【洗い指定以外の工程に伴う保証について】

復元洗い等、洗い指定以外の工程を含む処理についてはクリーニングの保証対象外となります。
生地が耐え切れず溶けてしまったり、直せないほど変形してしまう等、
想定外の不具合が出てしまった場合は代金は頂かずご返品にはさせて頂いていますが、
弁償等の保証は一切できません。 それぞれ詳しく説明させて頂きますのでご了承願います。

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ペタペタに溶けだした襟の修復~他店で修復した襟の溶けだし~

まずはお客様から送られてきたダウンの襟のペタ付きの状態の写真です。
ペタペタに溶けだした襟の修復~他店で修復した襟の溶けだし~

お電話でペタ付きと聞き、素材の経時劣化の説明をさせて頂きましたが、どうにもお客様のおっしゃっている状態は通常の経時劣化の状態とは異なるようなので、よかったら現物を拝見させてくださいとお送り頂きました。

現物を見て初めてお客様のおっしゃていた事が理解できました。

依頼先のお店(クリーニング店ではないお店)が、襟の汚れを落とさないまま塗料をべったりと塗り、黒ずみを隠蔽(いんぺい)したためにこのような何とも言えないひどい状態になっていたのです

これは絶対にやってはいけない事です!

という事で・・・
今回の補修内容
・他店でべったりと塗られ溶け出した(加水分解)塗料剥がし
・溶け出して生地に染み込んだ塗料をできるだけ除去
・塗料の下に残っていると思われる皮脂汚れをできるだけ除去
・繊維の目の中に入り込み取れきれない塗料と、貼りついて剥がしきれない塗料のベタつきを止めるためのコーティング
・フードを解体し生地を取り、襟部分に取り付け

今回の修復代金 15000円(税込み16500円)

※ 基本的に、他店で色入れなどされたものは革でも生地でも除去してのやり直しはお受けしていません。



まずは仕上がり後に頂いたお客様のLINEをそのままご紹介します。

 神奈川県  M.M様より
本日の午前中に、無事届きました。
丁寧かつ清潔感あふれる梱包、修理部分も嘘みたいにキレイに補修されてて、ペタつきどころか他の生地と同じ触り心地です。
前回とは雲泥の差です。
兄も(写真ですが)上出来と満足してました。

本当にありがとうございました。

○○○○○○○○さんですが、メールでのやりとりが、2018年2月3日あたりから前後数日に数回やり取りしただけです。
文面は以前述べた通りです。

兄いわく、届いた時には既にペタペタしてとても着れる状態ではなかったと言っています。(実際一度も着ず数年間放置)
見てくれも恥ずかしくて、、とも言ってました。

そちらに送った時の状態とほぼほぼ変わらないと思って頂いても良いかもです。

色々と勉強になりました。
ありがとうございました。



クリーニング店ではないお店がやったことなので、おそらくやってはいけない事を理解していないのでしょう。

当初のお客様の依頼内容は、「襟の黒ずみを取りたい」でした。

着用中の汚れだけだったとしたら、クリーニング+シミ抜きで綺麗にできたはずです。

ただ、このブルゾンの場合だと、皮脂汚れを落とすにしてもそれなりに知識と技量のあるお店へ依頼しないと落とせないんです。

その理由は・・・

ペタペタに溶けだした襟の修復~他店で修復した襟の溶けだし~
このブルゾンの洗い指定は見ての通り、ドライクリーニングにバツがついています。

ドライクリーニングが出来ない衣類の場合、油を落とすシミ抜き剤を安易に使うと使われている素材が溶け出す可能性があることを踏まえてシミ抜きをする必要があるんです。

今回はお客様はお怒り・・・ではなくどうやら怒りを通り越してあきれている状態でした。

塗料を塗った感そのままだしペンキを塗ったような質感・・・
上から絵具でも塗って隠しちゃおうって小学生並みの発想での補修にしか見えません。
この仕上がりにして1万円弱の代金がかかったそうです。

