藍を継ぐ海 伊与原新 (直木賞受賞 短編集) | [ridiaの書評]こんな本を読んだ。[読書感想文]

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初読み作家さん。

『星隕つ駅逓』と『藍を継ぐ海』が好み。

ひとつ目の『夢化けの島』が合わなくて読むのがしんどかった。

『祈りの破片』の登場人物が原爆資料を広い集めたのは広島平和記念資料館初代館長のエピソードを下敷きにしてあるらしい。

 

 

 

 

『夢化けの島』

地質学者の主人公が謎の男(三浦光平)に出会い、彼の求める幻の萩焼の窯の痕跡を探し出すまでの物語。

主人公は初対面から光平に惹かれる。

そのロックオンぶりが非モテ隠キャそのもので読んでいてぞわぞわした。

岩と粘土、島と陶器。

祖父や父のエピソード、古い時代の名工との類似性。

光平が魅力的であればあるほど、主人公歩美との乖離を感じる。

光平が見ているのは萩焼の破片にうつるいつか自らで拵えるだろう一椀だ。

水商売のおねえさんのヒモをしながら飲んで打ってだらだらと泥のような生活をしていた過去を脱し、今は捏ねられる粘土のようにもがいている。

これから焼きかため、磨き、人のために手から手へ、使われて愛される陶器の器のようになっていくのだろう。

しかし、その隣で、歩美はふたりの関係をゆっくり時間をかけて(萩焼の七化けみたいに)味わい深いものにしていきたいと思っている。

道案内の礼に焼き物をあげようとしただけで、歩美に恋愛感情的なものはまったく見せていないのに。

自分がやりたいだけの研究だけではなく科研費が出るような別のアプローチも考えてみたら?という助言を無視、やりたくない社交を避けているうちに頼れる先輩同輩後輩がいなくなった、歩美。

研究に対する思いを器によせて確認できたのはいいけれども、他者に伝えるのも研究者としては必須だと思う。趣味じゃないんだからさ。

仕事も恋愛も自己完結型すぎて気持ち悪いなと思った。

 

 

 

 

『狼犬ダイアリー』

オオカミが出た!

絶滅されたと言われるオオカミを見た少年、オオカミの遠吠えを聞いた(気がする)“まひろ”

小さな村でオオカミの噂が駆け巡る。

都会でうまくやれずに負け犬のように逃げてきたけれど、田舎でも孤高の狼のように雄々しく生きられない。

けれど半分オオカミ半分犬の狼犬(狼混)のように生きていけたらいいな、と、まひろは思ったのだった。

貯金が尽きる前に仕事が舞い込むといいね。

 

 

 

 

『祈りの破片』

廃屋となった古い空き家に侵入者がいるという。

青白く光っていたともいう。

増え続ける空き家の処遇に頭を悩ます地方公務員の主人公はうんざりしながらも足を運ぶ。

中にはガラクタが山と積まれていた。しかし、よくよく調べてみると…

淡々とした記録に符合する日記。

長崎で原爆に直面した学者と神父の祈りを、いつしか主人公も受け継いでいた。

 

 

 

 

『星隕つ駅逓』

北海道、遠軽。

過疎のすすむ町で代々郵便を生業にする家族がいた。

雪深く過酷な大地で、手紙や物資や旅人をひととき留め、次に繋ぐのが駅逓だった。

隕石にまつわるひとつの嘘。

おおごとになる前に解決してよかった。

 

 

 

『藍を継ぐ海』

アカウミガメが産卵する姫ヶ浦で祖父と暮らす沙月。

こっそりとカメの卵を盗み、隠れて孵化させようとした。

東京に行ったまま音信不通の姉、東京で横死した母。

さびれていく故郷を出ていきたいのか、留まりたいのか。

カナダから来たティムのトーテムポールの話がいい。

 

 






 


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