ピリス シューベルト ピアノ・ソナタ第21番ほか(2011.7録音)

もう7年以上も経過するのかと、時の歩みの素早さに少々驚いた。
急激に朝晩が冷え込む中、横浜みなとみらいホールで聴いた、マリア・ジョアン・ピリスのシューベルトの、深層を抉る、優しさと懐かしさを不思議に思い出した。シューベルト晩年の孤高の作品が選曲されたあの一夜の、奇蹟のような演奏は、いまだに僕の記憶の奥底に消えることなく残っている。そう、あのとき、僕は彼女の演奏に「希望」を思った。

滔々と流れる大河のような、20分余りの第1楽章モルト・モデラートは、ピリスの心からの愛ある語り掛け。この囁きは、僕たちを幸せにする。そして、まるで即興演奏であるかのように、時々刻々と変化しながらも、自然の流れに任せた第2楽章アンダンテ・ソステヌートは、この録音でも健在。シューベルトの旋律のあまりの美しさ。短い第3楽章スケルツォの軽やかな飛翔を経て終楽章アレグロ・マ・ノン・トロッポは、実に広大な宇宙的規模の音響を獲得していて、同時に清澄な音色がことのほか素晴らしい。
最後のソナタを聴いていて、これはまさにブルックナーの構成原理に通じると思った。やはりブルックナーは尊敬するシューベルトを手本にしているのだ。

シューベルト:
・ピアノ・ソナタ第16番イ短調D845
・ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調D960
マリア・ジョアン・ピリス(ピアノ)(2011.7録音)

一方の、ルドルフ大公に献呈されたピアノ・ソナタ第16番イ短調は、第1楽章モデラートの幾分暗いながらシューベルトらしい確信に溢れた旋律が終ることを知らないかのように美しく奏でられる。また、変奏形式の第2楽章アンダンテ,ポコ・モッソの永遠。緩急の妙、強弱の対比のバランス美、どの瞬間もピリスの真骨頂だろう。第3楽章スケルツォは、哲学的な(?)思念にまみれた、野人的なダンスのよう(しかし、その踊りがまたシューベルト的で素晴らしく、ブルックナーはこのあたりの影響をも受けているのかもしれない)。
そして、終楽章ロンドは、軍隊行進曲のような堂々たる主題がいかにもシューベルト的で愛らしく、ピリスのピアノは何て心地良いのだろう。いつまでも続いてほしい。

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