リチャード・グード ショパン 幻想ポロネーズほか(1996&97録音)

おお、どのくらい月日がたったことか! どういうことだったか、わたしには分からないので、処置の取りようもありません。わたしが怠けているわけではありません。あなたがおられた時のように、わたしはあちこちへ出歩きません。夜も昼も一日じゅう自分の部屋で仕事をしているのです。ここを立つ前にある草稿(作品60、61、62)を仕上げることに集中しなければならないのです。わたしは冬は作曲できないのですから。あなたが立たれてから、あの《ソナタ》(作品58)を書いただけです。で今は、新しい《マズルカ》(作品59)を除いては、出版商に渡す作品が一つもありません。—ないと困るのです。
(1845年8月、ノアンにてワルシャワのルドヴィカ宛)
アーサー・ヘドレイ著/小松雄一郎訳「ショパンの手紙」(白水社)P348-349

何度聴いても、否、聴くたびにその素晴らしさに驚嘆させられるのが、リチャード・グードのショパン。ショパン晩年の作品と、故郷への哀愁と憧憬が刻印されるいくつかのマズルカを中心に構成されたこのアルバムは、それぞれオーソドックスな表現でありながら、力強い、真摯なショパンの面影が映し出される名演奏の宝庫と言って良いだろう(何より選曲の妙!)。時折、どうしても聴きたくなる。

今日はレッスンは一つしかありません(ロスチャイルド夫人の)、2つ取り消しにしました。ほかにすることがあったのです。わたしの新しい《マズルカ》(作品59)はベルリンのシュテルンで出版されました。ワルシャワでは楽譜類はライプチッヒから来るのですから、あなたがたのところに届くかどうかわかりません。これはだれにも献呈しておりません。《チェロ・ソナタ》(作品65)と《バルカロール》(作品60)に、まだ表題が決まっていないある曲(作品61)を仕上げてしまいたいと思っていますが、もう(レッスンが)殺到しはじめているので時間がとれるかどうか疑わしいのです。
(1845年12月12日金曜日、ワルシャワの家族宛)
~同上書P353

生活のための多忙さの中で、苦心して創り出された作品群の神々しさよ。これほどに凝縮された形式の中で、一切の無駄なく、魂の飛翔、永遠不滅の音楽を書き上げる奇蹟よ。

ショパン:
・ポロネーズ第7番変イ長調作品61「幻想」
・ノクターン第16番変ホ長調作品55-2
・マズルカ
―第7番へ短調作品7-3
―第29番変イ長調作品41-4
―第11番ホ短調作品17-2
―第10番変ロ長調作品17-1
―第13番イ短調作品17-4
・スケルツォ第4番ホ長調作品54
・舟歌嬰ヘ長調作品60
リチャード・グード(ピアノ)(1996.6&1997.6録音)

アルバムの劈頭と掉尾を飾る傑作2曲は僕の宝物。まったくスキのない、完全なるショパン。そして何より愛すべきマズルカたちがかくも自由に、かくも美しく弾ける様に僕は驚嘆する(絶妙な間合いとさりげないテンポ・ルバートの粋)。

ショパンのマズルカとドヴォルザークのスラヴ舞曲は、民謡素材を直接的に引用することなくその祖国の風土を喚起している。ショパンのマズルカのほとんどは都会的で垢抜けており、一見して生のままと思える音も洗練された様式によって裏付けられている。
(ハリス・ゴールドスミス/栗田洋訳)
WPCS-5094ライナーノーツ

ハリス・ゴールドスミスのマズルカ評が当を得ていて、膝を打つ。

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