陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

おフランスを楽しむ映画「巴里の屋根の下」

2021-10-13 | 映画──社会派・青春・恋愛

東京五輪2020がひとまず終了し、次なる舞台はフランスの首都パリ。2024年ですから、あと3年後。

フランスのマクロン大統領は親日派でもあるようですが、日本の有名漫画家に面会を希望されたとか。フランスでは毎年、日本のサブカル文化を紹介する博覧会が催されているようです。日本からすれば、フランスのほうがおしゃれで憧れの花の都のイメージ。明治大正期には多くの芸術家が留学先に選んだくらいです。

パリというのは映画の舞台にすればすばらしい街。
とくに筋書きはいらずにただ、そこにいきる人間の人情を映しただけでもひとつのドラマになってしまう。
そう思ったのが1930年の映画「巴里の屋根の下」

巴里の屋根の下 [DVD] FRT-173''
巴里の屋根の下 [DVD] FRT-173Amazonで詳しく見る by G-Tools



パリの街角でストリートミュージシャンとして暮らすアルベールは、陽気でお人好し。友人の露天商ルイとともに、居酒屋で魅力的な娘ポーラにひと目惚れ。
ポーラは街の不良者のボス、フレッドの誘いに乗って、ダンスを踊ってしまう。だが、強引なフレッドに嫌気がさして帰宅するものの、アパートの鍵を奪われていたことに気づき立ち往生。
彼女を認めて自室に泊めてやったのは、アルベールだった。ふたりの仲は急速に深まっていく。が、知り合いのスリの男のせいで濡れ衣をかぶせられたアルベールが逮捕される。
釈放されたアルベールが見たのは、親友のルイとすっかり恋人気分のポーラだった…。

筋書きとしては、至極単純な、ひとりの女を巡って男どもが繰り広げる恋愛ゲーム。けっきょく、誰が彼女をものにするか、というところしかおもしろみがなし。
主人公のアルベールは終始かわいそうでまったくの道化役。結婚まで誓った仲なのに、新しい恋人になびいてしまったポーラの尻軽さに憤懣やる方なし。アルベールが窃盗などするわけがない、と信じられなかったのでしょうか。

筋書きやヒロインの性格にはまったく共感できません。が、トーキー映画美学の原点とされた下町人情話の傑作と評されています。むしろ、おもしろいのは話の外縁にいるアパートの住人たちでしょうか。
アルベールの求愛を受けるか、拒むか、はっきりせず階段で立ち往生している優柔不断なポーラに対し、「どっちなんだ」とつっこむ男など、まさに痛快。視聴者の声を代弁していますよね。

映像表現の手腕としてはたしかにおもしろく、人の足や夜道に落ちる影を強調したり、覗き見しているような感覚を覚えるフレーミングは興味深い。
決闘シーンで、汽車の黒い煙に視界が揺らぎ、焦らせるようなあの機関車の音がBGMとなっているあたりは、奇妙なセンスを感じさせますね。
そして、冒頭で歌われる「巴里の屋根の下~」というフレーズの続く歌の歌詞がなんとも、いえない。最初と最後ではおなじ歌でも、アルベールの調子で違う響きに聞こえてくるからふしぎ。

監督は名匠ルネ・クレール。
ジャック・フェデー、ジャン・ルノワール、ジュリアン・デュヴィヴィエ、マルセル・カルネとともに、フランス古典映画ビッグ5の一人。

(2009年12月7日視聴)


この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【序】神無月の巫女二次創作... | TOP | 面接官が期待をかけた人材ほ... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 映画──社会派・青春・恋愛