2008年録音。ピリスのショパン、アルバム。ピアノ・ソナタ第3番、ゴムツィアコフのチェロを加えてのチェロ・ソナタという大曲二つに加え、練習曲、夜想曲、マズルカ、ワルツから数編、幻想ポロネーズを収録しています。10代、ワルシャワにあって、すでに才能を開花させていたショパン。このアルバムは基本的に作品番号順に展開していきますが、練習曲はより広い世界に活躍の場を広げつつあった青年期の作品です。当盤の作品25の第7曲のときには作品10の練習曲、2曲のピアノ協奏曲という大曲がありました。シューマンが「諸君、帽子をとりたまえ!天才だ」としたのは作品2のモーツァルトのドン・ジョヴァンニから主題をとっての変奏曲でした。ここにはピアノ以外に管弦楽が加わります。生涯を通じて、ショパンはほとんどの作品がピアノの独奏曲です。チェロ・ソナタもピアノ以外の楽器が加わるところ。作品3はチェロとピアノのための序奏と華麗なるポロネーズがあり、ピアノ三重奏曲ほか、協奏的な作品、歌曲といった諸編がピアノ独奏作品以外の作品があるにすぎません。ショパンの音楽はピアノ独奏のうちに完結します。最初は管弦楽を含め、さまざまな楽器との共存の中、響きを模索していましたが、ピアノという楽器の探求に心を向け、次第にその音楽の純度を高めていったのでした。ピアノ以外の要素は異分子となっていくのですが、チェロソナタは当盤の最後、作品65、最後の室内楽として位置します。ピアノとチェロのための作品も3作品。ここにはマイアベーアの主題によるチェロとピアノのための協奏的大二重奏曲という先行する作品もあります。異例ともいえるチェロの活用は、同時代のチェリスト、フランショームの存在がありました。ショパンの伝記とともに残るフランショームの名前も、その残した室内楽作品の録音などで触れることができます。ショパンの置かれていた時代。楽譜の検証だけではなく、同時代の音楽からもショパン検証につとめなくてはいけません。フランショーム作品もまたロマンに置かれ、ヴィルトゥオーソタイプの詩情をたたえるものでした。ショパンのチェロソナタの個性的なものはピアノパートにあります。縦横に雄弁なピアノが性能を発揮するのはいつもの通り。そして、チェロもまた雄弁に技巧を発揮し、室内楽の共演としても異例の作品になっているのは注目すべき点です。作曲は難儀し、おそらくフランショームの助言も入れられてチェロの技巧にも踏み入ることになりました。新しい響きを模索し試行が行われていたのです。ヴァイオリン・ソナタも構想され、スケッチが残ります。作品のもつ晦渋さは、芸術的な志向からくるもので、ショパンの求めていた音楽がピアノだけでなかったことがうかがえるものです。
 ピリスを中心にめぐる当盤もまたチェロの共演が加わり、現代に生きるピアノとの共存がはかられています。ショパンの音楽が、その時代でいかにユニークだったか。使用楽器をはじめ楽器もまた発展の途上にありました。ピアノを学ぶ際に、ショパンを通し遥かに先行するバッハに触れ、ピアノの音楽が発展する流れをとらえていくことになります。当盤のうちに、室内楽の大成としてのチェロソナタを交えているのは、ショパンに続く音楽をとらえることでもあります。

 


人気ブログランキング