デ・キリコ展 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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今年2024年大本命の展覧会“デ・キリコ展”が、

先月27日に東京都美術館にて、ついに開幕しました!

 

(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)

 

 

「謎以外の何を愛せようか」。

そんな厨二病の心をくすぐる言葉を残し、

自ら発明した形而上絵画で、20代にして美術界に鮮烈なデビュー、

マグリットやダリ、ウォーホルなどに大きな影響を与えたイタリアの画家。

それが、ジョルジョ・デ・キリコ。

 

《17世紀の衣装をまとった公園での自画像》の前でポーズを取るジョルジョ・デ・キリコ 

1968年 自宅のサロンにて Photo: Walter Mori(提供:ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団)

 

 

その日本では10年ぶりとなる展覧会、

規模としては、国内における過去最大級の回顧展です。

見どころは何と言っても、デ・キリコの代名詞というべき、形而上絵画。

彼はその長い画業の中で、若き日の作品を、

自らコピーするということを繰り返し行っているため、

形而上絵画の作品自体は、数多く存在しているのですが。

美術界に大きな影響を与えた1910年代当時の形而上絵画は、それほど存在していません。

本展では、そんな貴重な1910年代の形而上絵画が、世界各国の美術館から大集結!

 

《予言者》 1914-15年 油彩・カンヴァス ニューヨーク近代美術館(James Thrall Soby Bequest)

© Digital image, The Museum of Modern Art, New York / Scala, Firenze

© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

 

《形而上的なミューズたち》 1918年 油彩・カンヴァス

カステッロ・ディ・リヴォリ現代美術館(フランチェスコ・フェデリコ・チェッルーティ美術財団より長期貸与)

© Castello di Rivoli Museo d'Arte Contemporanea, Rivoli-Turin, long-term loan from Fondazione Cerruti

© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

 

 

これほどの規模で集まるのは、

最初で最後の機会かもしれません!

 

ところで、「形而上絵画」とは何なのでしょう。

調べてみると、「日常の奥に潜む非日常を表した絵画」や、

「論理や常識では把握できない、夢に登場するような世界を絵画化したもの」、

あるいは、「時間と空間の倒錯や事物の不動性を幻想的に描いた絵画」などなど、

本やサイトによって、いろんな説明が出てきて、イマイチよくわかりません。

いろんな文献を読んだうえで、

あえて乱暴に、僕なりに一言でまとめると、

「形而上絵画とは、無意味を作り出した絵」でしょうか。

遠近法を狂わせてみたり、影で不穏さを演出してみたり、

身近なモチーフをおかしなところに配置させたり、組み合わせてみたり。

とにかく無意味を徹底させることで、謎めいた世界を作り出そうとしたのです。

なので、デ・キリコの形而上絵画を観て、

“これは何の意味があるんだ?”と頭を悩ませるのはナンセンス。

絵を観て、頭に?マークが浮かぶその体験自体を楽しめばいいのです。

 

 

さてさて、その形而上絵画を武器に、20代の若さで、

美術界で一躍スターダムに上り詰めたデ・キリコですが、

30代の時に、ルネサンスの巨匠ティツィアーノの絵を観て、大きな衝撃を受けます。

そして、それまでの作風とは一転して、古典的な絵画を描くようになりました。

本展では、その時代の作品ももちろん紹介されています。

 

 

 

それらの中には、あきらかにティツィアーノの影響、

くわえて、ルーベンスらバロックの巨匠の影響を受けている作品も。

 

《風景の中で水浴する女たちと赤い布》 1945年 油彩・カンヴァス ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団

© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

 

 

形而上絵画のイメージが強い方にとっては、

コレジャナイ感があるでしょうが、これもデ・キリコの作品なのです。

なお、これほどまでに作風が180度変化したことは、

当時の美術界では、一大センセーショナルだったそう。

特に彼のフォロワーたちのショックは大きく、

あまりのキャラ変ぶりに、デ・キリコには批判が殺到したとか。

 

 

ちなみに。

形而上絵画から古典的絵画へとシフトしたデ・キリコですが、

晩年になると再び、形而上絵画の作風へとカムバックを果たします。

 

《燃えつきた太陽のある形而上的室内》 1971年 油彩・カンヴァス ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団

© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

 

《オデュッセウスの帰還》 1968年 油彩・カンヴァス ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団

© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

 

 

といっても、初期の頃のような不穏さは、そこまでなく。

色合いがポップになったため、

どこか軽やかさやユーモアも感じられます。

これは、同時代に流行したポップ・アートの影響もあると考えられているそう。

生涯を通して、これほどまでに、

いろんな人の影響を受け続けた画家は、

デ・キリコくらいなものではないでしょうか。

 

 

というわけで、人物としても非常に面白い上に、

世界中からその名品の数々が集まっているこの展覧会。

それだけでも、3ツ星は確定ですが、

さらに素晴らしかったのが、その会場でした。

 

 

 

まるでデ・キリコの絵画の世界に、

入り込んでしまったかのような感覚を味わえました!

まさに、デ・キリコーランド。

もともと期待値は高かったですが、

その期待をさらに軽く上回ってくる展覧会でした。

星星星

 

 

最後に。

デ・キリコの絵画ももちろん深く印象に残っていますが、

個人的にそれ以上に残っているのが、彼の手掛けた舞台衣装です。

 

 

 

こう言ってしまっては、身も蓋もないですが。

どれも絶妙なダサさ。

形而上的なダサさです。

 

 

 

着させられているマネキンが、

心なしか、所在なさげに見えました。

 

 

 ┃会期:2024年4月27日(土)~8月29日(日)

 ┃会場:東京都美術館
 ┃https://dechirico.exhibit.jp/

 

 

 

 

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