それでは、恒例の感想を付させて頂きます。

まずは「特選」に…と思った句から。。。

今回は「秀逸」ということでご理解ください。

 

36.麦秋や開かれている寺の門    みなみ

掲句、「麦秋」という穣りの景色と、その先の山門が開かれている状態の景でした。すっきりした景の句であり、寺の門…から夏目漱石の「門」まで連想できました。「門」の主人公は家族のことで神経をすり減らし、休養と精神修養を兼ねて山門を叩き10日ほど座禅を組んだりするのですが、結局、悩みからも解放されずに終わってしまうというあらすじ。次の一節が小説を纏めている。『彼は門を通る人ではなかった。また門を通らないで済む人でもなかった。要するに、彼は門の下に立ち竦んで、日の暮れるのを待つべき不幸な人であった』。小説の中の時節は異なるものの「麦の秋」という季語が、ふとこの一節を思い出せてくれた。「開かれている寺の門」というフレーズが、誰でも通れるが、そこに何かを見つけられるかどうか…という啓発のようなものがあると自分には感じられました。「秀逸」にさせて頂いたのは、寺の門のことではありますが「山門」という言葉があるので、そちらを使っていたら申し分なし…と感じたからであります。型に拘ると文字数を考えるので仕方ないと言えばそうなのですが、型を変えても是非「山門」で推敲して頂ければと思った次第です。

岩壁の穂高連山夏兆す こちらはスッキリとした写生句でした。すぅっとこの景色に引き込まれる感じがしてよかったと思います。写生が巧いなぁと感心しました。

 

1.雨降りの日はそれなりに新茶古茶  笑い仮面

掲句、「それなりに」という措辞が季語「新茶古茶」にいい加減でかかっていると思いました。作者のご性格をよく表している一句と思いました。雛罌粟やあるいは夕暮れ症候群 こちらの句も「あるいは」という措辞の使い方が面白いなぁ…と思いましたが、季語「雛罌粟」の色に対し「夕暮れ症候群」が付き過ぎているように思えました。

 

3.にはたづみ降りたつ蝶の黒さかな  円路

蝶の黒さ…ですから「夏蝶・揚羽蝶」でしょう。「にはたずみ」に映える蝶のすっきりとした景が見えました。新緑や運休駅の声ノート 「運休駅の声ノート」にはどんなことが書かれていたんでしょう? 新緑の下を通り抜けて来て駅に着くと「運休」…。ノートがざっくばらんに置かれていて、そこにひと言書けるようになっていたという感じでしょうか? 造語のように感じられるフレーズと、そこにいっぱい情報を詰め込もうとしてるように感じられました。

 

5.雛罌粟や目覚めて不意の途中下車  森 器

掲句に惹かれたのは、自分も全く同じことをしでかしたことがあるので、そこに共感しました。JR宇都宮線に「久喜(くき)」「栗橋」と駅が続くのですが、大宮から乗って寝入ってしまい、ふと目覚めると人の影で隠された上に駅名の「く」の字が見えて、慌てて飛び降りたら、一駅手前で降りてしまった…ということをやらかしました。葉桜や異国語やまぬ労働者 よく最近見かけるようになった景ですね。この「異国語」の声の大きさと「労働者」の元気さが「葉桜」の季節に合っていると思いました。

 

8.若葉冷おもむろに踏み台昇降   粋ちゃん

今回1句だけでもご参加ありがとうございました。「おもむろに踏み台昇降」をしたのは、「若葉冷」だったからでしょうか? なんかその辺に因果を感じました。なんとなく足踏みであったり、掲句の感じで足を動かして血流をよくしたくなるときってありますよね。

 

9.夜半ひとり君と語らひ新茶汲む  享仙

「君」は、亡くなられた奥様のことでしょう。初夏の夜半に新茶を汲みながら、あたかも奥様が目の前にいるかのように思い出話を始める…作者の姿が目に浮かびました。選が入らなかったのは残念ですが、個人の私的俳句として墓前に供えるとか是非してあげてください。

 

17.代掻くや四季の初めの土の色   六鬼威

掲句、「土の色」の変わっている様子を捉えた発見があったところが良かったと思います。ただ「四季の初めの土の色」…という措辞、「代掻き」の季節なんだから「四季の初めの」…が単なる季語の繰り返しでもったいない…と思いました。それよりも土の色の具合をきちんと写生するか、「代掻き」の下に向かっている目線をもう少し上、遠景などに持っていかれた方が良いように思いました。夏の朝すは撮り鉄の連写音 ご本人がコメントに説明してくださいましたが、「撮り鉄」という現代の略語…(一昔前は「鉄道マニア」だったでしょうが)に「すは」なんてきどった古語をくっつけたところが個人的に飲めませんでした。何を撮っているのかは読者に勝手に想像させて「一眼レフの連写音」とカメラに注目させるか、ロマンスカーとか何かしら電車の特徴に注意を向けるか…そんな感じの方が俳句としての収まりがよくなるように思えました。ご一考ください。

 

19.薫風や客間に鳴らぬ蓄音機    日記

森さんも書かれてましたが、自分も巻頭を取られた句より、こちらの方が佇まい的に好きでした。ここは年齢的な(?)好みの問題でしょう。まず「蓄音機」が置かれている客間…と言えば、旧華族のお邸の客間、当然その先に緑の映える庭園があるお邸で、そこに風「薫風」を入れるという、穏やかな時間の流れ、風の流れを感じられて、そんなところが好きでした。卯の花や革靴で行く初バイト 皆さん感想を書かれていたのを読まさせて頂きましたが履きなれない「革靴」と「初バイト」の新鮮さでどのくらいの青年か、若々しい清々しい人物の様子が見事に描かれてました。

 
本日はここまで。
それでは後半に続きます。