Y美さんとは十年位前に知り合った間柄ですが、非常に人間性に富んだ知性の方で私の創作においては随分と影響を受けているものです。

 

 昨年の夏に立て続けに二回会い、今年の二月にも会って話をした。昨年の夏に立て続けに二回会った際には、短い期間に最愛の両親を続けて亡くし、そのうえでかつ一人娘を嫁に出すことになった。旦那との関係は仲は悪くないが、色々な意味で昔と違って距離があると近況報告をしていたものです。なんだか最近身体から空気が抜けたような気がして虚脱の憂いと寂しさが入り混じって、以前のような元気がないとも語っていたものです。

 

 昨年の炎天下、生ビールを飲みながら、Y美さんは自分が東北の観光都市から東京の大学に進学するため上京してきた当時の想い出を話していたものです。入学式には両親が付き添い、更に下宿先のアパートまで探してくれて、当時のアパートの前には最寄り駅までへと続く長い坂道があったそうですが、最後、両親がその坂道を下って帰っていく後姿を今でもはっきり覚えていると語っていたものです。


 そんな話をしながら、最近、高校時代に一瞬の邂逅があった男子高校生の事が気になって仕方ないとも語っていたわけです。その男子高校生とは一度デートをしたきりの関係であったが、なぜか当時の両親はY美さんから語られるその男子高校生とのほのぼのとした関係について意外なくらい寛大だったのが今でも不思議だったと言うわけです。

 

 そして今年の二月、またY美さんと銀座で会食の機会を持った私はとても意外な話を聞かされることになるのです。

 

 「あのさぁ、夏に話していたね、45年前に好きなった高校時代の彼ね、私、この間、彼の実家に電話してみたんだよね。」

 

 真顔で話す彼女の顔を見て、私は仰天してしまったものです。

 

 「電話って・・・。だって、45年間も会っていないわけですよね。なんで電話番号まで知っているのですか。」

 

 なぜ45年間も前の彼の実家の電話番号を知っていたのか、それには答えぬ彼女でしたが、一人娘が出て行ったばかりの空の巣症候群で元気のないはずの彼女にしては信じられないような行動力に驚いてしまった私でした。

 

 「それでどうなったのですか。」

 

 「最初、彼の弟さんが出たんだよね。そうしたら兄はその後結婚して近場で暮らしていると言っていたわ。それで、私の方で事情を説明してね、とても懐かしくなったので電話をしてしまいました。よろしかったら、私の携帯電話に連絡をくださいと伝えて切ったんだよね。」

 

 眼が真剣なY美さんに、私は少し困ったものを感じました。私より年上の先輩で知性に満ちた常識人の彼女が、なぜそんな奇妙な事をするのか。そもそも何が目的なんだろうか、もしその彼と再会できたとして何をしたいというのか。不倫・・・?

 

 いずれにしても、私は彼女の真剣というか当たり前の事をしたと言わんばかりの瞳の中に、一つの感想を抱いたのです。

 

 狂ってる・・・。

 

 彼女からの話は続きます。

 

 「それでさ、翌日だったかな、翌々日だったかな。その彼から、私の携帯に連絡があったんだよね。」

 

 

 

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