『グランド・オダリスク』 

アングルの代表作の前にいた。

オダリスクとはトルコの後宮に仕える女性のこと。

このオダリスクは、背中が実際よりも長く描かれていることで有名だ。

たぶんこの人、座高が高いな。


そのオダリスクの前にフランス人の画家が陣取っている。

彼はアングルのオダリスクを正確に模写する。

それは驚くべき精度で、絵が出来上がっていく過程が見れる分、本物のアングルの作品以上に興味深くも思えた。

(こうやって描かれるんだ~・・・)



ルーヴル館内の各所で作品を模写する姿が見られる。

ルーヴル美術館は、『モナリザ』や『ミロのヴィーナス』など世界的に有名な作品を抱え、誰もが楽しめる美術館だが、それ以上に学びの場という印象が強い。


ルーベンスの大作が並べられる「ルーベンスのホール」では、たくさんの若者が床に座り絵を描く。

(日本人らしき人もいた。)

館内では日本で言う小学生くらいの団体が、引率者に連れられて館内を歩く姿も見られる。

ルーヴル美術館は、18歳未満の人、美術関係の教員、失業者などは無料で入場できるとのこと。

さらに、フランス国内の美術大学生には無料パスが発行されるらしい。

パリの街が美しい景観を保っている理由の1つに、この美術館が市民に与えている影響があるのは間違いなさそうだ。


また、ルーヴルが「学びの場」として素晴らしいと思ったのには、もうひとつ理由がある。

作品が時代や土地ごとの各部門に分けて展示されている点である。

単にそれぞれの作品を楽しむというだけではなく、1つの美術館の中で時代や土地ごとの比較もすることができる。

何度も通いたくなってしまうような美術館だ。




ルーヴル美術館は一日で観ることができないとは、よく言われることだ。

展示作品は約3万点、所蔵作品は約35万点あるらしい。

3万点という数だけでも多いのに、そのすべてが展示テーマに沿って選ばれた厳選された作品。

もちろん、所蔵作品の35万点だって基本的には選び抜かれたものだから、展示作品はベスト・オブ・ベスト!?

ジャンルごとに分けられた観やすさ、飽きさせないバラエティに富んだ作品群、クオリティの高さ、半日程度で回るのはもったいない。


しかし、パリにいられる時間は限られている。

限られたエリアをじっくりと見るのもいいが、一番避けたいのは、日本に帰ってから観たかった作品を観忘れたと後悔すること。

全部回るしかない!!


しかし、ルーブルは本当に広いのだ。

どれくらい広いかと言うと・・・



ルーヴル1階



ルーヴル美術館、館内案内図の4分の1(1階部分)


この画像をクリック、拡大すると青い色の「古代ギリシャ美術」、「古代エトルリア・ローマ美術部」のエリアに閉鎖中と書かれた部分がある。

この部分はこの時改装工事中。


展示されていた作品はどこにあったかと言うと・・・

『ルーヴル美術館展-古代ギリシア芸術・神々の遺産-』

東京藝術大学大学美術館、もしくは京都市美術館である。

普段展示されていない所蔵作品からも展示されたのかもしれないけど、これがだいたいの目安になる。

日本の普通の美術館が何個入ってしまうんだろうという大きさだ。

自然と早足で回るようになった。



有名な作品の前では、それぞれそれなりに感動。

「本物だ!!」(笑)

特に、階段の踊り場に一点だけ展示されている、『サモトラケのニケ』(顔と両手がなく、翼を広げた女神像です)は圧倒的な存在感を放っていた。

何度も写真で見ていたその空間は、ほぼ想像通り。


しかし、そこはすでに鑑賞スペースと言うよりも観光名所。

日本人のおばちゃん達はニケの前に集合して記念撮影だ。

(なんか、トレヴィの泉を思い出すな~)



ルーヴルの中で一番じっくり観たのは宝飾品が展示されている「アポロン・ギャラリー」という部屋。

ここには『ルイ15世の王冠』や『マリー・アントワネットのダイヤモンド』が展示されているということなのだが、そんな予備知識は持ってなかった。

とにかく、「どれも綺麗だなー!」と観ていた。


(今度、ルーヴル美術館に行くときはしっかり予習していこう!)


とにかく、盛りだくさんのルーヴル美術館。

しかし、何かが足りない。

それは・・・

印象派などの近代画!

近代画はセーヌ川を挟んだ対岸の「オルセー美術館」にある。

美術館だけで一日終わってしまいそうだが、「行くしかない!」・・・でしょー!!



・・・でしょ??



つづく・・・



『モナリザ』をはじめて見た印象は・・・


「小さい!!」


この絵は77cm×53cmとのこと。

1000円くらいで売ってる、普通のポスターよりちょっと小さいくらいだろうか。

肖像画としてはなかなか立派なものだと思う。


しかし、その絵をなぜ小さいと感じたか・・・

それは、『モナリザ』と向かい合わせにして展示されている絵のせいだ。

ヴェロネーゼの『カナの婚宴』。

ルーヴル美術館で一番大きな絵画が『モナリザ』と向かい合っていた。

2つの絵画の大きさを比べたら、ウサギと象くらいの違いがあるのではないかと思える。


さらに、『モナリザ』のいる部屋に辿りつくまでに通ってきた道は、フランス絵画の大作のコーナー。

有名な、ダヴィッド作『ナポレオン1世の戴冠式』や、ジェリコーの『メデュース号の筏』などもそこにある。

大作だらけのエリアでぽつりと現れたので、物足りなさを感じたのだ。



しかし、そんな圧倒的な体格差をものともせず、『モナリザ』は数多くの人々の視線を一手に引き受けていた。


世界中のスーパースターの彼女には、マネージャーも付っきりだ。


「写真は撮らないでください!」

「これ以上は入らないでください!」


さて、この絵がこれほどまでに人を惹きつけるのはなぜだろう?