ペタペタに溶けだした襟の修復~他店で修復した襟の溶けだし~

他にも浜松で同じお店へ依頼したという相談を何件かお受けしているのですが、このお店はノークレームという条件で依頼を受けているらしく、お店へクレームがかけられないとお聞きしています。

この塗料を使っての色変えや、シミや汚れの隠蔽はダメでしょう・・・って思われるものもいくつか見ていますし、メーカーからこういう場所には使わないでくださいと言われている塗料が使われているものもあります。

今回は、おそらく大きな勘違いをして使われている塗料だと思います。
実際、これを使っての修復を教えてもらった業者も多いのではないかな?って心配もしていたことなので・・・

そのあたりも踏まえて、書いていきます。

繊維の状態の画像も撮っているので、当店がやり直しを受けない理由や、
こんな修復をしてはダメな理由、依頼したお客様が恥ずかしくて一度も着ていない理由も一目でわかるのではないかと思います。

繊維は生地の上から表面コーティングするように色づけられているモノもあれば、生地になる前段階の糸の状態で色付けられたり加工されたりしているモノもあります。

ペタペタに溶けだした襟の修復~他店で修復した襟の溶けだし~

この画像を見て頂ければ、糸の段階で色、加工したものを織り込んでいるのわかります。
私たちは修復する時、風合いをできる限り元の状態に近づけるよう、できる限り違和感がないように直していきます。

ゆうゆうでの色直し・傷直し方法、 質感変化などの解説はこちら

マイクロスコープ(220倍)で見てやっと繊維の織りがわかるほど緻密に織り込まれているため、この織りの中に塗料が入り込んだら取りようがなくなるんです。しかもドライクリーニングができない商品です。

修復するよりこんな状態にされたら取ることのほうが大変な作業になってしまうんです。
この状態にしておいてノークレームの条件出すってどうなんだろ・・・?

ペタペタに溶けだした襟の修復~他店で修復した襟の溶けだし~

しかもベタつきがあるだけでなく、あっちこっち剥がれてきてもいます。

この補修材は塩ビコートという名称で業者用として販売されていますが、塩化ビニルだから劣化しない!と勘違いされている方もいるのでは??

基本的に塩化ビニルに水性で溶かしているものはないんです。油性溶剤で溶かすことが出来るものです。
酢酸ビニルと塩化ビニルをエマルジョン化させたものが唯一の水性じゃないかな。

塩ビコートの中身の樹脂が何なのかはメーカー元から答えこそ頂けませんでしたが、
「この樹脂は加水分解も起こすし劣化してはがれてきたりもします」という事はメーカーもはっきり答えています。
つまり塩ビコートでコーティングしても、溶け出しもするし劣化もします。

劣化したり溶けだした塩化ビニルを補修する目的で作られたものですが、塩化ビニル自体は本来べたつきは出てこないはずです。

塩化ビニルで出来たもの・・・わかりやすい例をあげると、
土中に埋まっている灰色のプラスチックのような水道管は主に塩化ビニルを使って作られています。
50年程度は大丈夫と言われるものです。
これが1~2年で溶けたりベタついたりしたら使い物になりませんよね・・・。

ルイヴィトンのモノグラムやダミエ、エピも表面は塩化ビニルです。
年月が経つと可塑剤と呼ばれる軟化剤が抜けていくため硬くなっていきますね。
固くなって角が反り返ってるのなんかもありますね。

この硬さは軟化剤を入れてあげるとまた柔らかくなります。

ペタペタに溶けだした襟の修復~他店で修復した襟の溶けだし~

こちらは溶け出しはがれた部分の繊維アップ画像です。
真っ黒になっています。

この状態から、襟の黒ずみを作っていた皮脂がそのまま残った状態だとわかりました。
皮脂は油なので、残った状態にしておくだけで加工剤などが溶け出しやすいです。

さらに剥がしていくと・・・

ペタペタに溶けだした襟の修復~他店で修復した襟の溶けだし~

ペロンとはがれている部分が塗られた塗料です。
黒ずんでいる部分が皮脂により溶け出した部分、赤い部分は皮脂がついていない部分です。
汚れを落とさずに上に塗られた部分は溶け出していて、皮脂汚れがついていない部分は溶け出していません。
下地が溶け出し黒くなっている部分は上に乗った塗料が簡単に剝がれています。

