ゆめゆめご用心 夢野ワールド

 

 

『人間腸詰―夢野久作怪奇幻想傑作選』を読む。

 

著者の代表作『ドグラ・マグラ』は、中途で頓挫した。そろそろ読んでもいい頃かな。
で、まずは短編集で肩慣らし。この本は、『人間腸詰(そおせえじ)』という、すごい題名につられて読んだ。


「人間バーベキュー」、これは近田春夫率いるビブラストーンの楽曲だけど。

何篇か、あらすじや感じたことなどを。

 

『人間腸詰(そおせえじ)』
大工のハル吉は、聖路易博覧会の仲間と渡米する。箱根細工をこさえたその腕前は高く評価され、大金持ちの屋敷に招待され、事を依頼される。金に糸目はつけないと。なにか胡散臭い。依頼を断る。その部屋に、巨大な挽き肉機が現われる。あわや、ミンチにされそうになる。でも、ミンチにされたのは、台湾館の別嬪さん、フイ嬢だった。最後がお約束通りグロい。

饒舌なハル吉のモノローグ、その口調が「アッシ」「~でげしょう」とかで、つい真似したくなる。

 

『空を飛ぶパラソル』
福岡時報の新聞記者である「私」。偶然、汽車に飛び込む女性を目撃する。女性が惹かれた瞬間、手にしていた空のパラソルが宙に舞う。不謹慎ながらも、特ダネだと思い、警察に通報する前に女性の轢死体から所持品検査をして身元を探る。そのことがバレ、
知り合いの警部から嫌味を言われる。飛び込んだ女性のいきさつ。失踪した夫から記者宛てへの手紙。自分の記事で不幸になった人がいる。苦い読後感。

 

『一足お先に』
肉腫ができ右足を切断した「私」。夢遊病になって深夜病院を徘徊、その最中に入院していた美しい歌原男爵の未亡人を殺害していた。夢遊病という割には、周到に殺人の準備がされていた。そう話す柳井副院長。腑に落ちない私。副院長の催眠術にかかっての仕業だと気がつく。青ざめる副院長。猟奇的な殺人と病院の描写が薄気味悪くゾクゾクさせる。狂っているのは私か、副院長なのか。


『冗談に殺す』
新聞記者の私は、車を拾って帰宅しようとしていた。一台のフォードが止まった。運転者はお代は不要と。不審に思ったが、ネタになるかもしれない。運転手が帽子とマスクをとると、何と捜索願いが出ている女優だった。一応面識はあったが、彼女と暮し始める。すると…。男を翻弄する、文字通り猟奇的な彼女

 

『押絵の奇跡』
当代きっての美貌のピアニスト井ノ口トシ子。演奏会で倒れる。不治の病に罹り、先が長くないことを知った彼女は一度も会ったことのない兄に自身の秘密を手紙に認める。書簡体小説というらしいが、これがまたうまい。

彼女の母親は福岡の由緒ある武家の出。一人娘ゆえ婿養子を取る。それがトシ子の父親。町一番の美女であるといわれた母親は手先が器用で自作の押絵が玄人はだし。ある日、母親の不義を知った父親は糾弾する。否定も肯定もしない母親の態度に怒りの余り…。見事なまでにもの哀しい幻想小説

 

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