ヘンデルの最初の宗教的オラトリオとなった「復活」(最初のオラトリオ「時と悟りの勝利」に続く2作目)。コープマン指揮のアムステルダム・バロック管弦楽団。初演時の1708年、時の教皇は女性歌手を使ったことを批難しました。コープマン盤では、マグダラのマリアにナンシー・アージェンタ。天使にバルバラ・シュリック、クレオーフェ(クレオハのマリア)にギュメット・ロランスの女性陣。聖ヨハネにギィ・ド・メイ、ルチフェロにクラウス・メルテンスを起用しています。90年録音。「アグリッピナ」、「リナルド」に素材が転用されたように、オラトリオではあっても、長いアリアが中心のオペラ的な作品です。ヘンデルはロンドンに渡り、歌劇の分野で成功を収め、その基盤に王室音楽アカデミーを置きました。経営がずさんであったために、音楽アカデミーは倒産するのですが、転身をはかり歌劇での手法をオラトリオに転用し、再び栄光をつかむことになります。1708年という「復活」の上演の年は渡英以前、イタリアで各地をまわっていた時期の作品。このとき、すでに歌劇への志向を強くみせているわけです。渡英が25歳の1710年。イタリアをまわっていた若きヘンデルの様式は、ローマでのコレッリの器楽の堅固な構成と、イタリア歌劇での旋律を身につけるところにありました。ローマでは歌劇上映が禁止されていたために、オラトリオが題材としてあがったという事情に拠ります。教皇の女性歌手起用の批難は、保守的な上演形態という背景をともなっていました。伝記にもわずかしか触れられないイタリア時代。有名な逸話としてスカルラッティとの鍵盤楽器の競演で、チェンバロはスカルラッティに軍配があがり、オルガンではヘンデルが強い印象を与えたというものです。後年のオルガン協奏曲、幕間での合奏協奏曲をはじめ、バッハでは特徴的であった対位法も使用されますが、複層的ではありません。よりモノフォニックで旋律をはじめ、太い線を打ち出す方向に才がありました。ロンドンという海千山千、国際都市での才能が多く集まる中、頭角をあらわしていった才能。旅を為し、さまざまな様式を吸収し、バッハ以上に遥かに国際人でした。

「復活」を聞くものは、転用された素材の厳選を聞くことを楽しみに見出します。バッハにあった宗教的感興はヘンデルには希薄で、オラトリオとしても歌劇的。イエスの受難から復活を描きます。題材が宗教的というだけで、劇性をもった作品。管弦楽の編成も贅美が尽くされ大編成なものとなっています。コープマンの覇気は、活力があり生命感があるもの。音楽のうちにこうした要素を見出すのは、コープマンらしい表出です。

 


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