ペタペタに溶けだした襟の修復~他店で修復した襟の溶けだし~

取れる分は取り切った状態です。
毎日朝30分~1時間くらいかけてペタペタ・・・ふきふき・・・
間を見ながら数時間かけて剥がして取り、ぺタつきを拭き取り、残っている皮脂も取り・・・と除去してきました。

適当な塗料を内側だけじゃなく襟の外側まで塗られているという・・・
少しやってうまくいかなければやめておけばいいのに、適当なことほど広範囲にやられるパターンがとても多いので、ほかのお店へ依頼した物の修復はお受けしていないんです。

最初からちゃんとやっていればこの作業必要ありませんから。

ペタペタに溶けだした襟の修復~他店で修復した襟の溶けだし~

繊維の目の中に入り込んでいる、取り切れない部分もあります。溶け出してきた部分のさらなる溶け出しや劣化を抑えるよう、剥がした後はコーティングしてペタつきを止めていきます。

バックの内側が溶け出してきた場合、内袋を取り付けて使えるようにしたりする補修もしたりしますが、この場合も溶けだしたペタつきを先に止めておかないと付けた内袋に浸透してしまいます。

襟の外側はペタペタはしているものの、簡単にはがし取れない状態になっているため、ペタつきをコーティングして止めてあります。

外側の上に少し黒く見えている部分も溶けだした部分。
クリーニング店ならわかると思うけど、首に当たる部分とその上側は髪の油が付いたり、上を向いた時に少しこすれたりするため、この部分のみ黒ずんできたり溶け出しが出てしまったりするもの結構あります。

ペタペタに溶けだした襟の修復~他店で修復した襟の溶けだし~

今回の補修はお客様がフードは使わないとの事で、フードの生地を利用して補修していきました。

その際、フードからは襟の大きさ分の平らな生地はとれないので、襟に縫い目が出る事、ボタン付近の溶け出しはないのでそのまま残すけど周りに生地の継ぎ目が出る事などをお客様にご説明し、ご了承頂いてから補修しています。

ペタペタに溶けだした襟の修復~他店で修復した襟の溶けだし~

いざフードを解体してみたら・・・フード部分はダウンではなくポリエステル綿が入っていました。
ダウンだと思っていたのでちょっとびっくりしましたが、これも解体してみないとわからない部分ですね。

フードは生地は本体と同じ生地を使っているので質感風合いも遜色なく修復出来ています。

改めてこうして記事にしてみると・・・溶け出し結構ひどいですね。
この状態にならないように予防できたはずですね。

ペタペタに溶けだした襟の修復~他店で修復した襟の溶けだし~

修復した襟の両面です。

外側は上の少し出ていた黒ずみ部分のみを同じ塗料で隠蔽すると、塗ったところと塗っていないところの差が大きく出てしまうため全体に塗ったんだと思いますが・・・

バックなど皮革製品でもほんの小さなシミや色落ちでも全体を塗装して風合いを変えてしまうといった事例をたくさん見てきています。

でも、繊維に対してもこの状態で塗りたくるのは初めて見ました。

ペタペタに溶けだした襟の修復~他店で修復した襟の溶けだし~

怒るのを通り越してあきれているのも状態を見たらわかります。
お電話では何を言われているのかよくわからなかったけど、これは口頭では説明できませんね。

汚れを落とさず上から塗料塗って隠されているなんてことわかりませんから。
今回お受けしたのはお客様が以前浜松に住んでいらしたということ(笑)
それと一番は電話だけではよくわからないから送っていただければ見させていただきますと伝え、実際に送ってもらったからです。

状態的には予想を遥かに上回る状態・・・
でも今回はせっかくお送りいただいたから補修しようということでお受けしています。

実際、難度と手間を考えると受けるより受けない方がいい仕事もあります。
受けることで仕事として成立しない事もあるんです。

まさしく今回もそんな仕事となりましたが・・・
クリーニング店ならまず汚れを落とすでしょう。
シミが落とせなくても変色や劣化の原因を落とすことも大切。
これ以上悪化しないように処理するのが優先です。

