そんなわけ

わが夫(英国人)は

お化けとか幽霊とか

怨霊とか呪いとかの

類(たぐい)を

今一つ信じていない

人間なのですが

・・・いや私もそういうことを

信じているか

信じていないかで言ったら

それほど

信じてはいないんですが・・・

 

でも例えば私がこれまで

『自分は幽霊を一度も

見たことがないから』

という理由で

幽霊を信じないなら

世の中の多くの

科学的事象を私は何故

信じているんだという話にもなり

まあそれはいいんです。

 

なお厳密に言えばわが夫は

過去に『幽霊的なもの』を

見たり感じたり

あまつさえそうした存在と

交流した様子もあるんです、

ただそういう経験をしながら

なお『悪意ある心霊』の

存在には屈しないというか・・・

 

ともあれそんな夫が唯一

『理由もないけど何だか

怖いから嫌』と忌避した

不動産物件がありました。

 

それは大型道路から

少し離れた場所にある家で

周囲を大きな庭に囲まれていて

敷地内には豪華な温室もある。

 

現所有者はそこで夫婦して

民宿のようなことをやっていて

「妻はネイルサロンも

やっているんですよ」とは

案内をしてくれた

現所有者男性の言。

 

庭も家も良く手入れされていて

民宿をやっているだけあって

ベッドリネンや食器なども

ちょっと洒落たもので揃えてあって

ただちょっと我々には

全体の作りがお洒落過ぎるかな、と

考えつつお礼を言って帰宅。

 

帰り道でわが夫は

「・・・あの家、どう思いました?」

 

「悪くない家だと思うけど

我々向けじゃないな。

君はどう思った?」

 

「僕は・・・僕はね、あそこに

なんだかとても

『よくないもの』を感じました」

 

「・・・『よくないもの』って何?」

 

「自分でもよくは

わからないんですが・・・

庭や家を見て回る間

ずっと何かが僕に

『ここは駄目、ここは駄目』って

言ってきているような・・・

僕、変なことを言っていますよね」

 

「いや、直感というのは

割と大事なものだからな、

でも不思議なのはあの家の

いったい何が君にそんな

悪い印象を与えたんだろうな。

案内してくれた人の

人当たりもよかったし、

庭も家も特に

悪い点はなかったろう」

 

「そこなんですよ。

僕もずっと『ここが駄目、と

言える点は全くないのに

どうしてこんなに

この家は嫌なんだろう』って

考えていたんです」

 

「面白いな、何だろうな、

あの家の広さや

周辺の田舎ぶりを

私が嫌がるならまだわかるが

君はそういうところ

まったく気にしないし

むしろそういうの、好きだろ」

 

「・・・案内をしてくれた男の人が

『僕の妻が』『僕の妻が』って

何度も言っていましたけど、

そのことについて

君はどう思いましたか?」

 

「別にどうも思わなかったが?」

 

「妻の存在を強調する割に

妻の存在感は

あの家になかったですよね」

 

「いや、だからそれは今日

たまたま奥さんは

不在だったんだろ?

町に買い物にでも

出かけていたんじゃないか?」

 

「あの人の言う『僕の妻』って

本当に存在していると思います?」

 

「・・・奥さん本人には

今日は会わなかったが

奥さんの写真らしきものは

そこここにあったし、そうだ、

ネイルサロンもあったろ、

あれは奥さんの仕事場だろ」

 

「僕、すごく変なことを言いますけど」

 

「うん」

 

「あの案内してくれた

男の人のこと、僕は後半

『この人は奥さんを殺したんだ、

この人の奥さんは

この人に殺されたんだ』って

ずっと思っていたんです」

 

いきなり何だ!根拠もなしに!」

 

「わからないんです!

でもずっと頭の中で

そういう声がしていて

・・・何なんでしょうね、

あの人、話していて全然

悪い感じはしない人だったし、

家も庭も本来なら

僕好みなはずなんですよ、

特にあの温室。でも何故か

あの温室もすごく嫌な感じがして」

 

「ああ、じゃあたぶんあの人は

奥さんを殺した後に

温室の下に埋めたんだよ」

 

「・・・妻ちゃん!きっとそれです!」

 

「納得するな!今のは

私の悪い冗談で

君は明るく笑い飛ばすか

私をたしなめるべきなんだ!」

 

「妻ちゃん、あの家は

止めてくださいね!」

 

「頼まれなくても絶対嫌だわ!」

 

・・・そんなわけで

迷信とは無縁のわが夫も

時には説明不可能な理由で

不動産物件を怖がることもある、

というお話でございました。

 

 

しかしいまだにあの時夫が

何故あそこまで

あの家を嫌がったのかは

謎なんでございますよね。

 

その後特に刑事事件的な

お話も聞こえてきてはおりません。

 

・・・不思議です。

 

 

私はこの家、別に

嫌な感じは

しなかったんですよね

 

特に好きになりも

しませんでしたけど

 

人の感覚というのは

不思議なものでございます

 

過去に『理由なく嫌な場所・家』を

経験したことがあるアナタも

そういう経験とは無縁なあなたも

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