵の存在が内部の結束を高めるようなもので、「自民憎し」のあまり党の利益よりも自民党の不利益を追及した結果の可能性も考えられます。

 ただもう一つの可能性として、自民党だけではなく連合もまた共産党のターゲットなのかも知れません。今までは無条件に近かった民主系勢力と連合の支援関係が共産党の侵入によって崩されるのなら、それは一定の意義があるように思います。そもそも共産党が対立してきたのは自民党だけではなく労使協調路線の連合でもあるわけで、ここに揺さぶりをかけるのは党の戦略として正しいですから。

 民主党政権が終わって第二次安倍内閣が始まると、政府による春闘への口出しが始まりました。結果は胸を張れるほどではないながら、前政権時代よりも少しだけ多めに賃金が上がるようになったわけです。これに対する連合のコメントとしては「政権への親和性が強い企業の動きだ」「労働条件の改善は労使自治で決めるのが基本だ」云々が伝えられています。

 民主党政権の経済政策は、政府による介入の少ない──つまりは市場原理主義的なものでした。こうなった理由の一つとして、支持母体である連合への配慮もあったのではないでしょうか。「労使自治」による決定を連合が求めている以上、民主党政権は(安倍政権のような)介入は行わないのが基本姿勢になる、政府として賃上げは求めず、あくまで連合の「自治」に任せる形となったわけです。

 こうした連合との間に距離が出来るのであれば、それは民主党の政策面にも良い影響を与えることでしょう。政治の世界は自民一強と言われながらも稀に与党が変わることもありますし、自民党支配の中でも路線の異なる政治家が台頭することもあります。一方で労組の世界には政権交代も路線変更もありません。しかし共産党がくさびとなって労組の世界を揺るがすならば、それは停滞する現状を変える要素になるのではないでしょうかね。

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