最後に

僕はこの一年間をかけて、母のこと、父のこと、過去のことを書くつもりだった。
しかし、月日とは偉大なもので数ヶ月もするとあの大きな悲しみが無くなりいつしか普通に暮らせるようになっていた。

母を忘れたわけでもなく、父を忘れたわけでもない。
そして、フィリピンに居たあの四年間はきっと僕の生涯で忘れられないほどの思い出であり、一生涯で一番幸せな時期だったと思う。
思えば、家族という概念の元で幸せに過ごしていたのはあの時が最初で最後だった気がする。

父が死んで母と弟と暮らしていた時期も楽しかった。楽しかったけれど、僕は父が居たあの頃が一番家族という感じがしているのだ。
なんというか、父が当たり前にいるという感覚が僕には無いからあのころに幻想を抱いていたに違いない。
家屋四人で一緒に食事をするという事がどれだけ幸せであるか。当たり前に家族が居る人にはきっと分からない感覚だと思う。だって、僕には当たり前に家族が居るという感覚が分からないからだ。

そして、その後母と弟と三人で暮らした。この暮らしは永遠に続くものだと思っていた。
それだけ、僕にとっては普通の事であり幸せな事だった。沢山怒られたりもしたけど、思い返すと不思議なもので幸せだった日々ばかりが思い出される。

僕はこの幸せが永遠に続くと思いつつも、父のようにある日突然母が亡くなってしまうかもしれないと考えることもあった。
それが現実になったのがこの本である。
僕は今でも、この本を手にとって頁をめくると涙が出てくる。今、この文章を書いていても涙がとめどなくあふれているのだ。

ただ、この涙が母の死に対する悲しみなのか、僕自身が母に取り残された悲しみで流しているのか分からない。僕は母とは離れて暮らしていたにもかかわらず、母という存在は僕の人生の大部分を占めていた気がする。

悲しいことが多い本だけど、僕はいつか家族を持った時にもう一度この本を読み返したいと思ってる。
そして、その時は自分が幸せになったと実感したいと思っている。
それまで、この悲しい本はそばにおいておこうと思う。

男は約束を守るもんだ！

日本ではファミコンというものがはやってた。
僕は一時帰国をしてそれを知った。

従兄弟たちがドラゴンクエストというゲームをしていて見てて本当に楽しそうだった。
だから、僕もファミコンが欲しいとお父さんに頼んだんだ。

フィリピンに帰ってから早速ファミコンを買いに行った。
今思えば、お父さんもファミコンってものにとても興味があったと思う。だから、すんなり買ってくれたんじゃないかな？

まぁ、何はともれ僕はファミコンを買ってもらった。買ってもらったソフトはもちろんドラゴンクエストだ。しかも２！
買ってもらった場所はなんとなく雰囲気だけ覚えてる。凄く暑かった。
フィリピンでは買い物できる場所が限られている。だから、ファミコンひとつ買うのにも車で遠くまで行かなければならない。

さて、ファミコンは買っても取り付けは出来ないから取り付けはお店の人に頼んだ。
その時にファミコンも一緒に持ってきてくれるとの事。そして、取り付けに来るのは今日だそうだ。


で、僕も弟もファミコンが来るのが待ち遠しかった。
日本で従兄弟に見せてもらったあの感動が家で出来るなんて最高だと思ってた。

・・・でも、ファミコンは来なかった。
僕らは寝る時間になった。


僕らは今日ファミコンが出来るという喜びを奪われて、悲しくベッドに入った。弟とお母さんと一緒に広いベッドに入った。うろ覚えだけど、このベッドは本当に広かった。僕が小さかっただけかもしれないけれど・・・。
部屋の半分はベッドだったと思う。

僕らは良くこのベッドでじゃれていた。うろ覚えだけど、寝る前は僕と弟とお母さんでじゃれあっていた気がする。そして、それはとても至福な瞬間だったと思うんだ。
僕にとってもお母さんにとっても。
（弟は覚えてないかもしれない。）

蛇足だけど、僕の弟は小さい頃は良く僕になついていた。休日の朝は僕よりも早く起きて、家のプールに僕を誘ってた。今考えると、恐ろしく豪華な環境だった。

話を戻すけれど、僕はベッドで寝に入っていた。
そんな中だった。

ぴ～んぽーん
（実際はブザー音だった。）

と、家のブザーがなった。僕は胸が高鳴るのを感じた。そう、ファミコンが来たのだ。そのフィリピンのおじさんは颯爽とやってきてファミコンとテレビをくっつけてくれた。
そして

「男は約束を守るもんだぜ！」

と僕に言って去っていった。（きっとお父さんが和訳してくれたのだと思う。僕は英語が出来なかったから。）
僕は未だにこの事を覚えている。


ちなみに・・・
この後、僕はファミコンをやった。弟は隣で見ていた。
そして、お父さんが興味津々と見ていたのを覚えている。
そして・・・

その後お母さんが

「あんたたち、いったい何時までやってるの！寝なさい！」

と鬼のような形相で怒ったことを覚えてる。

遺産

今日朝起きたら、お母さんの事が頭に浮かんだ。
なんだろう。特に何かということは無いんだけど、、、

とにかく、悲しいとか嬉しいとかそういう感情も無くお母さんの事を考えていた。
そう考えていたらインターホンが鳴った。
このインターホンは遺産を全て揃ったと言う連絡なのだ。


僕は、お母さんが死んでから遺産を受け取った。
その時に思ったのが、「人が死ぬとこんなにお金が動くんだ。」という事。
このお金を使っても人は生き返らないという事。

なんだか悲しくなった。


でも、まぁ、さておき、、、
これから弟としこりが無いように遺産相続します。