味わったことのない液体が持つ殺人的な辛さというか刺激というか……。
頭の奥へと直接響く衝撃に吐き出したい衝動に駆られるが、今までに叩き込まれた巫女としての振る舞いがそれを許さず、目を白黒させて口を閉じたまま唸るような声を出し、男に訴える。
意図するところがわからぬわけではないだろうに、男は飄々と言ってのけた。悪戯っ子のような笑みを口許に穿いて。
「旨い酒だろ?孔雀ってんだ。」
その言葉から、酒に関する知識(飲んだのはこれが初めてだった)と共にこの男に対する若干の殺意を引っ張り出す。
涙目になりながらなんとか飲み込んで、恨めしげに睨みつけた。
「まぁそう睨むなって。俺と同じ名前の酒なんだからよ」
「同じ、名前……?」
まだ舌がひりひりしている。呂律が回っているのか、自分でも少し怪しく思う。
「いや、ちと違うな。紅雀」
同じ響きの名前なのに、そこにある決定的な違いを耳でなく心で理解する。
決して呼んではならない名前。
サラのように自分よりも強い者に名を呼ばれた悪魔は絶対的な力で支配される。
では、逆に力無い者がより強い者の名を呼ぶとどうなるのか。
何も知らずに名を呼び命を落とす輩も少なくないのだが、その事実をサラは知らない。
ただ、本能が危険信号を発したか、サラの星読の力が働いたかどちらかだ。
(続)