昨日(1/21)の東京新聞夕刊の記事を読んで、つらつらと考えを巡らしたものでありまして。

記事の書き出し部分はこんなふうでありました。

人の心理効果を利用して望ましい行動を促す「ナッジ」と呼ばれる手法を施策に取り入れる自治体が増えている。

ここで言う「望ましい」とは「ナッジを使う側にとって」ということであって、

そも「ナッジ」の語源である「ちょいと肘で小突く」、日本語的には「背中を押す」てなところでしょうけれど、

仕掛ける側にとって都合のいい方向にヒトを動かすと考えますと、世の中にある数々の詐欺の類いなどは

みなこれでもって出来ているのであろうかと、うさん臭く思ったりするところです。

 

が、今回の新聞記事でこれを使う主体は自治体であるということですので、

あまりに悪意をもってみてはいけんのかもしれませんですが。

ともあれ、参考例として紹介されていたのは東京・八王子市が市民に出すお知らせハガキの文面でして、

新旧対比をすると、こんな具合になったようで。

(旧)今年度、(市の大腸がん検査を)受診された方には来年度、(検査キットを)ご自宅にお送りします。
(新)今年度、受診されないと来年度、ご自宅にお送りすることができません。

かように文言を変えたところ従来より受診率が上がったということで、

結果は上々、ナッジのおかげと話になるわけですけれど、これって言い方を変えただけではないような。

そもそも書き換えた方のような意図なのであれば、最初からそう書いておいてほしいところでして、

従来の言い回しでは、来年は送ってこないとは全く認識できないわけですから。

 

確かに新たな表現は少々きっぱり言い切る感がありますので、自治体としては市民に優しく丁寧にと

考えていたのかもしれません。されど、あまり婉曲表現ばかりでは伝わるものも伝わらないように思いますし、

反って違和感を抱くこともありますなあ。

 

公共施設のトイレでよく見かける貼り紙に「いつもきれいに使っていただき、ありがとうございます」というのが

ありますね(本当は「使っていただき」の部分は「使ってくださり」、「使ってくださいまして」でしょうけど)。

 

これも、なんだってこんな貼り紙があるのかと考えると、

「使用者が本当にきれいに使っていて心からお礼を述べたいのです」ということではないはず。

本音では「いつも汚してばかりで、どうしてきれいに使えないのかね…」と考えた結果と想像できるだけに

ここでの「ありがとう」には歯が浮いてしまう心地にもなろうというものです。

素直な性分ではないもので、どうにも嫌味だなねえと思ってしまったり(笑)。

 

ちなみに、新聞記事のお話とは別に「ナッジ」が効果的に機能した例として有名なのが

アムステルダム・スキポール空港の男性用トイレの事例だそうですな。

また、トイレの話か…となりますので、詳しくは検索でご覧いただきたいところですが、

ナッジによる誘導にみなまんまと嵌っているのだそうでありますよ。

 

自治体や企業にしてみれば、思ったような成果がでない何かしらに「ナッジ」の手法を取り入れて…と

考えるのでしょうけれど、先にもネガティブな言い方をしてしまいましたように、

どうもヒトの弱みに付け込んで…という気がしてしまうのですよね。

何かと裏を読まねば本当のところを量りかねるとは、何とも面倒な世の中であることか…。