リフォーム店なら・・・例えシミ抜きが出来なくても今回の仕上がりと同程度の見た目に補修はできるでしょう。

汚れの上から塗料を塗ったりしなければここまでひどく溶けだしは出ていなかったと思いますし、納品した直後からみっともなくて使えない状態にもならなかったと思います。

金額に品質がついていっていないというより、代金頂けるレベルでの仕事にはなっていません。
勘違いしないで頂きたいのは、このお店のレベルやスキルが低いと言ってるわけではないんです。
こういうところでお店の考え方とか仕事に対する姿勢など、お店の本質が見えてくると思います。

このブログは同業の方も多くみられていると聞いていますので・・・

誰かに教わった事でもすべて自分の責任です。
一番怖いのは、今の時代、適当にその時ごまかせてもお客様は不審に思えば次のお店へ全国どこでも簡単に相談することができる時代です。

先日もこのシミは他店でどこへ依頼しても絶対に取れない!といわれたシミのついた服を持ってこられましたが、シミは綺麗に取れ、お客様はそのお店の対応にあきれながらとても喜んでいました。

当店で水洗いしたスーツをいつものお店へもっていったら、水洗いされていない!と言い切られたということもあります。
綺麗に仕上げることが出来ていれば、そのくらいわからないレベルに仕上がるということです。
上には必ず上がいますから・・・それと適当なことはすぐにわかってしまう時代だから・・・

技術を磨くのであればちゃんとした技術とスキルを持たないとバレてしまう時代です。
人に教わるものは、教わる講師のレベルがそのまま自分の力量となってきます。

講師のレベルが低ければ低く、高ければより高い技術を習得できます。
ブレのない理念と技術をもって教える講師は話を少し聞けばわかります。

このダウンを出した所と同じ業者に依頼したというお客様が相談に来て私に「これって詐欺ですよね?」と言われた事例も修復していますのでまた次回にでもご紹介しますが・・・

最近もそれを言ったら詐欺と同じだろって発言聞いています。

絶対に劣化しないとか・・・
こうして直せば何十年も愛用できるとか・・・
どこからの情報?ちゃんと検証した?エビデンスあるの??疑問は止みません。

当店が色直し、革など修復から人工皮革劣化の修復を始めた時は少なくとも静岡県では当店だけでした。
そこから数えても現在で15年。
何十年もの検証なんてできている訳が無いのです。

言われた、聞いた言葉を鵜呑みにしないで自分で確認しないと・・・

ノークレームを条件とされたらお客様からクレームがなくて当然です。
当店も保証はできないと受けすることはありますが、使える状態にならなければ代金は頂きません。

お客様にもダメになるかもしれないという覚悟して頂くのだから、ダメだったらどんなに手間かけたとしても代金は頂かないという覚悟を持って取り組んでいます。

お客様が覚悟をもって依頼してくださり、出来るか分からないもの、難しいものをやらせて頂けたことで当店の今の技術があります。

1万円かかって使い物にならない仕上がりだった服が他の店へ依頼したら満足できる仕上がりになる・・・

今回は絶対やってはいけないことをされていてあまりにもひどかったこと、この状態に代金を払っているお客様がとても気の毒だったこともあり、なんとか使える状態まで修復し、こうしてブログで事例を紹介しています。

こういった仕事に対する考え方は全てのお店でそれぞれ違ってきます。
悪い部分だけを見て、クリーニング店はどこも同じだと思われたら業界の信用まで失います。

インターネットで簡単に情報も手に入るし画像を撮って送れば見てもらえるし相談もできる時代です。

ブランド品や高級品はもちろん、お客様の思いのある服に対してこの直し方はしていいものではありません。

クリーニング店は直したものをまた洗う事も当然あります。
表から直したとしても、洗う時には表だけでなく、裏からも浸透します。
表だけが直っていても、洗うことに耐えられない状態では、加工したら洗えないということになってしまいます。

一度落とした信用は簡単に取り戻せませんのでご注意を。




 
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