以前から思っていたのは、既に彼女はその世界中への圧倒的な露出度で、複雑な絵画でありながらもミッキーマウス並みの誰もが認知する「キャラクター」としての立場を築いているということ。

アンディー・ウォーホルがしたように、この絵をモチーフとした作品は非常に多い。

モデルが不明といわれる絵画をモチーフにするということは、絵画自体が独立した立場を確立しているわけである。

ただ、このことについても映画の影響などにしても、世間一般への認知がされた後の話だ。



画期的な技法を用いたからか?

既存の概念にとらわれない構図だったからか?

謎めいた背景のせいか?

単にダヴィンチの作品だからか?


『モナリザ』がスターの階段を駆け上がっていったのには色々な理由が考えられる。

おそらく、そのすべても絡み合ってのこと、『モナリザ』にはもともとスターになるべく素養があったに違いない。


しかし、実際に初めて『モナリザ』と対面して、一番印象深かったのは「目」だった。

『モナリザ』は八方睨みだ。

いろんな角度から観てみたが、どの位置からでも目が合った。

さらに、その場ではたくさんの人が『モナリザ』を観ているのに、一対一で対話しているような気分になる。


その、穏やかだけど涼しげな眼差しは、こちらの胸の奥まで見透かしているようだ。

これは、人物自体が、例の「スフマート」という技法によって輪郭線などの線を失くすことによって人間らしさを増した結果なのかもしれない。

だが、いくら人物をリアルに描写しても、その人物が抱いている感情というのは経験した者しか描けないと思う。


自分を含めた21世紀の文明人までも諭すような目。

科学や数学にも通じ、人体解剖までも行なったという天才だからこそ描ける目ではないだろうか。

目を持つ人物の正体は誰だかわからないけれど、その目はダ・ヴィンチの心の目であると感じる。


知識のないシロウト考えでは、真実にはなかなか辿りつけないのだが、自分なりにモナリザからの時空を超えたメッセージを感じた。


並外れた知識を得たものの自信と孤独・・・



「ここまで来れるものなら来てみろ」と。





つづく・・・


オペラ座(オペラ・ガルニエ)の近くのアメリカン・エキスプレスでトラベラーズチェックを交換した。

そこからルーヴル美術館までは一本道。

パリにはそれぞれのランドマークを結ぶ大きな道が多い。

それは実は、ナポレオン3世が、どこで革命が起こってもすぐに軍隊が到着できるように区画整理した為らしい。

オペラ座からのその通りも大きな通りで、寄り道したくなるような誘惑がいっぱいだ。

しかし、時間は限られているので早足で美術館に向かった。



通りの突き当たりに長い建物がある。

その建物をくぐると、ルーヴルの内側に出たようだ。

くぐった建物はルーヴル美術館「リシュリュー翼」。

美術館の象徴であるガラスのピラミッドもすぐ目の前だ。


大きく拓けたその場所は、思ったよりも人が少なかった。

やっぱり、朝一で駆けつけてよかったなーと思いながら、入り口のピラミッドから地下へ続くエスカレーターに乗る。

しかし、エスカレーターが進んで視界が開けてくるにつれ、多くの人がそこにいることに気付かされた。

地下空間は、まるで駅のプラットホームのような雑踏だ!

そこには、今いる場所がどこの国なのかわからないくらいの多くの民族が入り混じっているようだった。

もっと混んできたらまずい!と思って急いでコートをクロークに預け、日本語ガイドを取ってドゥノン翼へ。


   
ルーブル美術館

☆ルーヴル美術館の日本語ガイド(クリックすると大きくなると思います。)


ルーヴル美術館は3つの大きなエリア(3翼)に分かれている。
四角くつながってるのが、シュリー翼、セーヌ川側(画像下)に伸びているのがドゥノン翼、ドゥノン翼と平行して伸びているのがリシュリュー翼。

それぞれに、半地階、1階、2階、3階があるが、ドゥノン翼の3階はなく、リシュリュー翼の1階は半分くらい半地階からの吹き抜けだ。

中央のピラミッドの地下のナポレオン・ホールからは、シュリー翼、リシュリュー翼、ドゥノン翼の半地階に向けて、それぞれ上りエスカレーターで入れるようになっている。



まず、ドゥノン翼に向かったのは、おそらく一番人気であろう、『モナリザ』を観る為だ。

一番人が集まりそうな『モナリザ』は、朝一の比較的人が少ない時間に観ておいた方がいいと考えたからである。

ドゥノン翼に入ると、『モナリザ』が手招きする。

ところどころでモナリザの絵が描かれた張り紙が誘導するのだ。


途中、ドラクロワの『民衆をひきいる自由の女神』なども目に入ってきたが、とりあえず無視。

歴史の教科書に載っていたこの絵の前で立ち止まらないなんて、なんてすごい美術館なんだ!変な感心をするのであった。


そしていよいよ『モナリザ』のいる部屋へ。

ウフィッツィ美術館の『受胎告知』、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の『最後の晩餐』など・・・

この旅は「レオナルド・ダ・ヴィンチ」の作品を見る旅でもあった。

『モナリザ』との対面は旅のクライマックスとも言える。

その瞬間が、ついにやってきた!



・・・つづく